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カイカイとつばめ 第3話

「お子さん生まれたのに結婚せずに、引き取ったということですか?」
いやいや、そんなんちゃうし。あのヤロー、この話をばらすから、オレが集中砲火をうけるはめになったじゃないか。
「実は、知り合いの女性が亡くなって、そのお子さんをオレが引き取って、今に至るって感じです。」
「ええ~、いくら知り合いっていっても、お子さんを引き取るなんてできないですよぉ。」
「親戚とかいたんじゃないですか?」
「ええ、まあ、いましたけど。」
「それなのに、引き取るだなんて、すごすぎます。」
そうなのか、そんなことないだろ。元々、つばめとはほとんど家族みたいなものだったからな。

「お子さんは何歳なんですか?」
「ああ、10歳、小学4年生だよ。」
「嫌がったりしませんか?」
「今のところは、そんなことはないよ。」
「きっと、育て方がいいんですね。」
ばっきゃろ~、オレだけ、質問の嵐だろ。変に振るからだ。

 かなり長い間、その話で沸いた。まあだけど、これで2次会とかに行かんで済みそうだ。
「じゃ、そろそろオレ失礼しますね。」
「お子さん、待ってますもんね。」
「あの、連絡先だけ、交換しません?」
ということで、4人のうち、2人と交換することになった。あとは、残った3人に任せて、オレは帰途についた。

 途中でコンビニのスィーツを買って、帰った。
「ただいま。」
「カイカイ、お帰り~。」
「ご飯、ちゃんと食べた?」
「食べたよ。」
「じゃ、これ、食後のデザートだ。」
「やった~、待ってました~。」
「お皿とスプーン持っておいで。」
「は~い。」
つばめとのこんなひとときが、いい感じだ。

「だけどさ、カイカイが飲みにいくなんて久しぶりじゃない?」
「そうだな。もっと、行っていい?」
「だめ。早く帰ってこないと、つばめが淋しいじゃん。」
「そっか、じゃ、飲むのは家だな。」
「ビール1本なら許してあげる。」
「厳しいなあ。」
「当たり前よ、カイカイがいなくなったら、私困っちゃうもん。」
そんな簡単に死ぬか。でも、そんなつばめとの会話も楽しいもんだ。

 しばらくして、オレのスマホに連絡が入った。先日の合コンの女性のひとりからだ。
「今度、休みに一緒にお食事でもいきませんか?」
だから、オレは子持ちなんだって。
「娘と遊ぶ約束があるので。」
「じゃ、私もご一緒させて頂いて、いいですか?」
絶対、物好きだ。何を好き好んで子連れのオレと会いたいだなんて、おかしいだろ。どうしようか。つばめに相談してみるか。そうすると、合コンだったのがばれるし、困ったな。

「今回はごめんなさい。」
「じゃぁ、いつならいいですか?」
しつこいな。あきらめること、知らんのかな。
「申し訳ないけど、娘がまだその気になってなくて。」
「そうなんですか。わかりました。」
ようやく、わかってくれたか。

 だけど、その人だけではなかった。
「あの、先日お会いしました山田です。今度、一度、会って頂けませんか?」
おいおい、どうなっているんだよ。オレ以外は、全員独身の単身だろ。オレだけ、子持ちなんだけど。
「娘との時間があるんで、ごめんなさい。」
「私にも会わせて下さい。」
だめだって言ってるのに。どうすっかなぁ。一度、つばめにも聞いてみるか。

「なあ、オレが彼女つくったら、つばめはどう思う?」
「絶対、だめに決まってるじゃん。私がカイカイのお嫁さんになるんだから。」
「ずっと前からそう言ってるもんな。」
「まさか、好きな人できたの?」
「いや、そんなことないんだけど、オレのこと、いいっていう人がいるんだ。」
「カイカイはカッコいいから、寄ってくるのよ。」
「そうか。」
「でも、絶対だめ。浮気は許さないからね。」
「そうくるか。」
「当たり前よ。」
しかし、まだ小4だというのに、ませてるね。オレ自身、彼女が欲しいという気もあまりないし、つばめとの生活の方が楽しいっちゃ、楽しく感じてる。まあ、そういうことで、山田さんにもお断りを入れておいた。

「ピンポーン。」
「誰かな?つばめ、出てくる。」
「ああ、頼むよ。」
だけど、しばらくしても、つばめが戻ってこない。オレが玄関に行ってみると、つばめが固まっている。なんと、山田さんがいた。
「ああ、北山さん、来ちゃいました。つばめちゃんって言うのね、かわいい。」
「・・・」
完全につばめの顔は、怒ってる。

「この人、誰?」
「オレの知り合いの山田さんだ。」
「知り合い?」
「そうよ、おとうさんのお友達。上がってもいい?」
「どうぞ。」
仕方ないやん。追い出すわけにもいかんし。
「ほんとにシングルなんですね。」
うそだと思ってたんかい。

オレはリビングのテーブルへ案内した。
「なんか、つばめちゃんの趣味って感じですね。」
「まあ、そうだね。」
「今日はごめんなさい、突然来ちゃって。」
「なら、帰ってよ。」
つばめが小さな声で言った。こら、そんなこと言うな。

「でも一戸建てだなんて、いいですね。」
「ボロ屋だけどね。」
「きれいにリフォームしてますね。」
つばめは、完全にオレとつばめのテリトリーに入ってきた、怪獣を見るのかのような目をしてる。オレはお茶とお菓子を出して、一応もてなした。それが悪かったのか、結局2時間ほど、いて帰って行った。

「何、あれ?」
「だから、オレの友達だって。」
「あんなの、来させないで。」
「そんな言い方、ないぞ。」
「私、気に入らない。」
「わかったよ、来ないように言っておくよ。」
「ほんとよ。」
「ああ。」
こりゃ、ほんとに女の友達と遊べないな。と言っても、オレにはそんなのいなかったっけ。

 すると、すぐに会社でそんな話になった。
「北山さん、断ったんですか?」
「へっ?なんのこと?」
「この前の合コンですよ。」
「ああ、ちょっと、フィーリングが合わないかなって思ってね。」
「じゃ、オレ、行ってもいいですよね。」
「おお、頑張れよ。」
「ありがとうっす。」

 しばらくして、同僚の近藤からこんな話を聞いた。
「北山さん、変な噂が広がってますよ。」
「えっ、どういうこと?」
「こんなこと言ってもいいのかな。」
「どんな話なん?」
「北山さんはロリコンなんですか?」
「あほな。そんなことないで。」
「ですよね。」

 いったいどこからそんな噂が広がっているんだ?オレがつばめを溺愛していると思われているんだろうか。溺愛なんて言葉が悪いんで、オレとしては昔からずっと一緒だったし、今はオレの娘なんだ。だから、ロリコンだなんて、口の悪いヤツがいたもんだ。まあ、そんなことには動じないオレは、ほっておいたらいつの間にか、そんな話しも薄れていってしまったみたいだ。

 つばめの小学校は何かと父兄が参加することが多い。父兄参観なんかは見に行くだけだから、まだいいけど、PTAの集まりなんかは、ほとんどは女性だから、何かと面倒臭い。
「カイカイ、ごめんね、いろいろと出てもらって。」
小学生が気にすることかよ。
「そんなこと気にすんなって、お父さんなんだからな。」
「私はうれしいけど・・・」
「だったら、気にすんなよ。」
「そっかな。」
「つばめは友達と遊んでおいで。」
「わかった。」
「だけど、宿題、忘れんなよ。」
「あとで、わかんないとこ、教えてね。」
「まかせておきな。」
まあ、オレがシングルで母親が病死したということで、みんなが同情してくれて、あんまり、PTA関係の仕事はしなくて済んだ。

(つづく)

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