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オッド・アイ 第1話

 この世には、わからないことがある。オレはそんなことにわからないことに巻き込まれることになった。

 オレは上条レイ。

 どこの国の人だか知らないが、親の片割れが外国人だそうだ。だから名前もカタカナ名なんだ。普通にハーフに見えるし、純日本人じゃない。目の色が黒色と茶色というのも、かなり周りの人から興味深く見られてしまう。普通の日本人は、みんな両目とも黒か、茶色っぽいのが普通だ。そんな中にいるから、オレはいつだって異端児だ。

 それに、誰からの支援だかわからないけど、オレは大学に通っている。オレの銀行口座にはいつだって、必要な金額が入っている。そのおかげで、何不自由なく暮らせているし、大学で勉強できている。

「なあ、上条、今から飲みにいこうぜ。」
「オーケー。」
友人の木村は、夕方になると必ずこう言う。飲むの好きなヤローだぜ。

 特に、何を勉強したいということもないオレは、経済学部の3年だ。悪友の木村と大石といつもつるんで飲みに行くことが多い。まあだいたい女の話ばかりだ。
「この前さ、外語の食堂で、可愛い子見つけたんだ。」
「お前の趣味はあてにならんからのう。」
「いや、今回はお前らも絶対可愛いと思うはずだ。」
「ほんとか?」
「違ったら、ランチおごりな。」
「おう、かまわないぜ。」
と、まあ、こんな感じだ。オレを含め、3人とも彼女はおらん。3人とも多分美形ではないからだ。少なくともオレはそう思っている。

 飲んだ帰りはたいがい、コンビニ寄って、大石んとこに転がり込む。そこから、一晩ワイワイするのだ。で、翌日はそのまま大学へ行って、授業中はお昼寝タイムだ。なんて、いい加減な生活をしているんだ、オレたちは。そろそろ、就職も考えないといけないんで、こんな生活を改めないととは、頭の片隅にあるんだけどな。なかなか、変わらん。

 男の多い学部だけに、同じ学部の女友達は一人もおらん。だけど、木村の高校時代のクラスメートの女の子が、文学部におるんで、たまに女の子としゃべる機会があるのは、オレたちの楽しみのひとつだ。まったく知らない子らに、しゃべりかけるのは敷居が高い。こればっかりは、木村に感謝だ。

「また、3×3で飲みに行くど~。」
「おお、いいねぇ。」
「じゃ、決まりな。」
ということで、久しぶりに飲みにというか、食事しに行くというか、とりあえず、女の子たちとワイワイできる。今回は彼女たちの好みで、イタリアンでということになったもんで、ビール飲みじゃなく、ワインって感じでおしゃれに食事することになった。

「ごめんね、私たちのリクエスト優先させてもらって。」
「全然、大丈夫だよ。」
「ありがとう。」
まあ、どんな場でも、ワイワイできることに意義があるのだ。

 だが、久しぶりっていうのは、オレたちを大人しくさせてしまう。そんなことは最初だけなんだけどね。少し話出せば、あっという間にワイワイできるのだ。男だけもいいけど、こういう場もいいもんだ。お酒が入ると、彼女たちが色っぽくみえるってえもんだ。今日は結構意気投合したんで、カラオケにもいくことになった。歌い始めると、時間が経つのは早い。あっという間に、真夜中だ。とっくに、電車なんかない。まあ、オレたち男どもはいつものように大石んとこにお泊り決定だし、彼女たちもそういう意味では大丈夫みたいだ。

 オレたちが機嫌よく歌っていると、突然、大音響がした。それとともに、ものすごく部屋が揺れて、電気も消えた。カラオケも止まった。

これっ、地震?

 女の子たちは、悲鳴を上げている。オレたちは固まってしまっていた。どうすることもできない。真っ暗な中で、身動きがとれなかった。そんな中で、更に大きく揺れた。頭に何かがぶつかってきた。天井が落ちてきたんだと思った。それとともに、オレは気を失った。

 目を覚ますと、真っ暗の中だった。そうだ、カラオケしてる時に地震が起こったんだ。
「木村、大石。」
呼んでみたが、返事がない。
「大島さん。」
彼女たちの一人を呼んだが、これも返事がない。まさか、死んでしまったのか。

 オレは恐る恐る手を伸ばして、誰かに触れられるかどうか、試した。だが、オレのそばにいたはずの大石や木村に触れることはできなかった。ふと、そんなことより、自分はどこも怪我していないかが気になった。足や手を動かしてみたり、体をひねってみたが、どこも痛くはなかった。多分、怪我はしていないんだと思った。そんなことをしていると、急に光がついた。ん?スマホの光?誰の?

「誰?大丈夫?」
「私。」
その声は、高木さんだった。そういえば、オレの携帯はどこだろう?
「怪我してない?」
「たぶん。でも、動けない。」
「なんで?」
「たぶん、天井が落ちてきて、私の上に乗っかってる。」
「痛くない?」
「うん。なんとか。」
「わかった。ちょっと待って。」
オレはその光のところへいって、大きな板?をなんとか取り除いた。

「ありがとう。」
「怪我、ないか確認してみて。」
「大丈夫、どこも怪我してない。」
「ほかのみんなは?」
「さっきからみんながいた場所を照らしてみてるんだけど、誰もいないの。」
「そんなわけないじゃん。」
「だって、ほんとだもん。」
オレはその明かりを頼りに、自分のスマホを見つけたけど、完全にお釈迦になってる。
「オレのスマホはつぶれてるから、高木さんのだけが頼りだね。」
「わかったわ。」

 でも、おかしい。なんで、仲間がいないんだ?オレと高木さんだけなんておかしい。みんな、どこいったんだろう。
「このドア、つぶれてるね。でも、なんとか出れるかも。」
「なんでみんないないんだろうね?」
「わかんない。」
「どこ探してもいないもんな。」
オレはドアを壊して、その部屋から脱出した。廊下を通って、入り口までなんとか出れた。外は真っ暗だ。まあ、深夜だから当たり前だよな。

 外は・・・何事もなかったかのように、普通に街灯がついていたし、どの建物もなんともなかったように見える。オレたちが出てきたカラオケの建物も。えっ、なんで?オレは今でてきたカラオケの入り口を開けた。

「いらっしゃいませ。」
店員さんがいる。普通に営業してる。なんで?今さっきまで、中はぐちゃぐちゃだったのに?
「どうなってんの?」
さすがに高木さんも何が何だかわからないみたい。オレだって、そうだ。
「さっきの地震は?」
「はぁ?」
店員さんは変な顔をしている。どうみても、店の中は普通だし、さっきのような状況なんか、どこにもない。どの部屋からもカラオケの歌が聞こえてくる。恐らく、なんともないんだろう。オレたちが歌っていた部屋に行って、中を確認したら、誰か知らない人たちが歌っていた。

「ねえ、どうなってるの?」
そんなこと、オレに聞くなよ。
「オレにも分からない。さっきの地震はいったいなんだったんだ?」
「じゃ、大島さんとか、宮下さんに連絡してみる。」
高木さんは、さっきまで一緒にいたはずの子たちに連絡をしようとした。

「え、うそ。ない。」
「どうしたん?」
「大島さんや宮下さんの連絡先がない。」
そんなバカな。オレのスマホは完全につぶれてるから、みんなの連絡先の確認ができない。だけど、木村の番号は覚えてる。
「スマホ、貸して。」
オレは木村に電話してみた。
「お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。」
「んな、バカな。」
「どうしたの?」
「木村んとこかけたのに、これ。」
オレはそのスマホを高木さんに渡した。

「どういうこと?番号、間違えてない?」
「それはない。」
「じゃ、なんで?」
「オレにもわからないよ。」
さすがに、何が何だかわからない。
「ここから、一番近いとこ・・・、大石んとこが近いから行ってみよう。」
「わかったわ。」
オレたちは、急ぎ足で行った。すぐに大石のアパートに着いた。でも、大石が住んでいるはずの部屋の表札に、「O(オー)」の字がない。

「ここ、大石んちじゃなくなってる。」
「なんで?」
そんなん、わかるかよ。オレんちは、ここから20分は歩く。
「高木さんとこは?」
「歩くのはちょっと遠いかな。」
「じゃ、オレんちにくる?ちょっと、あるけど。」
「うん。」
オレんちって言っても、そこがオレんちである保障はどこにもない。もし、違っていたら・・・

 なんか、めっちゃ、不安なんですけど。オレたちは沈黙のまま、ひたすら歩いた。オレの部屋は・・・大丈夫だった。
「よかった、オレんちは無事だ。」
鍵を差し込むとちゃんと機能している。玄関を開けると、そこから広がる光景はいつものオレの部屋だ。
「あがって。」
「お邪魔します。」
 よく考えれば、こんな状況で女の子をオレの部屋に上げるなんて、どうかしてるぞ、オレ。でも、緊急事態なんだよな。
「ねえ、あの場にいた6人のうち、私たちだけしか、いなくなってしまったのよね。」
「まったく、意味がわかんねえよ。」
「私たちは地震を認識している。なのに、店員さんとか、あのカラオケの建物も、なんともなかった。」
「そうだよな、出てくるまでは悲惨な状況だったのにだ。」
「お店を出て、戻ったら、もうなんともなかった。」
「いったい、どういうことなんだろう?」
しばらく、オレたちは考え込んだ。どう考えても、さっぱり、分からない。

「なんか飲む?」
「ありがとう。」
オレは、冷蔵庫を開けたけど、何にもなかった。お湯を沸かすか。確か、コーヒーはあったはずだ。しばらく、二人して考え込んだが、全然わからない。コーヒーを飲みながら、沈黙が続いたが、結論はでなかった。

「とにかく、一旦、寝るか?」
「ちょっと、何かする気じゃないでしょうね?」
「そんな状況かよ。」
「ほんと?」
「当たり前だろ。」
高木さん、頼むわ。オレがそんなことするわけないやん。
「じゃ、高木さんは、こっちで寝て。オレはあっちいくから。」
「わかった。」
オレの世話になってるんだから、ありがとうだろ?まあ、いいや。さすがにこんな時間まで起きてたんで、眠気が先に立つ。あっという間に、寝てしまった。

 翌朝、オレが目覚めると、高木さんはいなかった。でも、置手紙があった。

「私も自分の部屋に帰ってみる。今日、授業があるんで、大学に行ってみる。そこで、大島さんや宮下さんを探してみる。」

 まあ、したいことはわかったけど、オレへの連絡はどうするつもりなんだ。落ち合う場所も書いてないやんけ。こんな状況になったのは、オレと高木さんだけなんだから、情報は共有してほしいもんだ。仕方がない、文学部の校舎の方に行ってみるか。

 オレも3時限目に授業がある。昼飯を大学で食えるようにいくか。とにかく、シャワーを浴びて、さっぱりしてからでも間に合うんで、準備をしながら、いろいろ考えた。オレの悪友たちはいるんだろうか?大石の部屋は他人の部屋になっていたし、この分だと、大石も木村もいないような気がした。

 大学でとりあえず、文学部の学食へ向かった。高木さんはいったいどこなんだ。そう思いながら、定食を注文した。まわりを見渡しながら、座れる場所を探した。そこに、木村がいるじゃないか。オレは木村のそばに行った。でも、彼はオレを見ても、何の反応もしない。オレを知らないみたいだ。木村の周りには男女数名が楽しそうに話をしている。交友関係が全然変わっている。どうなっているんだ。

 オレは食事をしながら、様子を見続けた。結構、和気あいあい楽しんでやがる。でも、木村以外は見たこともない連中だ。オレは食事が終わり、食器を返しに行った。それから、飲み物をオーダーして、ちょっと、遠くの席から、木村を観察していた。

 その時だ。突然、高木さんが現れた。
「木村クン、昨日はどうしていなくなったの?」
突然、それ、言う?
「???」
木村も、いったい誰だ?って、顔してる。そりゃそうだ。今は完全にオレを知らない木村だからな。

「昨日、カラオケ行ってたじゃない、上条クンと大石クンとか・・・」
「誰?この人、知ってる?」
木村は周りの人達に聞いた。でも、誰も知ってるわけないよな。
「いったい、どうしたの?木村クン。」
「あんた、気持ち悪いんだけど。」
こりゃ、あかんわ。オレは飛び出して、高木さんを引っ張って、その場から遠ざけた。

「上条クン、いったいこれどういうことなの?」
「オレに聞くな。とにかく、オレたちがいた世界じゃないことだけは確かだな。」
「大島さんや宮下さんも私のこと知らないのよ。」
「会ったのか?」
「ええ、でも、二人とも私を知らない・・・」
「3時限目ある?」
「ええ。」
「じゃあさ、オレも授業あるから、終わったら、また、ここで落ち合おう。」
「わかったわ。」

 思わず言ってしまったが、この世界は、今までと全く同じだが、オレがいた世界とは違う世界だ。3時限の授業中、ずっとそればっかり考えていた。なんでこんなことになってしまったんだろう。どうやったら、元の世界へ戻れるんだろうか。

 授業が終わって、オレは学食へと向かった。これから先どうしていいのかわからない。高木さんに会っても、たぶんいい案なんか浮かんでこないだろう。どうしようか。学食に着くと、もう高木さんがいた。そうだよな、ここは文学部の学食だ。オレの経済の棟より、ずっと近い。
「あのさ、いろいろ考えたんだけど、前の環境じゃないし、どうやったら、前の状況に戻れるのかも分からない。それなら、いっそ、この環境で順応する方がいいんじゃないかな。」
「そんな簡単にあきらめるの?」
「仕方ないだろ。自分の部屋は元のままだし、友人関係だけがおかしくなっただけじゃん。」
「それだけじゃないわ。過去も変わってしまってるの。」
「えっ?」
「私の部屋に高校の卒業アルバムがあるんだけど、中身が変わってしまってるの。」
「どういうこと?」
「自分自身の過去もみんな変わってるのよ。」
えっ、そうなんか?
「まじか。」
「だから、あなたも変わってると思うわ。」
「オレも調べてみるよ。」
「お互い、もっと調べてみて、どうなっているか、教え合いましょう。」
「わかった。」
「あ、あと上条クンの連絡先。」
「そうだよな、早いことスマホを調達しないとな。」
「それまでは、あそこの掲示板に書いといて。」
学内の掲示板がある。自由に書けるので、会うときはそこに日時場所を書いておくことにした。めっちゃ、旧式だ。

 オレは、壊れたスマホをもって、契約している店を訪れた。
「あの・・・」
「はい。」
「スマホ、壊れてしまったんですけど。」
「えっと、これはひどいですね。データ、取り出せるかわかんないですよ。」
「その時は仕方ないです。」
「お調べしますね。」

 オレはその間、一番安いスマホを物色していた。手持ちも乏しいから、あんまりお金かけられないしな。
「えっと、お調べしている間になんですけど、あのスマホは修理できないので、新しいのと交換になります。」
「いくらくらいかかりますか?」
「保障に入られているので、費用は掛かりません。」
ヤッター!!ここのでのオレは、そんな保障に入っていたんだ。ラッキー。
「一応、選べるのは、この3種類からになります。」
「じゃ、このタイプの色は白で。」
「わかりました。では、データが取り出せたら、こちらに移しますので、しばらくお待ちください。」
「わかりました。」
よかった。お金がかからんでほっとしたぜ。

 しばらくして、新しいスマホを持って、店員さんが現れた。
「一応、データはすべて取り出せましたので、こちらに移しておきました。」
「ありがとうございます。」
よかった。データが無事だったのは幸いだ。

 早速、中を確認してみた。すると・・・、木村や、大石の連絡先がない。知らない名前の連絡先もあったりする。これは、高木さんが言っていた通り、過去も変わってしまっているということなんだろう。

 オレは自分の部屋に戻った。知らない名前の連中を確認してみようと思って、高校の時のアルバムを持ってきて、調べた。何人かはそこに載っていたが、載っていない連中もいた。オレは早速、高木さんからもらっていた連絡先に電話してみた。
「もしもし。」
「あ、高木さん?オレ、上条だけど。」
「スマホ、直ったの?」
「うん、もう大丈夫だ。」
「よかったね。で、どうだった?」
「高木さんの言う通り、過去が変わっている。知らん連中の連絡先もある。」
「でしょう。で、実家はどうだった?」
「それは、変わってなかった。」
「電話してみた?」
「いいや。」
「じゃ、わからないわよ。」
「どういうこと?」
「私んち、確かに親は一緒だったけど、親の職業とか、変わってたもん。」
「ほんとか?」
「ええ、だから、確認しておいた方がいいわよ。」
「わかった。」

 そんなことになってるなんて。とは言え、オレの両親はいない。両親の顔さえ見たことはない。あ、そういえば、オレの口座に支払われていたお金はどうなっているんだろう。オレは通帳を確認してみた。そこには、「上条幸子」という人から入金が定期的に続いていた。どういうことだ?「上条幸子」って誰?

(つづく)

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