狙われる親中派、習近平の政敵あぶり出しか‼

               政治・労働ジャーナリスト 鳥居徹夫
  
 今年2月に発売された『安倍晋三回顧録』で、安倍晋三は「 (習近平は)政治権力を掌握するために共産党に入った強烈なリアリストだ」と感じたという。安倍首相(当時)との首脳会談で、習近平は「もし米国に生まれていたとすれば、米国の共産党に入らず、民主党や共和党に入党する」と、述べていた。
 毛沢東後に実権を握り、中国共産党の国家主席であった鄧小平は「黒い猫でも白い猫でも鼠を捕るのが良い猫だ」と述べた。
 つまり生産力の発展に役立つのであれば、実践の中で使用すればよい。政治制度とは関係がないというのである。
 毛沢東は階級闘争を原則としていたことから、文化大革命時に鄧小平は失脚したが復活した。
 いまの国家主席の習近平も、共産主義を装いながら、国内外の主導権獲得が狙いだ。
 日本の親中派は、日中友好に尽力しているから、中国からも評価されていると勘違いしている。ところが日中友好活動家が、中国国内で相次いで逮捕拘留された。中国共産党の指導部にとっての狙いは何か。

 ◆「中国人脈がある」と自慢話が墓穴に 
 親中派の日中友好活動家が自慢するのは、中国共産党との距離の近さであり、それが彼らにとって権威主義に陥っている。
 2016年7月に日中青年交流協会理事長の鈴木英司(すずき・ひでじ)が、中国でスパイ活動をしたとして2016年、北京市国家安全局に拘束され、懲役6年の実刑判決を受けた。
 最近でも、アステラス製薬の中国駐在が長いベテラン幹部が、帰途に飛行場で拘束された。
 鈴木英司は、2022年10月に刑期を終えて出所し、日本に帰国後に毎日新聞社から「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」を出版した。  
 著書によると、鈴木英司は北京外国語大学の教壇に立ち、2003年まで中国の4大学で教鞭をとり、日本では創価大学の非常勤講師を務め、訪中歴200回と、日中友好に30年間関わってきたという。
 鈴木英司は「スパイ容疑」で北京市国家安全局に拘束された。それから約6年間、熾烈な居住監視、収監の日々を過ごし刑期を終えて帰国したという。また経歴をみると、日中友好7団体の一つである日中協会理事や衆議院調査局特別調査員などを歴任。元日中青年交流協会理事長と書かれている。
 当然、中国側に知人が多いことも想像され、多くの人脈もあることは間違いないであろう。いわば日中関係の権威を自負するなど自己顕示欲が強い人物とされていたのではないか。
 その日中友好に尽力した功労者が、突然収監されたのである。本人はビックリ。「スパイ」という身に覚えのない容疑で逮捕されたのであるから、「まさか」と記している。
 中国側に知人が多いことは、当然のこととして習近平の政敵とつながる人物とも接触していたとみて間違いない。
 逮捕された2016年は、習近平が2期目の共産党総書記に選ばれた2017年の前年であり、ちょうど「反腐敗運動」に名を借りた反習近平勢力の粛清が一段落した時点である。
 ちょうどその頃、朝日新聞(2016年1月13日)朝刊に「習氏主導の反腐敗一段落?「大トラ」粛清 権力固め進む」の記事が出ていたそうだ。

 ◆日中友好関係者は、習近平の国内基盤強化に貢献 
 以下は、邪推であるが、当たらずと言えども遠からずと考える。
 鈴木英司に限らず逮捕された日中友好関係者は、中国官憲に接触のある中国側の関係者の全容を執拗に問いただされたことが考えられる。
 そもそも鈴木英司らは「スパイという身に覚えのない容疑で逮捕」されたという思いから、「自分が、いかに中国共産党や政府に協力していたか」「党の幹部を知っている」を、自ら吐露したのとするとなると、政権基盤を強化したい習近平一派にとって都合の良いものとなる。
 つまり日本の古い親中派は、自分たちの窓口が、習近平の政権から距離のある人物ではなかっただろうか。彼らは習近平にとって、芋づる式にライバルを炙り出す情報源として、最大限に活用できるものと言える。
 中国共産党には、上海閥、共青派、太子党の3つ派閥があるといわれる。元主席の江沢民を中心とする「上海閥」(上海勤務経験者及びその一派)、前主席の胡錦濤、前首相の李克強を中心とする「共青団」(中国共産主義青年団出身者)、現主席の習近平を中心とする「太子党」(革命元老の子弟の「二世議員」、の3つである。
 2022年10月22日、第20回全国代表大会において習近平総書記を中国共産党のトップとする3期目の最高指導部が発足した。最高指導部7人を含む政治局委員は、習近平と関係の近い顔ぶれであり、習近平は国家主席にも翌年2023年3月10日に全会一致で三選された。そして習近平を支えていた李克強も首相の座を追われた。 
 2013年1月に、習近平は「大トラもハエも一緒に叩け」と反腐敗の号令をかけた。腐敗摘発が「政敵の追い落としを目的にしている」との見方も強かった。日本の親中派の中国人脈は、習近平の政敵のあぶりだしに好都合に違いない。
 習近平は相次いだ大物幹部の粛清によって自らの権力基盤が固まったことからくる余裕をみせたようだ。
 香港の英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」(2019年2月4日) によると、官僚を監視して自動的に腐敗を防止するAIシステムを開発して2012年から7年間にわたって約8721人の汚職官僚を処分したと報道された。  逮捕された親中国の日中友好関係者の自己顕示欲が、権威にすがる根性が、釈放されるために中国の大物の名前をあげつらい、習近平の中国内の基盤強化に貢献したとみるのは、穿ち過ぎではないだろう。 

◆「日本に生まれていれば自民党に?」と述べた習近平 
 では習近平は、日本の親中派、とりわけ日中友好関係者を、中国共産党の同志としてみていたかとなると疑問が残る。
 元NHK解説委員の岩田明子は、「文藝春秋」2023年6月号の連載「安倍晋三秘録」に、2018年10月26日に中国で行われた首脳会談の後の夕食会で、習近平が次のように安倍首相に語ったと記している。「反腐敗活動は人の体がウィルスを追い出すように、政治家としての務めだと思っています。……私は自分の腕を切り落とす覚悟でやり遂げるつもりです」「世界各国のどんな体制にも存在するだけの道理があります。以前、オバマ大統領と会談した際に、『もしアメリカに生まれれば、私は共産党には入党したくない。アメリカの共産党には何の地位もないからです。共和党か民主党のどちらかに入党するでしょう』と冗談を言ったことがあります。一方で中国人であるからには、最も政治的に影響力のある共産党に入る他に選択肢はないのです。」
習近平に、安倍晋三は「となると、習主席が日本に生まれていれば、私たちの自民党に入っていたということでしょうか。」と聞いているのだ。すると習近平は笑みを浮かべて「日本には生命力を持った政党が数多くあります。私が日本人なら、その中から最も生命力のある政党に入りますね。(笑)」と答えた。習近平の言葉に、習近平の側近たちの顔は見る見るうちに青ざめたという。青ざめたのは、日本の左翼とりわけ日中友好関係者ではなかったか。
同様の指摘は、今年2月に発売された『安倍晋三回顧録』にもある。安倍晋三は「 (習近平は)政治権力を掌握するために共産党に入った強烈なリアリストだと感じた」と述べている。
 つまり日本の左翼も親中派も、習近平にとって中国国内の政敵を炙り出すため利用価値があったということになる。ましてや共産思想のイデオロギーとは無縁であった。(敬称略)

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