前立腺がんだって。なんだよ、それ!#008


たいそうだなぁ。
ベッドは図体がデカい、内輪差もでかい。
はいごめんなさいよごめんなさいよ、と露払いする川原くん以下3名のお世話になる。なんだかなぁ、申し訳ない。

地階に降りる。厳重な様子の二重ドアを二つくぐる。
寒い、手術室はやっぱり寒い。
学生時代に左膝の十字靭帯ほか諸々を痛めた時の記憶がよみがえる。あのときはパンツは履いていたな、確か。

おぉ、「渡辺」先生以下スタッフが7人、誰が何をするのか、どこを担当するのかさっぱりわからないが大勢いるのは心強い、ひとりふたりは「にぎやかし」担当かも。

うわ、緊張してるぞ、今なお。それが証拠に全く「!」とか「?」とか使ってないし、今使ったけど・・


「渡辺」先生と手術班の3人がなにかを小声で確認し合っている。その間に女性看護士に手術台に招かれ、縁に腰掛ける。あれやこれや計器を右腕に付けられ、左腕には点滴が繋がった。「血圧とか心拍とか、ですね。点滴は麻酔がスムーズに導入される手助け、ってとこです。」

「はい、麻酔始めます、くまさん、背中丸められるだけ丸めてください。」
「まず皮膚麻酔です。ちょっと太めの針が背中に入りますから、それでびっくりしないようにね、皮膚の感覚をとります。」
つ、冷た!(使った)
「はい効いてますね、判りますかぁ」
わかりません。
「では麻酔かけます。気を楽に・・」
そんなの無理ぃ。

腰の上のあたりに、「ズン」という軽い衝撃。痛・・くはない、ような・・


「はい、手術台に横になって。どうですか、脚、動きますか」
あ、そう言えば太腿に力が入らない。膝下の感覚もない。
「どうですか、これはどうですかぁ」
どれ?
「はい、いいですね。」

部屋は寒い、が、背中は温かい。なるほどヒーターが付いてるんだね。ドキドキだ。
突然脚が持ち上げられた、ようだ。視野は白布で遮られ、腰から下の感覚は既にまったく、無い。上半身に伝わる加重移動だけが判斷材料である。

もしかして、出産スタイル?

「うん、そこ。それとね・・」
あれ?「渡辺」先生の声が右脚の上から聞こえる・・え、誰が?、先生じゃないの・・

ドン!
うわっ、凄い衝撃・・

そう、いいね。
ドドン!」うん。
モニターのそこ、それ「ドン!」あと、
ドン!!」・・・

都合12ヶ所、ひそひそボソボソとした「渡辺」先生の指示のもと、誰かに(誰だよ、ホント)あのなんだ、でっかいチャッカマンとしか説明できない器具で、我が愛しの前立腺は ズタズタに蹂躙されてしまった。いやん、ハジメテだったのに・・

「じゃ、最後に膀胱、診ときましょうか」「はい」

腰が持ち上がる。我がジュニアが引っ張られるだけ引っ張られている。ええー、そんなに伸びるのぉ?人体の不思議。


うわっ!なにかそれなり太いナニカが、ぐいぐいと音を立てて(立たないよ)腹の中に侵入してきた。暴れている。エイリアン・・気を失いそう。

「・・いいですね、これで」「あーっと、うん・・うん、いいでしょう」
凶悪な異生物は、あっと言う間もなく身体から抜け出していった。卵とか産みつけてない?・・

ぜいぜいしながら看護士に下半身を拭われている俺。見下ろしながら「渡辺」先生は、開口一番


「くまさん、うーん、先日のCTの画像拝見した時点でね、まぁ癌ですね、概ね。」


はぁ?なにも今、言わなくても(


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