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未来視能力の事例

いろんな人々が、擦り倒してもはや今更感しかない事例だが、株式会社 刀のCEOを務めている森岡毅氏が、USJをV字回復させた事例を取り上げたいと思う。

この事例を取り上げる理由としては、未来視が明瞭であること。そして、未来視に向かうためのアイデアからの戦略的解像度の高さが、秀逸であることから、未来視ロールモデルとして最適な事例であると考え、取り上げる事とした。

森岡氏のミッション

彼がアサインされた時のUSJは、開演当初の勢いを失い、衰退期へと突入していた。と、言って良い。
開演当初一千万人を超える年間来場者を誇ったパークは、その活気を失い。彼がアサインされた前年度は750万人(当時歴代最低来場者数)にまで落ち込んでいた。

首都圏外のテーマパークの限界

USJが、もしくは日本全国のテーマパークが、越えなければならない障壁の最たるものが、利用圏内の総人口数と、利用にあたる交通機関利用料だ。
一般的にマーケティング業界では、移動にかかる費用のマックス(往復費用)が3万円を超えると、ユーザーがテーマパークへ訪問したいという欲求が急激に下がるというデータがある。
森岡氏はこれを「3万円の川」と呼び、東京都民が3万円を払ってでも訪れたい場所にUSJを作り上げなければいけない。ということをファーストミッションに据えた話は、本人からも語られる有名な話だ。

東京・大阪間の往復新幹線の料金は約2.7万円
このギリギリのラインの集客を見込みながらの戦いとなるため、氏の挑戦は交通機関利用料一つとってもハードなゲームであったと言える。

また人口で見た場合、マクロで見ても関西の人口はおよそ2,000万人
関東の人口が4,300万人であることを比較しても、利用者人口のディスアドバンテージが明白だ。

こう言った負の要因が、地方には実数値として存在するため、大規模テーマパークが「関東でしか成立しないといビジネスモデルである」ということが、長らく定説とされてきた。

実際、USJの来場者数においてもこの理論は如実に表れていると言える。

2001年:1102万人
2002年:763万人
2003年:988万人
2004年:810万人
2005年:831万人
2006年:869万人
2007年:864万人
2008年:813万人
2009年:750万人
2010年:750万人 ← 森岡氏アサイン

castel.jp 参照

森岡氏がアサインされた2010年は丁度、USJ10周年。
しかし数字で見れば、右肩下がりを続け、2002年の最低数を下回る750万人という来場最低数を叩き出した2009年と同様の状況だ。
この過酷な状況下の中、氏はV字回復への挑戦を行う事となったわけだ。

戦うためのツール

まず、氏が行ったのは本店の視察だ。
カリフォルニアに飛び、ユニバーサルスタジオハリウッドへと視察を行う。
そこで見たものが「ハリー・ポッター」のアトラクションである。
氏は直感的にこれが、日本で出来れば勝てる。と感じ、すぐさま総工費の算出の指示を行う事となる。

© Kazuki Hirata / Hollywood News Wire Inc

総工費用は実に400億という試算が示された。
ここから、彼の金額という定量に基づいたV字回復ゲームが始まる。
総工費400億の設備投資、そしてアトラクションのオープンまでの工期を4年後と定め、ここから4年間「出血を極力抑え、かつ業績を回復させる」という、マーケティング業界のチャレンジとしても、もっとも険しい課題と戦う事となったのだ。

第一の矢と災害

まず、氏が幸いだったのは、アサインされた当初USJは、新たなイベント興行として集英社の人気漫画「ワンピース」の利用権利を獲得していた。
年末から、翌2011年の滑り出しはワンピースの効果もあり、順調な滑り出しを見せていたが、ここで予想外のアクシデントに見舞われる。

いや、正確には日本全体が大きなアクシデントに見舞われたのだ。

2011年3月11日(金)14時46分。三陸沖の太平洋を震源として発生した超巨大地震「東北地方太平洋沖地震」という大災害だ。

この超巨大地震によって日本は被災という負債と、大きな混乱の渦に巻き込まれる。そして混乱がもたらしたものは、日本全体が「自粛ムード」という状態に覆われてしまうというムーブだ。
結果、TV-CMの自粛がデフォルト化し、ライバルである東京デズニーランドすらもCM自粛という選択をとった。

当時を知る人からすれば、この時期のCMがほぼ「ぽぽぽぽーん」でできていたといえば、記憶が呼び覚まされる人もいるのではないだろうか?

日本全体が被災地が大変な状況にある中で、自分たちだけが楽しそうにしているのは良くない。というモードに入ってしまい、遊び控え、イベント控えという自粛ムードが蔓延してしまう。

この、今目立ってしまっては全日本国民から叩かれてしまう雰囲気で、勝負ができない状況の中、森岡氏はそれでも打って出る。

大阪から日本を元気に

というキャンペーンを打ったのだ。
この企画は、家族連れで来場された場合に子供の入場料を無料にするという内容だった。
ただでさえ、赤字続きのテーマパークで「無料」を謳うキャンペーンに当時の役員たちは、否定的な見解だったが、彼は説得を重ねこのキャンペーンに打って出る。

子供が笑顔にならなければ、日本に明るさは取り戻せない。
日本の自粛ムードから脱却するためには、罪悪感が薄まるようなキャンペーンでなければならない。

このイデアに基づいて、打ち出されたキャンペーンの結果USJは8月の夏休み期間中の来場者数に大いに貢献を果たし、結果無料を謳ったキャンペーンであったにも関わらず、業績は黒字であった。

なぜ黒字化したかと分析すると結果は明確で、子連れの来場者はカップルなどの来場者よりも、パーク内での買い物が多いのだ。
食品を始め、グッズやお土産など、子供の入場料が無料だった分、もしくはそれ以上に消費投下が行われた。

こうして、彼の最初の業績は、天災との戦いからの勝利という形で幕をあける。

例によって、書き出すとすぐに二千字を超えてしまう、駄文癖が治らないので、第二、第三の功績に関してはまた、次回。

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