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第102話 藤かんな東京日記⑱〜親友『由紀乃』が登壇した大阪イベント〜


由紀乃はAV女優になった私をどう思ったのか

「高校の頃からの友人が本を出すって、不思議な感じせえへん?」
 イベント後の打ち上げの席で、社長が私の親友『由紀乃』に聞いた。
「なんか、ありがとうって気持ちです。私は何の変哲のない、ワクワクしない人生を送ってるから、かんなの活躍を聞いてるだけで楽しい」
 由紀乃は言った。
「由紀乃殿、人生2周目なん?」
 私の正面に座っていた、つばさ舞ちゃんがつっこんだ。さすが舞ちゃんは鋭い。私もこれまで何度も、由紀乃に「お見それしました」と思ってきた。

つばさ舞ちゃんは由紀乃を「由紀乃殿」と呼ぶ

 2024年6月24日。大阪の梅田Lateralという会場で、初の自著『はだかの白鳥』の発売記念トークイベントが行われた。登壇者は飛鳥新社編集者の野中さん、つばさ舞ちゃん、八蜜凛ちゃん、そして『はだかの白鳥』の第6章に登場する、親友『由紀乃』だ。
 由紀乃の登壇はイベントの2週間前くらいに急遽決まった。イベントの打ち合わせをしていた時、私が社長に彼女のことを話したのだ。
「由紀乃がイベントを見に来てくれるんです。彼女は小学校の卒業アルバムに『将来はビッグになりたい』って書くような人で、私と根っこが似てるんですよ」
 それを聞いて社長は「由紀乃さんにもステージ上がってもらおうや」と言った。面白いかもしらへん、と私はすぐさま由紀乃にLINEした。彼女からの返事は「何ができるか分からんけど、いいで!」だった。

 由紀乃にAV女優になったことを伝えたのは、AVデビューして半年を過ぎた2023年の3月だった。2人で京都に遊びに行った。コロナ禍でしばらく会えていなかったのもあり、朝9時から舞妓体験をして、まるで女子高生のように、はしゃいだ。

舞妓体験終わりの髪型に、はしゃぐ

 昼過ぎ。河原町通りを少し外れた焼肉屋に入って、昼食をとった。
「あのな。仕事辞めてん」
 私は網の上のハラミを見つめながら言った。この日はAV女優になったことを伝えようと、心に決めていた。由紀乃は「え、じゃあ今、何してるん」と、さすがに驚いた様子。
「んー、モデル、っぽいことしてる」
 情けない私。「AV女優してる」とはっきり言えなかった。いざ打ち明けるとなると、怖気付いてしまったのだ。
「モデルゥ!?」
 由紀乃は怪訝そうに見ている。私は返す言葉が見つからず、苦笑いしながら目を逸らせた。
 やっぱり言わんかったら良かったかなあ。
 少し後悔し始めた矢先、由紀乃が言った。
「あ・・・・・・もう、出た?」
 行間から「AVに出た?」と聞かれたことは、はっきり分かった。
「なんで分かったん!?」
 もちろん驚いたが、そういえば、彼女は昔から優れた推察力の持ち主だった。不気味なほど聡く、いつも的確なのだ。
「何となくピンときたわ。でも正直、いつかそういう仕事するんちゃうかなと思ってたで。良いと思うわ」
 そう言ったきり、特にAV女優になった理由は聞いてこなかった。
 私は嬉しかった。AV女優になって度々「なぜこれまでの経歴を捨ててまでAV女優なったのか」と聞かれてきた。しかし、私のことを昔から知っている由紀乃は、「なぜ」の「な」の字もなく、あっさりと受け入れた。お見それしました。

AV女優になったことを打ち明けた焼肉屋

エイトマンで「青春やってるんやな」

 その時のことを、トークライブで由紀乃はこう語った。
「かんなの年齢と身長で、モデルはちゃうやろと思ったんです。それに彼女の過去の男性遍歴も知ってたから、何となく、AVに出たなって分かりました」
 おいおい、探偵かよ。
「AV女優をやってるって聞いた時、どんな気持ちやった?」
 私は由紀乃に聞いた。
「素直に、適職やな、と思ったで。AV女優って仕事に偏見はなかったけれど、事務所に変なことされないかなって心配はありました———」

私の年齢と身長で、モデルはないよね(グサリ)

 由紀乃が事務所に不信感を抱いているのは感じていた。しかし無理もない。私もデビューするまで、AV事務所は怖いところなのでは、と思っていたのだから。ただ彼女にはその不信感を払拭してほしかった。私が今いる世界を正しく知ってほしかった。
 その思いで、5月3日に大阪の難波で行われた、吉高寧々さんの『#寧々密会』写真集のお渡し会イベントに、一緒に来てもらった。イベントの様子を見て、活躍する女優を見て、社長にも会って、直にエイトマンを感じてほしかった。だがイベント会場には写真集購入者しか入れず、それは叶わなかった。

 でも諦められない。イベント会場近くの喫茶店で、『#寧々密会』写真集を見せながら、エイトマンのことを熱く語った。
「エイトマンの社長が言うねん。誰もしてないことをしようって。ワクワクすることしよう、死ぬ前に思い出す思い出をたくさん作ろうって。私はAV女優になって、『今を生きてるな』って思えるようになってん」
 社長がこれまで私に言ってくれた言葉に、今の自分の熱量を上乗せして、猛烈に由紀乃に語った。そして彼女は「また青春をやってるんやな」と言った。
「かんなが他の女優のエックスを頻繁にリツイートしたり、今日みたいにイベント行ったりするの、正直、事務所にやらされてるのかなと思ってた。でも全くそんな事ないねんな。むっちゃ良いチームやねんな。そういうの、絶対に楽しいよな」
 彼女は言った。
 由紀乃もこちら側に来てほしいな。
 その思いが胸の奥で膨らんだ。そして東京へ引っ越す前、私が彼女に言えなかった言葉を言った。
「東京で一緒に住もうや」
 由紀乃は「行きたいけどな。今はまだできひんわ」と、少し寂しそうに笑った。そう言われることも、分かっていた。彼女も今自分がいる世界で、もがいているのだ。この話はいつか、由紀乃がもがき抜いた後にしたいと思う。
「でもな、本のサイン会とかあるなら、絶対に行くで。友人が書いた本に、本人からサインもらうって、そうそうないで。親友として誇らしく思う」
 その後も喫茶店で3時間ほど話し込んだ。いつか私がビッグな作家になって家を買うから、その時は一緒に暮らそう。1階で犬カフェ、2階はバレエ教室にしよう。と、5年先、10年先の未来を話し合った。まるで高校の昼休みの時間に戻ったようだった。

「親友」と呼ぶのは私の意思表示

「本を読んで、印象に残ったところ、教えてよ」
 イベント後の打ち上げで、社長が由紀乃に聞いた。彼女は印象に残った箇所に付箋を貼ってくれていた。しかしイベントの前に全て外してしまったのだ。彼女曰く「真剣すぎる気がして、恥ずかしくなった」そうだ。本当は心の奥にマグマを持っているのに、一歩引いてしまう瞬間があるのが彼女らしい。
「かんなが高校3年生まで初潮を迎えていなかったことは、知らなかったんです。驚きました」
 由紀乃は言った。心なしか寂しそうに見えた。いや、私が寂しく感じたのかもしれない。高校からずっと一緒にいたのに、私はそんな事も話していなかったのか。仲が良かったなんて、自分勝手に思い込んでいただけじゃないか。
 その気持ちを察したのか、由紀乃が続けた。
「高校から仲は良かったけれど、実はあまり深い話はしてなかったんです。お互いのことをしっかり話し出したのは、かんながAV女優になったって打ち明けてくれた時から」
 彼女は「なっ」と私の顔を見て笑った。ありがとう。お見それしました。

「AVはリトマス試験紙」
 いつかの社長の言葉を思い出した。AVの仕事をしていると知られた途端、疎遠になる人、そうならない人が明確になるという意味だ。由紀乃はそうならなかった人。むしろ、より腹を割って話すようになれた。「親友」になれた。
 私はこれまで由紀乃のことを「親友」とは呼んでこなかった。由紀乃だけではなく、誰に対しても使ってこなかった。その言葉は相手にぶつけるには重すぎる気がしていたからだ。それに加えて、相手の想いと自分の想いが、イーブンでなかったら恥ずかしいという、臆病な気持ちもあったと思う。しかしこれから、由紀乃のことは「真友」と呼んでいこうと思う。
 私はあなたのことを真の親しい友人と想っている。
 その意思表示を、きちんとしていこうと決めた。

(左から)由紀乃、八蜜凛ちゃん、私、つばさ舞ちゃん、野中さん

★イベントアーカイブ(2024.7.8まで)


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