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第107話 藤かんな東京日記⑳〜与田りんのAVデビュー作撮影〜


与田りんのデビュー作撮影前夜

本気で想うから「殺したい」

 2024年2月11日、18時。私は新幹線に乗っていた。とある用事で大阪に行っており、東京に戻る途中だった。熱海駅を過ぎたあたりで、社長からLINEが来た。
「今から神保町、来れる?」
 今日に限ってうっかり「こだま」に乗ってしまったのよなあ。
<まもなく、小田原です。お出口は左側です——>
 車内アナウンスを聞きながら、返事を書いていると、さらにLINEが送られてきた。
「与田りんが明日、デビュー作を撮る」
 新幹線よ、早く東京駅に行ってくれ。

 19時半、キャリーケースを引き、神保町の某居酒屋に入った。奥の席に社長と与田りんちゃんが座っている。
「今ちょうど藤かんなの話しててん」
 社長に促され、りんちゃんの隣に座った。彼女とはエイトウーマン写真展で会った以来である。
「デビュー作を撮った時、どうやった?」
 注文したウーロン茶が届くと、社長が私に聞いた。
 この時期、『はだかの白鳥』の原稿を編集している真っ最中だったため、朗読するかのようにデビュー作のことを語ることができた。ただいささか語りすぎた。りんちゃんの緊張が伝わってきて、私まで緊張してしまったのだ。
 一通り話すと、社長が言った。
「これから与田りんはどんどん活躍して、嫉妬の対象にもなるよ。『与田りん。殺したい!』って思う奴も出てくるかもしらへん。でも殺したいって本気やから、相手を本気にさせたら勝ちやね」
 そして彼の家族の話になった。
「家でテレビ見てた時、親が子供を殺したってニュースが流れててん。俺はそれを見て、最悪やなって思ってん。でも嫁さんは隣で『分かるわあ』って言ってん」
 りんちゃんも私も驚く。
「嫁さんは娘が学校に行く時、いっつも見送るねん。ベランダに出て、娘が見えなくなるまで手を振るねん。それを毎日欠かさず、ずっとやってきた」
 そんな奥さんが、ニュースを見ながら、こう言ったそうだ。
「私もこの娘(コ)がいなかったら、って思う時あるもん。いっそ一緒に楽になれたら良いのにって」
 それを聞いて社長は、自分が抱く娘への想いはまだまだ本気ではないと気付かされた。社長より奥さんの方が娘といる時間は圧倒的に長い。24時間365日、娘のことを考えている言っても過言ではない。
「嫁さんにとって、娘は自分の全てやねん。本気で想ってるからこそ『殺したい』って思う。それは愛以外のナニモノでもないやん。俺はそのことに気付かされた」

 それからもひたすら喋りまくる社長と私の話を、りんちゃんはニコニコしながら聞いていた。
「明日だけは何やっても良いねん。だってデビュー作やから。むしろトラブルがあった方が売れる。大丈夫」
 その後は「ク◯トリス」のオンパレード。
「絡みの時にさ『ク◯トリス、岩みたいに硬いなってるけど、大丈夫ですか』とか『こんなに硬いク◯トリス、男優さんの股にぶつかって、大丈夫ですか』とか言っても良いねん。デビュー作は1回しかないから、思ったこと全部出していこう。ク◯トリスはモザイクで見えないから、あえて説明していこう」
 社長はもはや「ク◯トリス」と言うことを楽しんでいるようだった。りんちゃんの明日への気持ちが、少しでも軽くなったのなら良いのだが。きっと「ク◯トリス」しか残らんかったよね。

デビュー作撮影前夜の緊張が伝わる

与田りんのパッケージ撮影直後 

 2024年3月9日、17時、新宿3丁目の居酒屋。疲れた様子の与田りんちゃんが、山中さんと一緒にやって来た。この日、彼女はデビュー作のパッケージ撮影を終えた直後だった。
「りんちゃん、朝から福島さんの洗礼を浴びて来ました」
 山中さんが言った。カメラマンは福島裕二さんだったそうだ。
「福島さん、今日も歌っていましたか?」
 彼は調子が良くなると、流れているBGMに合わせて歌いだす。ちなみに私のデビュー作撮影の時はオリジナル・ラブの「接吻」などだった。
「歌っていました。レミオロメンの粉雪とか———」
 そこは『3月9日』ちゃうんや。

3Pとベロベロが不安

「デビュー作のV撮とパケ撮、どうやった?」
 私は、緊張した度合いを5段階で評価して、と聞いた。
「デビュー作のV撮の緊張はマックスの5でした。今日のパケ撮は2、3くらい。でも、明日のV撮は緊張8です」
 彼女は明日、2作目のV撮をする。「緊張8」の理由を聞くと、3Pがあるとのことだった。
 私も2度目の撮影では3Pがあり、撮影直前まで山中さんに「3Pってどんなんですか」「私、大丈夫ですか」と、聞いていたのを覚えている。
「ジェットコースターらしいですよ。きゃーって言ってたら終わったって。ちなみにこれ、桃尻かなめちゃんが言ったんです」
 山中さんは言った。「3Pはジェットコースター」の言葉は桃尻かなめさん発だったらしい。先輩のユーモアが、私たち後輩たちを救っている。言葉のバトンやなあ、と感慨深くなった。
 明日のV撮では吉村卓さんと共演するらしい。りんちゃんは「鼻から上は舐められたくないんです」と、抵抗がある様子。
「卓さんに『藤かんなさんのnote読んできました。今日はたっぷり舐めていただければと思います』って言ってな」
 社長の言葉に、りんちゃんの笑顔は引き攣っていた。吉村卓さんは、自著『はだかの白鳥』でも「ベロベロ魔人」として登場している。デビュー作で共演したのだ。どうやら卓さんのベロベロは、新人女優への洗礼らしい。
「ベロベロ舐める人なんて、気持ち悪い人って見られるやろうけど、でもそんな人が最も綺麗やったりするんよね」
 社長はハイボールを飲みながら、静かに呟いていた。

友人と一緒にデビュー作鑑賞会をするんです

「私のデビュー作が出たら、一緒に鑑賞会しようって言ってくれてる友人がいるんです」
 りんちゃんが言った。「AVに出ることを、一緒に楽しんでくれる人がいるって良いよね」などと話していると、社長が何かを思い出した。
「そういえば昔、エイトマンにいた女優が、自分のAVを全部買って観てた」
 その女優はパブNGだった。つまり世間には一切、顔出しをしない。しかしとても売れた女優だったらしい。やはり売れる女優は、自分の作品を研究しているのだろうか。
「勉強のためじゃなくて、知り合いに見せてネタにしてるって言ってた」
 パブNGなのに? 一緒に楽しんでくれる人がいたということか。
「友達と鑑賞会したら、エックスに書いてな。『今から自分のデビュー作観る』って。自分のVの感想書いた女の子、見たことないもんね。そのV、絶対見たくなるわ。あの女優の言葉を借りると、ネタにしよう」
 社長は楽しそうに言った。

ライバルの撮影現場に潜入

「撮影現場の隣でも、別の女優さんが撮影してたんです」
 りんちゃんは『FALENO』の専属女優だ。隣のスタジオではFALENOの競合メーカーの撮影が行われていたらしい。
「スタジオのトイレが使われてて、我慢できなかったから、隣のスタジオを借りたんです」
「そこでね、すごい人間模様が見られたんですよ」
 山中さんがりんちゃんの話に食い込む。話によると、それぞれの現場のメイク、カメラマン、プロデューサーが、お互いライバルとして意識し合う関係の人たちだったらしい。
「ちなみに隣の現場の女優は、どんな子やった」
 社長が鋭い目でりんちゃんに聞く。明らかに闘志を燃やしている目だ。
「よく見えなかったけど、むっちゃ華奢でした。肩とかすごく薄くて」
 社長は「うんうん」と小さくガッツポーズを作った。おそらく与田りんの方が良い体をしていると想像したのだろう。私は社長のガッツポーズを見ると嬉しくなる。明確な根拠なんてなくて良いのだ。自分たちの「勝ち」をイメージすることで、士気が高まる。社長はこのことをよく「今、ドーパミンを流す」と言う。
「隣の現場の人たち、すごく親切でした。帰りにパンとかお菓子くれました」
「ほらな。あなたは人間力があるねん」
 社長は言った。みんなの心を惹きつける魅力。これは外見だけでなく、彼女の内面の要素も大きいだろう。間違いなく彼女の能力だ。

ナンバーワン鼠蹊部の与田りん

 りんちゃんが「エックスに上げる写真って難しくないですか?」と聞いてきた。「私、笑顔がコンプレックスなんです」と。
「与田りんはふっと笑った時がむっちゃ可愛いねん。でもカメラ構えられると笑顔を作ってしまう」
 社長の言葉に、りんちゃんは少し照れ臭そうに柔らかく笑った。確かに、この笑顔がむっちゃ可愛い。
「福島さんは今日、りんちゃんの自然な笑顔をどうやって撮るか、闘ってました。あとね、鼠蹊部をものすごく褒めてたんです」
 山中さんが言った。福島さんは「与田りんの鼠蹊部を見つけたのは俺だ。俺はこの鼠蹊部を美しく写真に収めるんだ!」と、とても盛り上がっていたらしい。
「鼠蹊部から太ももにかけての部分を『高速道路』って言ってました。ジャンクションなってるって」
 阪神高速の東大阪ジャンクションが頭に浮かんだ。確かに芸術。
「福島さんはいつも現場を盛り上げてくれるけど、撮影終わった後、トイレで生気を失った格好で座ってる時あるねん。その精神の繊細さがあるから、すごい写真が撮れるんやろうね」
 社長が言った。
「ナンバーワン鼠蹊部、すごいね。与田りんは勝ったわ。エピソードがいっぱいある。だから勝った」
 この「勝った」の言葉に、ドーパミンが流れたのは、私だけではないだろう。

与田りん(@_yodarin_)

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