第71話 エイトウーマン写真展2023⑬〜葵つかさに出会って分かった私の宿命〜
13日目
写真展終了、葵つかさの涙の言葉
「じゃあ、えっと・・・13日間のエイトウーマン写真展、ありがとうございました!」
葵つかささんが写真展の終わりを告げた。そしてまずは西田幸樹さんが話し始める。
「このプロジェクトは構想、撮影、展示までを約1年間かけて、それを3年間やって来ました。撮影には女の子たちが半年近くかけて体を作って来てくれ、本当に誰が撮っても良いような綺麗な体にしてくれるんです。感謝しています。
あと、こうやって来てくださる皆さんに支えられていることも感謝します。もちろん皆さん女の子目当てで来てもらってると思うんですけど、会場入ってちょっと驚いてもらう、角を曲がって驚いてもらう。そんなアミューズメントパークみたいな展示会にしたいと思っていました。楽しんでいただけましたか?」
(会場拍手)
「ありがとうございます。とりあえずあまりにもこのミッションがしんどいので、今回で一旦このプロジェクトは終わりに・・・と言いながらも、またすぐ来年やるかもしれないんですけど(会場笑い)、その時はまた来てくださいね」
(会場拍手)
「多分いつかのタイミングで復活すると思いますので、その時にはよろしくお願いします。ありがとうございました」
西田さん、あれだけ「もうやりたくない」「もう辛い」と言っていたのに、自ら「またすぐ来年もやるかもしれない」と言った。そのくらい西田さんにとって充実した写真展だったのだろう。よかった。
つかささんが話し出す。
「ありがとうございます。この写真展は私たちエイトウーマンにとって”復讐”でもありますし、”道しるべ”でもあり、”ご褒美”でもあると思っています。
最初は事務所の思い出作りとして始めたものでした。エイトマンを愛している人たちで・・・作りはじ・・・。ごめんなさい」
つかささんがぐすりと鼻をすする。
「思い出作りとしてエイトマンを愛している人たちで始めたものなので、全ての人に評価されなくてもいいと強気な気持ちでいました。けれど、こんなにたくさんの人たちが来てくれて、評価してくれて・・・。本当にいい思い出作りになりました。
将来この3年間を思い出すと、多分ひとりでニヤニヤしちゃうくらい愉しい思い出ができた3年間でした・・・」
そしてつかささんは少しの間、言葉をつぐんだ。
「で、・・・葵つかさを中心にやってくれたのが本当に・・・。え、あの、自意識過剰かな」
「いえ、大丈夫ですよ。皆さんそう思ってますよ」
つかささんに西田さんがフォローを入れる。堂々ととてもいいこと言っているのに、急に自信を無くしてしまうところが、彼女らしい。
「西田さんが作ってくれたこのステージで、羽ばたいていく準備ができたと思えました。ここをスタートにまた頑張りたいなと思います。
この時代をみんなと一緒にこうやって生きて、いつか死んでも、エイトウーマンというものをまた誰かが思い出して・・・。そんな誰かの記憶に残るひと時をみんなと過ごせたというのが、自分の中で一生の思い出になりました。
本当に皆さんありがとうございました」
(会場拍手)
「これはお祭りみたいなもんなんで、最後に僕が『楽しんでくれたかい?』って聞いたら、みんな『イェーイ!』って言ってください」
<楽しんでくれたかい?>
<<イェーーーイ!>>
葵つかささんに「あなたがいてよかった」と言われる
大きな拍手の中、西田さんとつかささんは控室に戻った。しばらく時間を置いて、私はつかささんに会いに行った。「お疲れ様でした」と「ありがとうございました」を伝えるために。
「かんなちゃん。お疲れ様でした。2週間ありがとう。すごいですね。自分の存在をこんな短期間で確立してしまうなんて。私が何年もかけてやってきたことなのに・・・」
つかささんに「すごいですね」と言われたことは不意打ちだった。
「それはつかささんがいてくれたからですよ。つかささんの存在が私たちを世間に目立たせてくれてる。なので私はつかささんをさらに押し上げられるよう、力になりたいです」
「ありがとう。かんなちゃんに対しては、すごい仲間が増えたなって思ってます。かんなちゃんの存在はとても心強くさせてくれる。違う方面ででも闘ってくれてるから。何かあった時、かんなちゃんに頼れるなって思う。
エイトマンの中で女優をやってる女の子がするっていうところが、やっぱりすごい強いなって思いました」
「私がいることでつかささんがどんどん進めるなら、その分私もどんどん進めるし、ぜひ一緒に前に進んでいきたいです」
私は後輩AV女優としてではなく、同年代の同志として言わせてもらった。
「そうやんね。絶対ついてきてや!」
つかささんは笑った。ほんのちょっぴり自信がなさそうに。
「かんなちゃんは1年後きっともう私なんて追い抜かしてしまってると思う」
「いやいや、もしつかささんが自信なくしてたら、私がお尻を叩きに行きますよ」
「そうやね。私はすぐ臆病になっちゃうから。本当にそうしてね」
少し自信のないところもおそらく彼女の魅力だろう。この2週間写真展見てきて、やはり『葵つかさ』の存在はズバ抜けていた。「自信ないなんて」弱気になろうものなら、私は彼女にデコピンでもしなければいけない。「目ぇ覚まして!」と。
「今回やっと葵つかさとして生きる覚悟ができたというか、葵つかさでいいねんでってやっと思えた。そしてそこにかんなちゃんがいてくれてよかった。そんな存在いなかったからね。あなたのやってることは他の人ができないこと。人ができないことをやってたら、どんどん自分の道ができるね」
「それを示してくれたのは『葵つかさ』なんですよ」
写真展で確信した私の<宿命>
「終わったね!お疲れ!」と彼女が言った後、吉高寧々さんがやってきた。そして2人は最後に会場での写真を撮りにいった。エイトマンのトップ2人。彼女達はまるで姉妹のようだった。
私は今回の写真展で自分の<役割>を確信した。私の役割は<書くこと>だ。女優のこと、エイトマンのこと。私が見て聞いて感じたことを書く。それを世に発信する。そして記録として残していく。
この2週間書き続けてきて、文字の持つ力、影響力を改めて実感した。
私の文章を読んで会場に来てくれた人がたくさんいた。エイトマン社長の言葉を読んで救われましたと会いに来てくれた人がいた。女優への印象が変わりその女優のファンになった人がいた。そのことを喜んでくれた女優がいた。
誰かを救い喜ばせることができる。それが文字であり、その文字を書くのが私の<役割>、そして<宿命>だと確信した。
”私、ごっつい宿命を背負ってしまったな・・・”
少し鳥肌が立った。
寧々さんとつかささんが、ぐしゃぐしゃの顔で抱き合い、それを社長に撮られている。
「私たち、今世(こんせ)、正解やったよな。名前残したよな」
彼女はずっと『葵つかさ』で生きる覚悟ができずにいたのだろう。これだけ評価をされていながらもずっと自信がなかったのだろう。それはあまりにも苦しくて悲しいことのように思えた。私はそんな彼女を救いたくなった。「え、あの、自意識過剰かな」。
この日、つかささんが述べた彼女の思い。本来ならば、それを聞いた会場の人の心にしか残らない。そして数日後には薄れて消えていってしまうだろう。しかし私が書くことで、つかささんの思いは会場にいなかった何百人何千人にも伝えることができ、文字として薄れずに残すことができる。これってすごくない?
お待たせしました。私はあなたたちのことをしっかり書き残していきます。あなたたちの強さ弱さ、喜び怒り、苦しみ悲しみ、全てを伝えていく。今世をさらに素敵なものにしよう。あなたたちが懸命に生きた証をバトンとして次の世代に残していこう。
だから安心して闘い続けて。