見出し画像

80才の童話チャレンジ

ドクター・クレちゃん(第1話)

 クレちゃんは、朝(あさ)起(お)きたとき
ママのすがたたが見(み)えないと、おナベ
をひっくりかえしたような大(おお)さわぎ
を起(お)こします。

 「ママ、ママ、ママこっちに来(き)て!」

 なかなかママがあらわれないと、となり
の部屋(へや)からバーバが飛(と)んできて、
なんとかなだめようとします。

 「バーバ、いやだ!ママがいい!」
 「ママは、いまおそうじでいそがしいの」

 いちど泣(な)き出(だ)すと、クレちゃんは
火がついたように止(と)まりません。ママの
すがたが見えるとやっとおさまります。

 クレちゃんは、毎朝(まいあさ)、洋服(よう
ふく)を着(き)るときも、自分(じぶん)でで気
(き)に入らないのはぜったいに着(き)ようと
しません。

 「これ、いやだ!」
 「どうして、かわいいじゃない」
 「いや、いや!」
 「まあ、これじゃ、(いやいやいえもん)
   みたいね」

さて、きのうはクレちゃんのお誕生(たん
じょう)日(び)でした。それで、パパが3才の
おいわいに、すてきなプレゼントを買(か)っ
てくれました。それはおもちゃのお医者
(いしゃ)さんセットで、大好(だいす)きな
聴(ちょう)診器(しんき)が入(はい)っていた
のです。

 「わあー、ちょうしんきだ!」
 「まあ、よかったね」

パパもママもバーバもうれしそうにニコニコ
笑(わら)っています。パパは大(おお)きな
病院(びょういん)のドクターで、クレちゃん
はパパのまねをして、よく診察(しんさつ)
あそびをしています。

きょうは、自分(じぶん)の聴(ちょう)診器
(しんき)で、ママ、バーバ、ジイジとじゅん
ばんに診察(しんさつ)をはじめました。

 「はい、ママ、つぎはバーバとジイジ」

クレちゃんはなんどもくりかえすので、3人
は疲(つか)れて立ち上(たちあ)がろうとしま
した。すると、クレちゃんは「シンサツ、
シンサツ、シンサツ」といって、あとを追
(お)いかけてきます。とうとうみんなは相談
(そうだん)して、押(お)し入(い)れや、納戸
(なんど)にこっそりかくれることにしました。

(おかしいな、ママとバーバ、どこ?)

クレちゃんは、部屋(へや)をぜんぶさがした
のに見(み)つかりません。そして、はだしの
まま庭(にわ)にでていきました。太陽(たい
よう)の光(ひかり)は芝(しば)ふの隅(すみ)の
イヌ小屋(ごや)に、さんさんとふりそそいで
いました。

イヌごやのうしろに回(まわ)ったとき、なに
かにつまづいてころんでしまいました。体
(からだ)ごとカプセルようなものにすいこま
れると、急(きゅう)に回転(かいてん)しながら
動(うご)きき出(だ)しました。クレちゃんは
しんぞうが止(と)まるほどおどろいて、その
まま気(き)を失(うし)ってしまいました。

「きゃー、助(たす)けて、ママー!」

 ママには、クレちゃんの声(こえ)は聞(き)
こえませんでした。というのは、クレちゃん
は、カプセルのようなものにすいこまれた
からです。   

しばらくすると、カプセルが止(と)まって
ドアが開(ひら)き、外(そと)にドスンとつき
出(だ)され、やっと目(め)がさめました。
どうやら見たことのない場所(ばしょ)に迷
(まよ)いこんだようです。

(痛(いた)い!…でも、ここどこ?ママー)

おしりをさすりながら、立(た)ちあがると
頭(あたま)が天井(てんじょう)に届(とど)き
そうでした。中(なか)はまっくらでしたが、
すこしはなれたところがぼんやりと薄明
(うすあか)るくなっていました。その光
(ひかり)を頼(たよ)りに、手さぐりでこわ
ごわ前(まえ)のほうに進(すす)んで行(い)き
ました。

するとドアが見(み)えてきて、すきまから
光(ひかり)がもれていました。ドアに近
(ちか)づくと、すすり泣(な)きと、うめき
声(ごえ)が聞(き)こえてきました。クレちゃ
んは少(すこ)しこわかったけれど、思(おも)
いきってドアをノックしました。

 「だれか、いますか?」
 「ハーイ」

返事(へんじ)といっしょにおくの方(ほう)
から、大(おお)きなモグラのお母(かあ)さん
があらわれました。びっくりしたクレちゃ
んは、あわてて走(はし)り去(さ)ろうとしま
した。

 「まって、クレちゃん!」
 「ええ?わたしのことしってるの?」
 「まいにちクレちゃんを見(み)てたん
  ですよ」
 「ええ?どこから」「ほら、庭(にわ)に
  イヌごやがあるでしょう?」
 「うん、あるけど…」
 「そのうしろのひみつのあなからです」
 「ああ、さっきカプセルがあったとこ?」
 「そう、パパにみてもらおうと、そこから
  なんども見(み)たのに、イヌがこわくて
  だめでした」
 「ふーん、そうだったんだ」
 「でも、きょうはよくきてくださって」
 「でも、わたしドクターじゃないよ」
 「いえいえ、りっぱなドクターですわ。
 ちょうしんきをもっていらっしゃるし」
 「でも、そんな…、ドクターだなんて…」
 「おねがいです。どうか赤(あか)ちゃんを
  助(たす)けてください」

 クレちゃんは、ことわりきれなくなって、
ベットのそばにいきました。でも、クレ
ちゃんはパパのように診察(しんさつ)でき
ません。

しかたがないので、うでをくんで考(かんが)
えごとをしました。すると大好(だいす)きな
パパの顔(かお)が浮(う)かんできたので、
(そうだ、「心(こころ)のでんわ」をして
みよう)と思(おも)いつきました。

 (もしもし、パパです、…か)
 「ああ、クレちゃんか、どうしたの?」
 (あの、いまクレちゃん、困(こま)ってるの)
 「あっそう、どうしたの?」
 (あの、モグラさんの赤(あか)ちゃんが病気
  (びょうき)なの。クレちゃんがドクターに
  なってなおすの)

  「ええ?モグラさんの赤ちゃん?クレ
   ちゃんがドクター?すごいなあ、
   ほんとに?」
  (ほんとだよ、だから、パパ助(たす)けて)
  「あっそう、それはたいへんだ、じゃ、
   こうしょうか」

 パパの口(くち)ぐせは「あっそう」です。
クレちゃんはそれを聞(き)いてほっとしました。
パパはかんたんな方法(ほうほう)を、教(おし)
えると約束(やくそく)してくれました。

クレちゃんは安心(あんしん)して、赤(あか)
ちゃんのいるベッドに近(ちか)づきました。
赤ちゃんモグラはまだとても小(ちい)ちゃい
です。いまはひたいに汗(あせ)をいっぱい
かいて、いきも苦(くる)しそうです。

 「息子(むすこ)のキキです。3日(みっか)
  ほど前(まえ)から熱(ねつ)が出(で)て、苦
  (くる)しんでいるのです」
 「そうですか、じゃみてみましょう」

 クレちゃんは、パパの教(おし)えにした
がって、診察(しんさつ)をはじめました。
まずひたいに手(て)をあて、つぎに手首(て
くび)のみゃくを計(はか)り、さいごに胸
(むね)に聴(ちょう)診器(しんき)を当(あ)て
ていきました。しんさつの結果(けっか)を
パパに電話(でんわ)で伝(つた)えました、
すぐ返事(へんじ)がきたので、そのまま
モグラのお母(かあ)さんにも話(はな)しま
した。

 「軽(かる)い肺炎(はいえん)のようです。
  静(しず)かにねていればすぐ回復(かい
  ふく)するそうですよ」
 「そうだったんですか、ああ、よかった」
 「食後(しょくご)に薬(くすり)をきちんと
  のませてくださいね」
 「はいわかりました、先生(せんせい)、
 どうもありがとうございました」

 クレちゃんは、もうりっぱなドクターの
ようなふるまいでした。いつもパパのまね
をしていたのが、こんなときに役(やく)に
立(た)ったのでしょう。お母さんモグラは
こしをまげて、なんどもお礼(れい)をいい
ました。

クレちゃんは、もう少(すこ)しモグラさんの
家(うち)にいたかったけれど、ママが心配
(しんぱい)いするので、そろそろ帰(かえ)る
ことにしました。

すると、モグラのお母(かあ)さんから、お礼
(れい)においしい「おいもケーキ」をごち
そうになりました。それをいっぱい食(た)べ
てから、クレちゃんはお母さんに見(み)
おくってもらいました。

こんどはモグラのお母さんに教(おそ)わった
とおりスイッチをおすと、それはきちんと
回転(かいてん)しはじめました。しばらく
すると、小(ちい)さくちぢんでいたクレちゃ
んは、もとの大(おお)きさにもどって、ふた
たび地上(ちじょう)にとびでました。

 クレちゃんがイヌごやのうしろからとつ
ぜん飛(と)び出(で)てきたものだから、ママも
バーバも、びっくりしてかけよってきました。
ママはクレちゃんをしっかりだきしめました。

 「クレちゃん、どこへ行(い)っていたの、
  心配(しんぱい)したじゃない、ケガは
  ないの?」
 「ママ、ごめんなさい、だいじょうぶ」
 「クレちゃんが急(きゅう)にいなくなって、
  心配(しんぱい)で、心配で…」
 「ごめんなさい、もうしないから」
 「そう、ええ?なにをしないの」
 「ううん、なんでもなあーい」

 クレちゃんが地上(ちじょう)から消(き)えた
のは、わずか3分(さんぷん)ほどでしたが、
じつは地下(ちか)では三十分(さんっじゅっ
ぷん)いたことになります。

 その夜(よる)、パパが病院(びょういん)から
帰(かえ)ってきたとき、クレちゃんを抱(だ)き
かかえて言(い)いました。

 「クレちゃん、うまくいった?」
 「パパ、シーッ、だまって」
 「うん、どうして?」
 「シロに秘密(ひみつ)だよ、怖(こわ)いん
  だって」
 「あっそう、秘密か、わかった」

 ママはふしぎそうな顔(かお)をしていた
けれど、夕(ゆう)ご飯(はん)のしたくがある
ので、台所(だいどころ)にもどっていきまし
た。パパはクレちゃんをおんぶしながら
「クレちゃん先生(せんせい)、おふろに入
(はい)りましょ」といいながら二かいにある
お風呂場(ふろば)への階段(かいだん)を上
(のぼ)っていきました。いつもおてんばな
クレちゃんが、きょう大(だい)かつやくした
先生として大(おお)いばりです。二人(ふたり)
はワイワイはしゃぎながら服(ふく)をぬいで、
お風呂場(ふろば)のオモチャといっしょに遊
(あそ)びました。

 その三日(みっか)後(ご)に、クレちゃんは
キキのお母(かあ)さんから、食事(しょくじ)に
呼(よ)ばれました。でも、ママが心配(しん
ぱい)するといけないので、こんどはパパも
一緒(いっしょ)に行(い)くことになりました。
それから、二人(ふたり)でときどき遊(あそ)び
に行くと、パパがキキを見(み)てあげました。
キキはすっかり元気(げんき)になって、クレ
ちゃんとなかよく遊(あそ)べるようになりま
した。そのようすをしって、モグラの近所
(きんじょ)の赤(あか)ちゃんたちも、クレち
ゃんのパパの診察(しんさつ)を受(う)けるよう
になったのです。

二人はいまではすっかりモグラさんたちから
頼(たよ)りにされています。クレちゃんは
パパといっしょに、聴診器(ちょうしんき)を
首(くび)にかけて、診察のお手伝(てつだ)いを
しています。もうすっかり本物(ほんもの)の
ドクターのようです。

                 おわり

小さなこどでも読めるようにルビを打ちまし
たが、「ドクター・クレちゃん」の話は楽し
かったですか。それでは、次の童話も応援
(おうえん)してくださいね。

アナミズ (2024.01.31)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?