女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(71)龍太の独白、その後...。
堂島龍太vsASAMI戦から2年少し。
5月ゴールデンウィーク中に行われたNLFSの自主興業は大盛況だった。
もう、格闘技興業会社『G』を頼らなくてもやっていける程だ。
若生勝正は背後にまわられた。
首に腕がまわってくると、そのままうつ伏せに倒された。必死にもがく若生だが動きが鈍くなってくるとレフェリーが試合ストップ。MMA55kg以下級日本5位若生勝正をデビュー4戦目20歳の森倉友梨が倒した。
グシャ!
黒木陽子が渋谷秀郷の頭を押さえ込むとその顔面に膝を叩き込んだ。渋谷は顔面を朱に染め戦意喪失。
彼もMMA55kg以下級6位であり黒木陽
子はデビュー4戦目の19才。
今や、森倉友梨、黒木陽子がNLFSの2枚看板で新たな時代に入った。
時代は常にその時代の新たなるスーパーヒロインが登場するのだ。
NOZOMI、天海瞳、ASAMIも既に引退し一時はNLFSの戦力ダウンが危惧されたが、相変わらず頑張っているシルヴィア滝田、奥村美沙子を中心に森倉友梨や黒木陽子のような新たなヒロインも誕生。その後を追いかける少女たちもあとを絶たないようだ。
女子独特の精神肉体両面の長所を活かしたNLFS独自の科学的トレーニング。その格闘技におけるノウハウも従来の常識を覆す改革的なもので男女差が縮まってきたのは誰の目にも明らか。
それでも、まだまだだわ...。
NOZOMIはそう考えていた。
彼女は現在でもNLFSの代表であるが、その経営には一切口を出さない。
新たな女性スタッフも迎え、実務的には有能な榊枝美樹が中心になって今後の経営は任せても良さそうだ。
NOZOMIこと山吹望も30才になった。
ここで嬉しいニュースがある。
龍太と(天海)瞳の間に子が誕生した。
『堂島瞳太郎(とうたろう)』と名付けられた。いかにも格闘家であったふたりの血を分けた感じの快活で気の強そうな男の子である。
龍太は自分の子を持ってみて初めて両親の本当のありがたさを知った。
母(佐知子)の喜びようといったら...。
孫が生まれた瞬間は嬉しさのあまり泣き叫んでいたほどだ。
龍太も瞳も佐知子に瞳太郎を取られて苦笑いすることしばしば。それに、血が繋がっていないとはいえ、継父の今井宗平も自分の初孫誕生に大喜び。
更に、更に、、妹の麻美が瞳太郎を大変可愛がってくれる。
「瞳太郎かわいいね、、絶対、将来私の子分になるから(笑)」
瞳太郎は現在1才になるが、麻美はそう言って甥っ子の顔見たさに別に居を構えた龍太、瞳夫妻の家にちょくちょく顔を見せては瞳太郎と遊んでいく。
瞳太郎もそんな麻美に懐いている。
龍太は家族中が瞳太郎を中心に、笑顔が絶えない日々に幸せを感じている。
瞳太郎誕生の他にも環境の変化が色々ありました。
(以下、龍太の独白)
去年、大学を卒業した僕はこんな身体で就職もままならず、瞳や瞳太郎を守っていけるのか?と悩みました。
瞳は自分が働くと言ってくれるけど、子育てに忙しい。それに母や今井さんにいつまで頼るわけにもいかない。
ところが僕には意外にも文才があったのです。
スポーツ観戦記をインターネットで発表すると評判になり、出版社から度々仕事の依頼もくるようになりました。
格闘技出身の僕ですが、実は一番憧れていたのは野球選手。父(源太郎)のことがなければ、僕はプロ野球選手を目指していたかもしれません。
細かいことを言うと長くなるので省きますが、スポーツ紙や雑誌に野球関係記事を中心に連載を持ちどうにかこの道で食べていける目処が立ちました。
継父の今井さんは50になり格闘技ジムトレーナーを辞め、小さな店(居酒屋)を持つことが出来ました。
今井さんは若い頃料理の勉強もしたことがあるようで、母とふたり忙しいけど充実した毎日を送っています。
店名は『酒処・源龍』 この店名は麻美のアイデア。意味は分かりますよね?
母は今井さんの籍に入り今井佐知子になりましたが、僕は源太郎父さんの姓をそのまま継ぎ瞳太郎にそれを引き継いでもらうつもりです。
麻美も堂島のままですが、将来結婚したらどうなるか分かりません。
妹の麻美は現在女子大生になり充実した学園生活を送っているようです。
麻美は山吹望さん(NOZOMI)が新しく立ち上げたファッション関係会社の専属モデルとしてたまに舞台にも立っているんですよ。自分の妹ながらその美しさに魅入られるほど。これが、次々と男子格闘家を倒した女豹ASAMIだったとは信じられません。
どうやら、麻美は将来山吹望さんと一緒に仕事をやっていきたいらしい。
麻美は今井さんと母がやっている源龍でアルバイトもやっています。
でも、今のところ彼女が一番楽しそうにしているのは、甥っ子瞳太郎と遊んでいる時ですね。
僕らファミリーはそんな感じです。
ん? ところで、麻美はNOZOMIさんとの引退試合は実現したのかって?
そして、結果はどうなったのかって?
実現しましたよ。でも、それは....。
(龍太の独白終わり)
龍太も言うとおり、NOZOMIの麻美相手の引退試合は予定通り行われた。
龍太vs麻美戦から一年後の大晦日であった(現在から一年半前)。
しかし、NOZOMIは植松拓哉との戦いで燃え尽き、麻美は兄との血戦で憑き物がが落ちたように戦う気力を失ってしまい突然引退表明。
それでも大晦日のリングで両者はダブル引退試合、引退式として行われた。
ルールは5分1ラウンド。
エキシビションマッチとして行われることになった。もう、NOZOMIも麻美もシュートマッチするだけの心身の状態ではなかった。
ド派手な入場式だった。
お互いに最新のファッションに身を包みミニスカートから伸びる美脚に全国格闘技ファンの目を誘った。
まるで、格闘技というより女の美しさを競っているようでもあった。
リングインすると、NOZOMIは蛇柄、
ASAMIは豹柄のスポーツビキニ姿になると場内から大歓声飛び交った。
シュートではない、たった5分間の戯れにも似たエキシビションだったが、
流石に両者の技術は高く多くの格闘技ファンを唸らせた。
この引退式を演出したのは榊枝美樹。
全てが終わりハグしあうふたり。
その時だった!
場内が突然暗くなると、静かなミュージックが流れてきた。
(実況)
「なんだ! 突然場内が暗くなり音楽が流れてきたぞ.... あっ!花道の向こうに人影4~5人が現れた。誰だ? いかにもいかつそうな男達のようだぞ...」
花道の向こうのシルエットは5人?
皆、黒服の正装。
両手には花束を抱えているようだ。
まず先頭のシルエットにスポットライトが当たった。
誰だ!?
(実況)
「ダ、ダン嶋原だぁ~!」
榊枝美樹の演出はとんでもない感動をもたらすことになった。
次回、感動のフィナーレ。
最終話となります。
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