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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』(4)敗れ去る男の刻印。

堂島源太郎 vs NOZOMIをもう少し回顧。

堂島にとっては、キックボクサーとしての誇り、それ以上に男として、女子高生には絶対に負けられない。
しかし、もう35才にもなる自分が、あの無間蛇地獄と例えられるNOZOMIの柔術を防ぎ切ることは可能だろうか? テイクダウンを奪われ寝技に持ちこまれたら終わりだ。そんな不安の中ゴングは鳴った。

堂島は万全な体調、まるで日本王者時代の20代に戻ったかのような動きを見せ、パンチ、キックのキレも全盛期を思わせる。
トレーナーの岩崎、今井ら「チーム・ド根性源太郎」と共に取り組んできた、徹底したヒット・アンド・アウェイ作戦。そして長身で脚の長いNOZOMIには有効なローキックが彼女を追い詰める。
途中、何度か危険な局面はあったものの、
最終ラウンド、残り1分を過ぎるまで堂島はNOZOMIから3度もダウンを奪っている。このまま時間過ぎれば大差の判定勝ち。

一瞬の隙を突かれた。

NOZOMIは堂島の背後にまわると、立ったままその首に細く長い腕を巻き付けた。
standing choke sleeperである。
こうなったら抜け出すのは容易ではない。時間まで耐え抜くしかないのだ。
マッチョな男子選手のチョークはパワーはあるが荒々しいだけに隙もある。しかし、女子NOZOMIのそれは、細く靭やかで紐のようにヒュッと正確に巻き付き首に密着する。堂島は必死に抜け出そうと抵抗するも無駄であった。薄れゆく意識…。

ここでタラレバ?仮説。

それまで堂島は明らかにポイントでリードしていた。このまま最終ラウンドを乗り切れば大差の判定勝ち。セコンドから「このまま逃げ切りましょう」との指示。
しかし、格闘技人生最後のラウンド、このまま逃げて終わるのは悔いが残る。それではド根性源太郎の名が廃る。徹底したヒットアンドアウェイを貫いてきた堂島が、自らNOZOMIのゾーンに踏み込んだ。その結果があの宙吊り公開絞首刑なのだ

NOZOMIも試合後回想している。

“ 絶対タップしない堂島さんが不気味で怖かった。このままでは判定で負けてしまう。だから限界まで絞め上げた… ”

このような男女対決、絶対負けられない男の立場と、負けても ”よくやった!“ と称賛される女とでは、戦う前から精神的アドバンテージがあるのは言うまでもない。
最後まで堂島がヒットアンドアウェイを貫いていたら勝利していた可能性は高かっただろう。 否、それとも雌蛇NOZOMIのことだから違う形で堂島を仕留めていたかもしれない。それは誰にも分からない。
作者としての心情的にはあれさえなければ堂島が勝っていたと思いたい。

堂島はNOZOMIの腕の中で失神する。そして、二度と意識を取り戻すことなく帰らぬ人となった。薄れゆく意識の中で堂島が最期に見たのは家族の姿。堂島はそんな家族一人一人に心の中で声をかけた。
(ある意味、ここがこの物語最大のテーマに触れていることになります)

“佐知子、、こんな俺(女子に負ける)でも、お前なら世間の目を気にせず必死に戦った俺を称えてくれるよな? 引退したら家族みんなで旅行でも行こうな”

何とも切ない。負けはともかく、無事にリングを降り家族旅行をしてほしかった。

” 麻美、パパはこうして女の子に負けちゃうけど、かっこ悪いかい?  今まであまり構ってやれなかったけど、引退したらいっぱい遊ぼうね。お前は可愛い娘だから“

女の子に負けるパパはかっこ悪いかい?
堂島の気持ちを思うと胸が熱くなる。

“ 龍太、父ちゃんは女の子に負けてしまうけどこれが限界なんだ。お前との約束(一発KOする)守れなかったな。それでも死力を尽くして、全力で戦った父ちゃんを誇りに思ってくれたら嬉しいんだけど… ”

この時の龍太は感受性の強いまだ10才。
男に戦いを挑んだNOZOMIを憎悪し、それに負けた父を軽蔑していたでしょうね?
でも大丈夫! アナタの息子は父を尊敬し逞しく成長してゆきます。


リング禍。。。
堂島源太郎が帰らぬ人となったのは、正規試合の末であって、NOZOMIにその責任はない。そうであっても、一人の男を亡き者にし、家族から愛する夫、父の命を奪ってしまったNOZOMIの悩みは深かった。
格闘技を続ける意味を失ってしまっていたNOZOMIは、堂島源太郎の仏前にお線香をあげに行った際、家族の前で「戦うことの意味が分からなくなりました。堂島さんとの一戦を最後にリングを降りようと、、」と胸の内を明かした。

「それじゃ、何の為に源太郎はアナタと命を懸けて戦ったの? アナタは堂島源太郎を倒した女として、それに相応しいと世間に証明する責任がある。お願いだから主人の死を無駄にしないで!」

NOZOMIは佐知子の言葉に応えなくてはならないと思った。そういう「十字架」を背負った。これは宿命なのだ。

その時、堂島源太郎の息子龍太、娘の麻美が「将来NOZOMさんと戦いたい。そして父のリベンジを果たす」と訴える。
NOZOMIは「私が戦ってみたいと思わせるだけの、、それに相応しい実力をつけたら喜んで挑戦を受けるわ…」と約束。
NOZOMIと堂島兄妹(龍太・麻美)の宿命はここから始まるのだった。

堂島源太郎の戦いは、勝っても負けても必ず爪痕、否、何かを残すと言われてきた。敗れはしたものの、NOZOMIの挑戦を受けたからこそ、その後の格闘技界における「ジェンダー・レス論」が議論されることに繋がったのだ。それ以上に彼の遺伝子たる龍太&麻美に、その生き様を見せたことこそ敗れ去る男の刻印なのだ。

次回からは『女豹の恩讐』の回顧に移ります。堂島源太郎、NOZOMIを中心とした物語から、堂島兄妹の成長物語へ。
ここでは多くの男女シュートマッチがありますので、主なものをダイジェスト的に語っていこうと考えております。

次回更新は来週?の予定です。

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