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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (20)男は女に絶対負けてはならない。

尊敬する父(堂島源太郎)が、目の前で女子高生ファイター(NOZOMI)に絞め落とされるのを見て、息子の龍太、娘の麻美はどんな気持ちだったでしょうね?
特に息子の龍太にとっては、同じ男としてどんなに悔しかったことか? 彼にしてみれば父は男の強さの象徴であり、宗教にも似た感情を抱いていたことでしょう…。

それ(父)がまだ17才の女の子に倒された。

信じるものが崩れ落ちた瞬間の龍太の気持ちを考えると想像を絶するものがある。

女の子である麻美には兄の男としての気持ちは分からないが、やさしくて大好きなパパが女の人に痛めつけられている。パパが痛そう、、苦しそう、、 かわいそう…。 
麻美はモデルとしてのNOZOMIファンだったけど、パパの首を気絶するまで絞めるなんて、、何てひどいことするの、、、。

龍太と麻美の父は帰らぬ人となった。

父に代わりNOZOMIへのリベンジを心に誓う兄と妹。この『女豹の恩讐』は、そんな堂島兄妹の復讐物語であります。

堂島源太郎の死後5年。
龍太は中三(15)、麻美は小六(12)になっていた。それまでのことを書き連ねると長くなるのでざっと。

龍太は父もキックボクサーになる前に所属していたKG会空手道場で日々鍛錬。しかし打撃系格闘技だけでは打倒NOZOMIは難しいと考え中学に入ると柔道部へ、今ではその主将を任されるほど。
彼は父のトレーナーを努めていた今井にはキックボクシング、岩崎にはグラップリングを定期的に指導を受けていた。
格闘技なんてやったことのない麻美は、父の死後レスリングを始め、都の大会では男の子に混じって準優勝するまでに。更に父が所属していたKG会空手を兄のあとを追うように入門するとメキメキ上達した。
兄妹の格闘家としての才能はかなりのもので、それは「打倒NOZOMI」というモチベーションがあったからに他ならない。

そんなある日。
KG会道場で龍太は麻美にスパーリング形式の稽古をつけていた。倒されても倒されても向かってくる妹に舌を巻く龍太。

そこへ、ある来訪者が現れた。

デニムのミニスカートから伸びる美脚、鍛えられた長身の肉体、精悍な褐色肌。彼女もKG会出身であり、ケンカ空手少女との異名があった。今ではNOZOMI率いるNLFSの
スター選手であるシルヴィア滝田だ。

シルヴィアは道場主に「堂島源太郎さんの息子さんとスパーリングさせてほしい」と頼み込み、シルヴィアと龍太のスパーが急遽実現することとなった。
シルヴィア20才、龍太15才。龍太は小学生時代シルヴィアに稽古をつけてもらったことはあったが、今の龍太は15才、どこまで通用するのか?倒すつもりで挑む。
シルヴィアも小学生時代、堂島源太郎に胸を借りたことがあり褒めてもらったことが忘れられないのだ。そんな源太郎の息子はどんなものか興味があった。
KG会空手でのU15では、全国トップレベルの龍太だが、シルヴィアは女子といっても
元幕内力士の顔面を潰し、敗れたとはいえ村椿和樹と戦いダウンも奪っている。スパーはグローブ装着、龍太はフェイスガードも装着を条件に行われた(シルヴィアはノーガード)。そして、壮絶なものになった。

このスパーの詳しい模様は、本編『女豹の恩讐』(27)KG会空手道場〜(28)龍太!シルヴィアに挑む。 をご覧下さい。

同じくKG会空手道場で、龍太がシルヴィアの胸を借りたのは5年前。その時はまだ10才で、シルヴィアは15才、手加減してもらってのものだったが今は違う。
龍太は受け体勢のシルヴィアに向かって思いっきり攻め立てた。その圧力にシルヴィアも驚きを隠せない。
(KG会、U15で全国屈指の少年、、15才と言っても男の子は強い。それに流石は、あの堂島源太郎さんの遺伝子、、)

龍太の下段蹴りがシルヴィアの下腿部に決まると、続いて下腹部へ突き。シルヴィアは顔を顰めて膝をついた。
立ち上がったシルヴィアの顔色が変わる。このままでは自分が倒されてもしまうと感じた彼女は、龍太の頭部に突き、パンチ、、
フェイスガードに守られているとはいえ、その破壊力ある打撃に脳味噌が揺れる。そして本気のローキックが龍太を襲う。
(すごい!あの村椿さんからダウンを奪った打撃だ。もう立っていられない…)

それでも龍太は倒れない。逆に前へ前へ出る龍太。下がったら負けだ!という父の教えが常に頭にある。
(倒れない、、何なのこの子は?)
龍太のタフさに驚くシルヴィアに隙が出来た。その顔面に龍太のストレートパンチが飛んでくる。シルヴィア2度目のダウン。しかし、同時に龍太も倒れ込んだ。シルヴィアのローキックを何発も受けていたので、足が悲鳴を上げたのだ。

「ストップ!!」

そこで道場主が止めに入った。
とてもスパーとは思えない死闘、これ以上続けてケガでもされたら大変だ。

「龍太君、強くなったわね、、びっくりしたわよ。流石、源太郎さんの息子さんね。いつか、プロのリングで戦いましょう」

「はい!今はまだまだですが、数年後必ずシルヴィアさんに挑戦します」

女とはいっても、シルヴィアはプロのリングで男子選手を次々と倒してきた。あのキック界のモンスター、村椿和樹には敗れたとはいえダウンを奪っており、元幕内力士雷豪の顔面を破壊し病院送りにしている。そんなシルヴィアと互角に渡り合ったのだから善戦と言ってもいいのかもしれない。しかし、当の龍太は納得出来ない。

このスパーは、自分がフェイスガードを装着してのもの。それに、シルヴィアさんは本気ではなかった。今の自分では絶対に勝てない。それに、NOZOMIさんはシルヴィアさんよりずっと強いんだ。
もっと、もっと、、精進しなければ…。

龍太は先を見ていた。
NOZOMIが龍太の父をリングに沈めたのは17才の時。龍太は現在15才である。2年後に、あの時のNOZOMIのように強くなれるのだろうか? しかも、あれから5年が経ちNOZOMIはあの時とは比較にならないほど進化し強くなっている。
シルヴィアはKG会の先輩であり、NLFSのスターとして活躍していると言っても女の人なのだ。男、15にもなれば、どんなに強くとも女には絶対負けてはならない。

シルヴィアは龍太に「いつかプロのリングで戦いましょう」と言った。
龍太はいつかNOZOMIに父のリベンジを果たすためには、シルヴィア滝田は絶対避けてはと通れない道だと思った。同じ、KG会空手をバックボーンにした格闘家。
父、源太郎もKG会出身であった。そこには宿命的なものを感じる。
後年、龍太とシルヴィアはプロのリングで拳を交えることになる。

兄とシルヴィアのスパーをずっと見ていた妹の麻美が、シルヴィアのもとに近寄ってきた。シルヴィアは、龍太と麻美の組手を見ていたので、その女の子が龍太の妹であることに気付いていた。

「シルヴィアさん。わたしも中学生になったら、NLFS入校テストを受けに行こうと思います。宜しくお願いします」

シルヴィアは麻美の鋭い眼光が印象的だと思った。後に、鎌田桃子が「女豹」と評した目にゾッとする思いだ。

「アナタ、龍太君の妹さんね? お兄さんとの組手見ていたけど凄いスピードね?レスリングも強いんだってね? 二人とも流石堂島源太郎さんの遺伝子。期待してるわ」

麻美は嬉しそうに頷いた。

さて、堂島麻美の小学生時代のエピソードを次回の更新で書きたいと思います。
これもあり得ないエピソードですけどね。
更新は来週になります。

つづく。

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