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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (26)女豹の男狩り。

堂島龍太は妹のデビュー戦の相手が迫田宗光だと知ると不安になった。迫田とは高校時代柔道でのライバルであり、現在は同じ大学の一年柔道部員。いけ好かない野郎だがその実力はよく知っている。

「堂島!お前が俺の挑戦を受けないから、代わりにお前の可愛い妹を絞め落としてやるからな。後悔するなよ…」

それは冗談には聞こえなかった。
確かに麻美はNLFSでのトレーニングで、兄である自分の想像を遥かに超える実力を身に着けているのだろう。しかし、麻美は高校男子柔道全国3位の恐ろしさは知らないはずだ。組んだら立っても寝てもまず身動き出来ない。つい、この間まで中学生だった女の子に対抗出来る相手ではない。
いくら何でもこのマッチメークは無茶だ!
麻美のデビュー戦、龍太は母佐知子、継父今井と共に客席にいた。

迫田宗光は颯爽とリングに上がると、花道の向こうから対戦相手のASAMIこと堂島麻美が現れるのを待ち構えていた。
日頃 “女なんか” と、女性蔑視とも受け取れる発言をしている迫田だが、実際にこうしてリングに上がると緊張した。
高校時代柔道全国3位、去年の高校生MMA甲子園トーナメントを制した自分が、よもや、半年前まで中学生だった女の子に負けるなんてことは思ってもいないが、そんな彼とて、NLFS所属女子選手が男子格闘家を次々と倒しているのは知っていた。それを考えると不安がないというのは嘘になる。
“ 男は強い! 絶対負けられない…”

薄暗くなる場内。
迫田の視線の先、花道の向こうに人影が映った。突然アップテンポなリズム、大音響の音楽が場内に鳴り響いた。すると、四方八方からレーザー光線がジグザグに飛び交い花道の向こうの人影に突き刺さった。
迫田が目にしたのは眼光鋭い少女、それも純白のセーラー服で入場してきた。

“ なんだなんだ! その格好はセーラー服ではないか、、俺はこんなのと戦うのか?”

この ”俺はこんなのと戦うのか?“ という違和感は、かつて、堂島源太郎が味わった気持ちと一緒である。あの時のNOZOMIもセーラー服で入場して源太郎を驚かせた。
NOZOMIは総勢20人以上の女子を引き連れド派手な入場だったが、麻美はたった一人で花道からリングに向かって来る。その表情は今日がデビュー戦という緊張感を微塵も感じさせず落ち着いたもの。その目は真っ直ぐリング上にいる迫田宗光を見据えている。女豹ASAMIのオーラはNOZOMIにも決して引けを取らない。新たな格闘技界のスーパーヒロイン誕生を予感させる。

この、堂島麻美のデビュー戦の詳しい模様は本編『女豹の恩讐』(50)セーラー服の女豹〜 (51)センセーショナル格闘ヒロイン。

セーラー服に身を包んだ女豹ASAMIこと堂島麻美は、ゆっくり花道を進むとロープに手をかけ恐るべき跳躍力でヒョイとそれを飛び越えリングイン。その目は真っ直ぐ迫田宗光を睨みつけている。
リング上で麻美と迫田は相対し視察合戦になった。無骨な男とセーラー服の少女が睨み合う光景は観ているものに異様に映っただろう。こんな二人がこれから本当にガチで拳を交えるのだろうか?
女豹ASAMIがセーラー服を脱ぎ捨てると、真紅の生地に豹柄ワンピース状の水着。
その16才とは思えぬ健康的なセクシーさに場内がどよめいた。迫田もそのオーラに圧倒され足が震えるのを感じた。

そして、ゴングは鳴った。

拳を構え低い体勢の迫田がジリジリと前に出ようとしている。彼は麻美を早めにつかまえ投げからの絞め技か関節技で極めてしまおうと考えていた。そんな迫田の周囲を麻美は空手流の構えでピョンピョン飛び跳ねている。迫田宗光は175cm 70㎏弱、堂島麻美は174cm 62Kg、、身長こそ差がないものの体重差はかなりある。

迫田の周囲をピョンピョン飛び跳ねながら麻美は考えていた。
“ 迫田さん、アナタは日頃女性蔑視の発言を繰り返してきた。私がセーラー服で入場してきたのは屈辱を与えるため。こんなセーラー服姿でやって来た女の子に負けたらアナタにとっては死ぬほどの恥辱でしょ?辱めを受ければいいわ”

迫田は大学生にもなった自分が、こんな大勢が観ている前で高校一年少女とリングで真剣勝負していることが信じられない。
万一、こんな女の子に負けるようなことあれば二度と外を歩けなくなる。彼は女子に負ける訳がないと思いながらも、緊張で足が地に着いていないのを感じていた。

迫田の目の前でピョンピョン飛び跳ねていた少女(麻美)が消えた。

すると、足元に何かが飛び込んできたのを感じた。有り得ない体勢、位置から低空超高速タックルに足を取られた。柔道という伝統的な武道しかやって来なかった迫田にすれば、格闘技にこんな基本はないのだ。いくら足腰の強い迫田であっても虚をつかれ防ぎ切ることは出来ない。

しまった!
テイクダウンを奪われた迫田は追撃に備え体勢を整えようとする。しかし、麻美はまるでヒョウのように倒れている迫田に飛び掛かかってきた。そして、馬乗りになったと同時にその顔面を殴打した。
迫田は口内から鉄の味をした血が吹き出しているのを感じた。自分に馬乗りになった少女が猛獣のように舌なめずりしながら拳を振り上げている。彼は少女に馬乗りになられ殴打されていることが信じられない。このままでは俺は男なのに女の子に負けてしまう。しかも、屈辱のKO負けか?

迫田に馬乗りになり、その顔面に一撃を入れた麻美はもう勝負は決したと思った。
“ 迫田さん、アナタは私の家族(父・兄)を侮辱した。そんなアナタがこうやって女の子にやられてどんな気分? これは、父や兄をバカにした制裁なのよ…”

マウントパンチ。
普通なら一気に連打で勝負を決めてしまうところだが、麻美は一発打ち込んでは迫田の表情を眺め、ガードが空いているところを狙い定め、正確にまた一発を打ち込む。
3〜4発決まると、迫田は鼻血を流し顔が変形してきたようだ。
それを見たレフェリーが試合を止めるより先に迫田は自らタップした。

1R 2分16秒。
迫田宗光はASAMIこと堂島麻美にタップアウト負けを喫した。
高校時代柔道全国3位にまでなった大学一年男子である迫田宗光を、まだ高校生になったばかりの女の子が血の海に沈めてしまったのは大変なインパクトであった。

センセーショナル格闘ヒロイン!
女豹ASAMIの衝撃デビューであった。

自らタップしたとはいえ、半失神状態の迫田は立ち上がることが出来ない。そんな迫田の周囲をレフェリーが、ドクターが、セコンドが心配そうに取り囲んでいる。
そんな騒然の中、麻美は勝ち名乗りを受けると静かにリングを降りた。
ようやく立ち上がろうとした迫田、両脇をセコンドに抱えられリングを降りた。
迫田宗光は柔道、大学をも辞め、その後の消息は定かではない。

リング上で男子選手を血の海に沈めてしまった娘(麻美)のデビュー戦を客席から母(佐知子)は信じられない気持ちで観ていた。
“ これが麻美なの… こんなに強いの?”
佐知子は娘のデビュー戦を前に、不安で不安で眠れない夜を過ごしていた。彼女にしてみれば、夫だった源太郎が女子選手に絞め落とされた光景がいつまでも残像となって消えない。娘の試合を観るのは源太郎の姿と重なって生きた心地がしなかった。
勝ったのは嬉しいけれど、これでは益々格闘技の道を突き進んでしまう。普通の可愛い女の子でいてほしいのに…。

母佐知子の隣でも、兄龍太が妹の勝利に驚きを隠せない。
迫田宗光は、高校時代柔道全国大会準々決勝で龍太に勝っている。そんな迫田に妹は何もさせず2分そこそこで倒してしまった。
あの有り得ない体勢からの高速タックルは何なのだ? 馬乗りになった瞬間に繰り出したパンチ、、、柔道しかやって来なかった迫田は打撃には全く反応出来ない。
いくら、高校生MMA甲子園トーナメントで優勝したといっても、あれは格闘技会社が募集した興行的な寄せ集めに過ぎない。柔道と総合格闘技は別物なのだろう。
そうであっても、麻美は天才ではないだろうか? この時、龍太は初めて妹である麻美のことを意識したのかもしれない。

いつか、俺と麻美は戦うことになる宿命、運命なのかもしれない。
兄妹揃ってデビューを果たした龍太と麻美はその後快進撃が続く。

” 兄と妹、禁断のシュートマッチ ”
に向かって。

さて、禁断の兄妹決戦に至るまで二人とも印象的な試合が他にもありました。
堂島龍太は奥村美沙子、シルヴィア滝田。
堂島麻美はダン嶋原と戦いましたね。


続きます。

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