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やっちゃば一代記 思い出(10)

大木健二の洋菜ものがたり
 胸わくわく、自慢の逸品
トレビッツ
パリのランジス市場でランチを相伴したとき、スモークサーモンの下敷きにされていたのが〔トレビッツ〕です。オリーブオイルと香辛料がよく効いていたこともあってこれは【大人の味。日本で売れる野菜】と確信、さっそく同業者三人と畑や冷蔵庫を見学したり、輸送方法を研究してみたりしました
そして昭和五十六年十月三十一日、わずか七ケースとはいえ、日本初輸入に漕ぎつけたのです。しかし、同業者が輸入を見送ったなかでの単独輸入だったので、清水寺の舞台から飛び降りるような不安な気持ちでいっぱいでした
そして、荷物が着いてみると、思い描いていた物とは大違い。品傷みしたものが多く、爪を真っ黒にして傷んだ皮をむく日々が続きました。聞けばイタリアからフランスの市場に入荷していたものがベルギー経由で日本に出荷されていたというのです。迂回していただけ、余計に手数料がかかり、鮮度も落ちていたことになります。以後、何度も赤字覚悟で新野菜を導入することになろうとは、当時は「神のみぞ知る」ことだったのです。
それでも百ケース位まとまって入荷するようになると、さすがに周りから注目されました。そこで原産地のイタリアに乗り込んで、地元市場の仲卸と掛け合い、ベルギー経由とはいえ、直に輸入することができるようになったのです。それも束の間、カリフォルニア産が台頭し始め、すっかり切り替えられてしまったのです。
トレビッツは特有の苦みと調理しても色が飛ばないのが特徴で、これが同じアブラナ科である紫甘藍(レッドキャベツ)との大きな違いです。
わたしとっては、胸をわくわくさせる、大人のムードを漂わす自慢の野菜ですから、田舎のホテルや北海道のレストランで、このトレビッツが利用されているのを見ると、実に嬉しくなりましたね。
保管さえきちんとすれば丸々使える業務用にピッタリの野菜ですが、半面、
一般家庭への普及は難しいという憾みがあります。
 

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