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やっちゃば一代記 実録(21)大木健二伝

やっちゃばの風雲児 大木健二の伝記
 オートバイ
十か月間、月給のほとんどを貯金に回して手に入れたのが二五〇CCの大型バイク。このバイクが健二のやま周りに拍車をかけた。セリ場を仲間の店員に任せ、パセリの栽培と出荷依頼に内房は保田、安房勝山にバイクを飛ばした
なにせ注文に間に合わないほどパセリ人気が高まり、健二の肝いりで栽培して、にわかに裕福になった産地は、【パセリ御殿】が相次いで建った。
 内房にすれば健二は福の神であり、それでいて律儀に手土産持参で訪れるものだから、どこの農家でも歓迎された。
 房州のやま周りは楽しかった。ぎざぎざの尾根と、すぱっと切り落としたような絶壁の目立つ鋸山が左に見え隠れしてくると、鮮やかな紺青の海と山々の緑が目の前に飛び込んでくる。絵画のような風景をバイクで突っ切る爽快さはひとしおである。
 保田に近づいていた頃、辺りは薄暗くなっていた。アクセルをふかし先を急いだ。道はまっすぐだった。竹藪の横を抜けたときである。地面の感触がふいに消え、健二はバイクもろとも空中に放り出された。
 「おーい、おーい、大丈夫か?。」
 「すごい音がしたな。雷か?爆弾か?。」
道が切れているのを知らずに畑に突っ込んだようだ。
農作業をしていたお百姓がぞろぞろ集まってきて、大の字の健二を心配そうに覗き込んでいる。
「どうやらたいした事はないようだな。あんた、随分無鉄砲な運転をするね。命を落とすところだったんだよ!。」
 奇跡的に脚のかすり傷だけですんだ。バイクも修理に出すほどでもなかった。翌日は休市だったので、海岸で貝や蟹を採って過ごし、海水に脚を浸かっているうちに擦り傷はかなり癒えていた。健二は自分を頑健に産んでくれた両親に改めて感謝した。

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