第一場ノ一
「なにコレ」
誰もいない、静かな昇降口。小声が響いて、思わず視線を巡らせた。
屋内シューズを放りだし、スルッと足を通す。
下駄箱に入っていたのは、1枚の手紙。封筒には入っていなかった。女子たちが校内で渡し合うような、特殊な折り方をされたものだった。
広げると、何かが飛びだしてきて、落ちた。さらに小さくおられた紙を、拾い上げる。片手で広げられるくらい、簡単に折られた紙には、読みにくい小さな文字が羅列していた。
息が詰まった。
体中を言い表せないほどの憤怒が駆け巡り、全身の熱を上げる。まるで身震いする獣のように逆毛立ち、瞳孔が開いたのを実感した。
ああ、良かった。まだ、死んでない。ここにある。
下駄箱が耳障りの悪い金属音を上げる。手のひらから伝わる冷たさに、安堵のため息が溢れた。
保健室に向かう。厭らしい手紙はクシャクシャにして、万が一にも落とさないよう握りしめた。本当は早く捨ててしまいたかった。しかし、万全を期するためには、安易にゴミ箱に捨ててしまうわけにもいかなかった。
思わず、拳に力がこもる。爪が食い込んだ。握りつぶした手紙から邪気に侵食されているような気がして、気持ちが悪かった。
保健室で借りてきたものをポケットに入れて、教室に向かう。その途中で、校舎外に立ち寄った。校舎を背もたれに、紙くずを広げる。ポケットからライターを取り出して、火を点ける。じわじわと燃えていく紙には、場所と時間が書かれており、何かしらの待ち合わせを促していた。またライターの火を点ける。のり移った火は、まるで私の怒りを表すかのように静かに燃え盛った。
「そろそろ離さないと、爪も燃えちゃうんじゃない?」
驚きに、のけぞる。真っ赤な閃光に染まった視界が、ぐらつく。
――何者にも混ざらない、黒。
衝動が蘇る。その首を、締めてしまいたくなる。
「久しぶり、大久保さん?」
2度と会いたくなかった――。
嘲笑う男に、私はただ、唇を噛みしめる他なかった。