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ヴァサラ戦記FN「並行世界と旧隊長」

ー これは、かつてのヴァサラ軍が経験した、最も過酷な戦い ー
作:はなまる


Ⅰ 概要

『ヴァサラ戦記FILM:RIVERS 並行世界と旧隊長』とは、はなまる氏によるヴァサラ戦記のオリジナル二次創作ファンノベルである。
はなまる氏は『オリジナル二次創作に参加している複数のユーザーが考案した多くのキャラクターを元に壮大な短編を企画』する、通称【劇場版】企画の先駆けであり、本作は同企画における第3弾となる。
(ゆえに、通称『劇場版第3弾』と呼称される)

なお、あくまでヴァサラ戦記の二次創作であるため、当然原作キャラクターも多く登場する。特に本作では「原作キャラクターvs創作キャラクター」の個々の戦闘がメインで描かれている。

舞台はオリジナルの都市である『ゼラニウム街』。
街は4つの区画と中央の極座に分けられた特徴的な造りになっており、この構造を生かして事実上の『四天王戦』を思わせるストーリーとなっている。

参加ユーザーははなまる氏本人に加えて、なのはな氏、ロロたんめん氏、ヤミナベ氏、そしてカヲルおぢ氏の計5名が主要メンバーとなり、そのほか数名のユーザーたちからキャラクター提供が行われている。

Ⅱ 主要な登場人物

※(ori)はオリジナルキャラクター

-ヴァサラ軍陣営-

・総督ヴァサラ
いわずと知れた覇王。

・一番隊隊長
???

・二番隊
隊長は「天神」アサヒ。七福と共にゼラニウム街に残された「とある問題」を解決すべく奔走する。作中には隊員時代のハズキ、イブキも登場。

・三番隊
隊長は「聖神」ヒジリ。窮地に陥った十三番隊を救うべく北の玉座に向かいメアとの戦闘を繰り広げる。

四番隊
隊長は「麗神」オルキス(ori)、副隊長はイゾウ(ori)が務める。物語の前日譚にあたる『ゼラニウム黒炎事件』の際にも出動しておりその経験を買われて出撃するも、敵の策に嵌り他の隊長たちと共に中央の極座へ誘い出され、ラミアと交戦する。

・八番隊
隊長は「武神」エイザン、副隊長は原作どおりアシュラとギンベエが務める。西の極座で苦戦する仲間を助けるべく、極座の主リピルと対峙する。

・九番隊:「風神」ロポポ 副隊長:ウキグモ(ori)
・十番隊:「雷神」マルル

ゼラニウム街の制圧作戦に際し民間人の避難を一手に担うことになり、彼らの離脱が臨時隊長二人が加入するきっかけとなる。副隊長ウキグモは、隊を離れて各所の援軍へ向かう。

・臨時隊長
「幸神」七福
:ゼラニウム街出身の情報屋。ヴァサラ軍の制圧作戦に当たっての情報提供者として同行するが、その本来の目的は友人であり街の支配者「ラミア」を救い出すこと。
今回のキーパーソン。『ソラ』という不思議な力を持つ猫を連れている。

「西の拳神」翠蘭
:ヴァサラ軍の依頼でゼラニウム制圧に助力すべくやってきた拳法家。どうやらファンファンと知り合いらしく、自分こそが真の「拳神」だと考えているため、この二つ名は気に入らない様子。

・その他隊長たち
五番隊:「怪神」カルノ(ori)・・・「雷の極み」の使い手。背が小さい。 
六番隊:「死神」ヤマイ(ori)・・・「病の極み」により常に体調不良の人。
七番隊:「拳神」ファンファン・・・原作通り。副隊長二人も健在。
十一番隊:「暴神」エンキ(ori)・・・火の極みと「巨剣ダンザイ」の使い手
十二番隊:「亞神」クガイ(ori)・・・イケメンだが飲んだくれ。
十三番隊:「盗神」ルーチェ(ori)/・・・えっちな隊長。副隊長はヒムロ。

そのほか各副隊長、隊員らも随伴。


-ゼラニウム街戦力-

中央の極座『ラミア』

舞台となるゼラニウム街の中央に鎮座する人物。ある事情で奇妙な異空間を操る強力な力を有しており、かつて自身を虐げていたゼラニウム街の指導者を誅殺し実権を掌握。
「町の闇を排除する」という目的で、集団粛清を行っていた。

この行き過ぎた粛清を阻止するためにヴァサラ軍がゼラニウム街へやってくると、彼は「救ってほしくない人間も救う」ヴァサラ軍を敵と認定し対立する。

極座の四神

東西南北の四つに分けられたゼラニウム街において、各方面の統治を任された四人の総称。それぞれが十二神将を凌駕するとも言われる実力の持ち主。

東の極座『マクベス』
四つの区画に分かれたゼラニウム街のうち、東側一体の統治を任された四神の一人。吸血鬼の血を取り込んだ特異体質の持ち主で、他の玉座の主に比べて「頭二つ違う」と言わしめる強者。統治を引き受けているのは本職にとっても都合が良いからで、普段はマフィアのボスとして活動している。
その孤高かつ野心的な一面から「梟雄公子」の異名を持つ

・西の極座『リピル』
街の西側一帯を治める四神の一角。ラミアとは彼がクーデターを起こす以前から関係があり、街の圧政によって姉を失ったことから「街を変える」と約束したラミアを非常に慕っている。その姉の頭蓋を常に持ち歩いており、華奢な身体からは想像もつかない身体能力で身の丈ほどもある巨大なカマを振るって戦う姿から、ついた異名は「死神」

・南の極座『セキア』
南を治める四神の一人。常に眠そうにしているだらしのない人物。
しかし、彼の領地のみ防衛のための兵士たちが配備されておらず、彼が極みの力で生み出した大量の幻影を操って「一人軍隊として戦う」事でカバーしている。圧倒的物量を誇る幻を操ることから、付いた異名は『幻魔』
また髪型がラミアと被っている。

・北の極座『メア』
北の玉座を治める四神の一角。本業は人形職人だが、その腕を応用して戦闘人形も多数制作し、自身の屋敷に配備している。
また、戦闘以外でも戦術立案に秀でているようで、ゼラニウム軍の参謀的役割も務めている様子。一方で身体能力は一般人以下であり、作中では脛をぶつけただけでノックアウトしかける場面も。異名はシンプルに『人形師』

旧ゼラニウム街の人物

・アメク
嘗てゼラニウム街を支配し、街中の人々を使って「輸血による極みの強制解放」という非人道的な実験を繰り返していた人物。前日譚にあたる『ゼラニウム黒炎事件』の原因も彼であり、ラミアはアメクとそれに賛同する者たちをすべて排除することをもくろんでいた。

ヴァサラ軍がゼラニウム街に出向くことになったのも、ラミアがアメクらを始末する過程で周辺の村々ごと犠牲にしていたため。要するにすべての元凶

Ⅲ ストーリー

本作の内容は以下の通り、大きく分けて4つの要素で構成されている。
①「七福」と「ラミア」の過去、および『黒炎事件』
②ラミアの計画とヴァサラ軍
③極座の四神との戦い
④中央極座の戦い

1.七福とラミアの過去

そもそもヴァサラ軍がゼラニウム街と関わるようになったのは、本作から四年前の時系列に当たる前日譚『FILM:REVERSE STORY:CENTRAL』で発生した「ゼラニウム黒炎事件」が発端。

・前日譚『FILM:REVERSE STORY:CENTRAL』
ゼラニウム街に暮らすおちこぼれの少年だったラミアと、自由を信条とする七福の出会いが描かれた前日譚。ゼラニウム街は、アメクの実験とそれを正当化するためのプロパガンダによって多くの子供が「輸血実験の失敗した人間」を差別的に扱う状態となっていた。
そして、まさに例の失敗作となったラミアは毎日ひどい虐めにあっていた。

しかし、そんなラミアと唯一普通に接してくれたのが、彼が虐めによって負った傷を治療してくれる幼い少女「リピル」と、同じく実験に否定的な考えを持つ「七福」だった。

ところが、ある日アメクの実験が失敗したことによって発生した災害によって、三人は離れ離れとなってしまう。

のちに『黒炎事件』として歴史に刻まれるこの出来事によって、ラミアは運命に導かれるように、街への憎しみを晴らすべく「異能の力」を手にする。

・『ゼラニウム黒炎事件』
ある日、ゼラニウム街を黒い炎が覆いつくす。人の手では消すことができないこの異様な炎は、多大な犠牲をもたらした。

この事件によって、七福は街の外へ避難。

しかし街に残ったラミアとリピルは、黒炎のもたらした苦しみの中にいた。
事件によって町の人口が減ると、残った者たちへの実験は次第に苛烈になっていった。かといって、街を出て生きることも子供のラミア達には困難であった。

そしてある日、行方不明だったリピルの家族が実験の反動で亡くなったことが明らかになる。そのショックでリピルは正気を喪失、姉の頭蓋を抱えて姉の生き写しを演じようとする狂気に堕ちていった。

鬱屈とした街での日々に徐々に擦り切れていったラミア。そしてついに、優しかった寺子屋の先生にまで裏切られ、とうとうアメクの次の実験台として町の中央にある研究所へ連行されてしまった。

そして、ラミアの臓器が生体パーツとして売り払われようかという時、彼の身体の奥から不思議な声が響いた。

ようやく会えたな……我らの王。

ラミア?

声を聴いたラミアは、己に宿った異能『裏の極み』の力に従って寺子屋の先生とその場の研究員たちを惨殺。

己のすべてを壊そうとした街「ゼラニウム」の修正を開始した。


2.ラミアの計画とヴァサラ軍

時は本編に戻り、ヴァサラ軍の十二神会議が開かれている様子から始まる。

その議題は「ゼラニウム街周辺の町村で発生している大規模粛清」である。
ゼラニウムの指導者は筆頭極師とよばれ、それに就任したラミアは過去のゼラニウム(人体実験など)にかかわった人間を片っ端から消して回っていた。

七福
「こいつらは消えて当然だと思う奴らは沢山いる。ゼラニウム街にはラミアを英雄視して志願兵になる奴もいる。ラミアはゼラニウム街の暗い過去そのものだ、そしてこいつらは未来永劫過去に復讐され続けて然るべき奴らだ」

ラミアの心中を慮り、ヴァサラ軍を説得する七福。

(ヴァサラ軍の懸念は、本編中の内容からではやや不明瞭だが、おそらく事情を知らずに粛清対象をかくまった町や彼らを援助した村などへと版図を拡大し、村人らをも同罪として粛清していた……といったところだろうか?)

そんなラミアの暴走を危惧して、過去に黒炎事件でも救助活動を行ったヴァサラ軍は、街の出身者である情報屋の「七福」と傭兵(フリーター?)の「翠蘭」を加えて、ゼラニウム街を鎮圧すべく出動する計画を立て、さらに13番隊によるラミア支配地域への偵察作戦も開始される。


……ところが、13番隊のルーチェとヒムロが偵察先で遭遇したのは『極座の四神』と呼ばれるゼラニウム街の幹部の一人、『人形師のメア』であった。


3.玉座の四神との戦い

なんとか生還した13番隊。

しかしこれで、ゼラニウム街へ向かうには、まずもってラミアが東西南北の各区画の統治を任せている四人の幹部……通称「四神」を無力化する必要が発生した。

七福の持ってきた情報によって、四神それぞれの配置を明らかにしたヴァサラ軍は、そのかつてない巨大な敵に対して、ヴァサラが召喚したとある助っ人と全12部隊のすべてを投入、総力戦を挑むことになる。

加えて、七福は友人であるラミアを怨嗟の凶行から救い出すべく、二番隊隊長のアサヒの力を借りて「アメクら旧ゼラニウム街残党勢力の撃滅」を企てた。(こちらについては後述)

以下、作戦内容
ヴァサラ軍の作戦は、おおむね以下のような計画であった。
①一週間以内に街の周辺を制圧。その後ゼラニウム街へ潜入したロポポとマルルが民間人を避難させる。

②東西南北すべての地点から隊長や副隊長ら精鋭を投入し、各玉座の防衛部隊及び四神を撃破、拘束(殺してはならない)。

③最後に中央の玉座へヴァサラを投入、ラミアを鎮圧。

この計画①についてはラミアに察知されつつも問題なく遂行された。
ただ②、③に関してはいくつかイレギュラーが発生することになる。


・作戦の経過と狂い
初めに計画の狂いが発生したのは、四神の予想以上の戦闘力であった。副隊長以上の精鋭を複数投入したにもかかわらず、その初期戦力は殆どが壊滅してしまった。

以下、対応戦力と被害
(東)対「マクベス」:被害/繭、ハズキ、イブキ、エンキ、ジャンニ 
(西)対「リピル」:被害/イゾウ、アシュラ、ウキグモ(援軍)
(南)対「セキア」:被害/シャオロン・キンポ―・ラヴィーン
(北)対「メア」:被害/ヒムロ及び13番隊隊員多数。

・各極座の決着
以上の様に多大な被害を出した四神との戦いは、最後にはヴァサラ軍の中でも特に強力な戦力である古参の十二神将、および特大助っ人らに任せられた。

東の決着
四神最強と謳われた「梟雄公子」を倒すべく投入されたのは、何とヴァサラがラミアと共鳴することでその力を利用し、パラレルワールドから呼び出した『カムイ』その人であった。

こちらのカムイは本編と異なり、なんと『闇の極みの正確なコントロール』が可能であった。その圧倒的戦闘力でマクベスの能力すらも奪い去り、最後は悪魔の如き強さで、変身によって強化されたはずの最強の四神さえもねじ伏せてしまった。

「今の俺の身体はこの姿に数分しかなれん…悪いが一瞬で終わらせてもらうぞ!!闇の極み『閻王』:暗夜行路!!」

マクベスを倒したカムイの攻撃『暗夜行路』

西の決着
西の四神は、ラミアの幼馴染であったリピル。ラミアを守るべく奮戦。その深い愛ゆえにすさまじい戦闘力で次々とヴァサラ軍を倒していく彼女だったが、そこへ現れたのは「武神」エイザン。

エイザンはリピルの「消の極み」による攻撃で記憶の欠落を起こすも、師や仲間との焼き付いて離れない思い出が消されることはなかった。そして最後は奮起したエイザンの「外道菩薩『涅槃像(涅槃原則)』」によってリピルは昏睡し、西の玉座の戦いは決着した。

「消えんのだ…私の心の奥底にいるユリやリョウエイ和尚が…そして殿との約束が…リピル殿!これ以上の戦いは無意味だ!そこで眠っておれ!!」

エイザンの強い心の前では『消の極み』は無力であった。

南の決着
南の玉座に投入されたのは「拳神」ファンファン。こちらは他の玉座とは一転、セキアの繰り出す幻影は次々と攻略されていく。しかし、強敵との戦いを楽しむセキアは、極みの共鳴封じや初見殺しの拘束技でファンファンを追い詰めると、戦槌による強烈な一撃を見舞うことに成功する。

瀕死となったかに見えたファンファン。しかし、土壇場で武術の師が残した言葉から打開策を閃いたことでセキアの拘束を脱出。武の極みの奥義「真覇拳王劉掌烈波」によって勝敗は決した。
なおセキアは最後、己を凌駕した相手に対して「めちゃくちゃ楽しい」と言い残して気を失った。

「危ないところだったネ。お前のおかけで私また強くなれたヨ、セキア。」

土壇場で戦況を覆したファンファンは、その進化をもたらした相手へ感謝を送った。


北の決着
メアの屋敷に囚われ絶体絶命の13番隊の前に現れたのは、聖神ヒジリ
はじめこそ『人形師』の屋敷に張り巡らされた多種多様な攻撃に追い込まれていくように見えたが、剣聖はすさまじい剣で屋敷ごと人形たちを両断。どうにかヒジリの動きを止めようともがくメアだったが、結局止められず。

最後に剣士の人形を繰り出したメアだったが、素人の剣がヒジリに通じるはずもなく、万策尽きた彼女はサレンダー
(戦闘中あちこちぶつけて痛そうなメアさんなのだった)


4.中央玉座の戦い

残るは中央玉座。そこに鎮座しているのは紛れもなくゼラニウム街の筆頭極師である「ラミア」。

しかし、当初の作戦では『ヴァサラ』と共にその援護としてオルキス、カルノ、ヤマイ、ルーチェ、クガイ、そして翠蘭ら隊長数名が同時に向かうはずだったのが、ラミアの能力によって、隊長たちだけが中央玉座へ取り込まれてしまった。とはいえ隊長が五人揃っていたヴァサラ軍は果敢にラミアへ挑む。

数の有利を生かして次々に攻撃を叩きこんでいくヴァサラ軍陣営。一瞬だが、ヴァサラの力を借りずともラミアを倒せるかと思われた……その矢先。

たった今までラミアに与えたダメージと傷が綺麗サッパリなくなっている。

「何を驚いてるの?ダメージを並行世界に飛ばしただけだよ?少し本気でやろうか。」

ええええええええええええ???!!!

『裏の極み』の本領、それはラミア以外が干渉することを許されない異空間を利用した再生と破壊の両立……そしてパラレルワールドを介した無限の観測による最強の後出しじゃんけんであった。ラミアにダメージを与えるすべがないことを悟った隊長たちは、動揺で一瞬立ちすくむ。

その隙をついてラミアが攻勢に転じると、今度はヴァサラ軍側が防戦一方を強いられた。だが、ラミアの反則的な能力は守りに入る事さえ許さない。

「さすが隊長。なかなか持ちこたえるな…裏の極み『歪曲世界』:殻(ブラックホール)」

こんなんどうせいっちゅうねん!
『歪曲世界』を発動するラミア illust,ロロたんめん

隊長達は為すすべなく、漆黒の渦に吸い込まれていく。


・左目の傷
ブラックホールに囚われ、もはや死を避けられなくなったかに見えた隊長たち。それでも『麗神』オルキスはただ一人、もはや相打ち狙いであったがラミアに最後の一撃を入れようと剣を振り下ろした。

ところが、そこへちょうど「ラミアを説得しに来た七福」が割って入る。

驚いたラミアが慌ててブラックホールを解除したことで、オルキスは勢い余って間に入っていた七福に刀を振り下ろしてしまい、その左目に深い傷を残してしまった。

このシーンがなぜ、七福、ラミア、そしてオルキスだったのか。

不可抗力とは言え、結果的に命の恩人となった斬りつけたことを必死に謝罪するオルキスに、七福は答えた。

「うん、まぁ言いたいことはたくさんあるが…お前極みの才能無しで努力して隊長になったんだってな。アサヒから聞いたよ。」 
 
「傷どうたらとかんなことより…この街とこの街の過去そのもののアイツがいるからこそよりお前に言いたいね。俺はお前を一番尊敬すんよ。立派だ。総督よりお前の方が俺は立派だと思う。」

※七オル

実はヴァサラ軍の作戦の裏で、七福は「天神」アサヒと共にアメクとその仲間がいる研究所の無力化を進めていた。

その中で、アサヒから「ゼラニウム街が極みの人体実験にこだわる理由」を尋ねられ、皮肉交じりにこう答えた。

『ヴァサラ軍も極み使いがたくさんいるじゃないか』……と。

しかし、アサヒはオルキスを引き合いに反論した。


※以下、考察 
オルキスとラミア……二人の能無しは、互いに違う道を行った。

一方は己を苛め抜き、能無しである自分を覆そうとした。
一方は己を能無しと規定した世界そのものを覆そうとした。

互いが同じ状況にありながら、己を取り巻く世界への向き合い方は正反対であった。それは、ラミアに憎しみの異能が宿ったからか?

七福はそうは思わなかった……ゆえに、友人に向かってこう言った。

「残念だなぁ…俺はたった一時間しか無いのに美人の女のとこじゃなくて心配してお前のとこに来ちまったぜ。またいじめられてんじゃないかってよう。」

「あの頃の俺とは違う!七福、お前だけだ!いつまでも俺を過去の貧弱なラミアとして見ているのは!俺の目的はもうすぐ成就する!」

「もう充分叶ってんだろうよ。一番になれたじゃんよ。このごみ溜めみたいな街でよ」

「七福ウウウウウウウウ!!」

「『さん』を付けろよ三つ編み野郎オオオオオオオ!!!」

「死ねえええええええええ!!!!」

どう見ても某AKIRA。
(この時、七福は「ソラの能力」によって離島にあるアメクの研究所から一瞬で転移しているのだが、ラミアの力の余波を受けて転移後の滞在時間は60分→10分と大幅に減少してしまっている。)

同じだったのだろう。ラミアもオルキスも、この世の理不尽を覆さねばと苦しみ続けてきた。だから七福は、彼、そして彼女を『尊敬している』し、もう苦しんでほしくなかった……。

「良いも悪いもまぜこぜで、俺みたいに程々に生きてもいいじゃん。」

……という彼なりのメッセージだったのではないだろうか。
七福もまた、二人とは違う方法で理不尽に抗って生きてきたのだから。

・覇王参戦

七福が割って入り時間を稼いだ刹那によって、遂に中央玉座へヴァサラが到着する。
(実はラミアがオルキスら隊長部隊を取り込んだだけでなく、ヴァサラの到着が遅れる様に「北の玉座のメア」の策略によって「偽の中央玉座の邸宅」が設置されており、おなじ中央に向かっていたはずのヴァサラと隊長たちが分断されていたことが明かされた。)

ヴァサラは無の極みを通して、ラミアの能力や弱点を探っていく。「裏の極み」が自分にしか扱えない特別な力だと考えていたラミアは、たった数度見聞きしただけなはずの『四神』たちの能力を再現していく。そしてついに圧倒的であった自身の「裏の極み」さえも掌握せんとする「覇王」の実力を目の当たりにした。

一方のヴァサラは、よく見ると仲間の奮闘によってラミアに残った傷の中に、なかなか癒えていないものがあるのを発見する。どうやら、ラミアの身体は過去の実験による影響で、五神柱の基礎格にあたる波動に触れると拒絶反応によって大きなダメージを負ってしまう体質となっていた。


それを見抜いた覇王から、無の極みによる火や雷の多段攻撃を受けたラミア。治癒しきれない傷を負い、このまま普通に戦ってはやはり勝ち目はないと悟った彼は、散らばっている各四神を異空間へ退避させると、なんと街丸ごとが崩壊するほどの巨大なエネルギーを練り始める。

「四神の転移は完了した…この傷も、この街も…僕は絶対に許さない。ヴァサラ…お前とどれだけ力の差があってもだ!」

「裏の極み『歪曲世界』:焉(ワールド・エンド)!!」

全てを『向こう側』へと飲み込む最後の攻撃。

・七福とオルキス

ラミアから隊長たちを救い出した七福は、ソラ能力で再びアメクの研究所へ戻ると、遂に彼らが行っていた非道な実験の記録を発見することに成功する。
(小さな電子端末とかいうオーパーツに保存されていたため手こずっていた)

だが、実験で再び生み出しいた「黒炎」の力を使い、なおも往生際悪く逃走を図るアメクに対し、自身の極みの力で周囲の『運』をすべて奪い去り『最悪の偶然を呼び寄せ続ける』という諸刃の奥義を発動し、辺り一帯を崩壊させて研究所ごと道連れを狙った。

七福
「やっと二人きりになれたねぇ〜♡なんちゃってな。こんな諸悪の根源と一緒にくたばるなんて惨めな最期だぜ。」

アメク
「七福…ハナからこれが狙いか?お前とラミアがいなければ私の実験は…」 
 
「その実験で何人死んだ?何人不幸にした?ラミアはお前がいなきゃああなることもなかった。親友としてずっと守ってくつもりだったのに…お前はアイツの身体にある消えない傷を見たことがあるのか?アイツがどんな気持ちで今まで生きてきたか…」

「道具のことなど知るか。」 

「市民は道具じゃねぇ、テメーの間抜けな実験ごっこの道具でもな」

七福は、せめて自分のやり方でラミアの目的を果たそうとした

七福の怒りに従って次第に勢いを増す『最悪の偶然』に恐れをなしたアメクは発狂、七福はそんな彼の身ぐるみをはぎ、海に投げ捨てた
(彼曰く、自分の手で人を殺しはしない……とのこと。)

さて、このまま自身も研究所と共に焼け死ぬか……と考えていた七福だった、そこへ予想外の人物が駆けつける。

「ワタシに掴まれ!七福!」

「オ、オルキス!?お前どうやってここに!?」

やってきたのはオルキス……七福の周りは『最悪の偶然』が発生し続けているはずだが?

オルキスは、七福の極みは波動を展開している人物にしか効かないという推測の元、極みを持たない自身であれば『最悪の偶然』を回避できると踏んで突入してきたのだった。
(ギンベエによる『魁の極み』で強化を受けているとはいえ、この時彼女は全身骨折している状態なぜ動ける)

その後、後を追って救援部隊にやってきたギンベエらの助力を受けてゼラニウム街を離れる二人。
ところが、次の瞬間二人の目に飛び込んできたのは、あらゆるものを吸い込み押しつぶさんとする巨大な異空間の壁であった。

5.中央の決着

ラミアが発動した「焉(ワールドエンド)」は、街とそこにいるヴァサラ軍諸共を吸収し押しつぶさんとしていた。この大技は、ヴァサラをもってしても拡大を足止めすることが精いっぱいであり、このままでは被害を止めることはできなかった。

そこへ現れる、「覇王にとって無二の兄弟」……並行世界のカムイ。

ヴァサラは、兄弟を信じて待っていた。自身が足止めをしていれば、カムイは必ずこの中央玉座へとやってくると信じていたのだ。

(なぜカムイがラミアを倒したいのかというと、彼がもともと生きていたパラレルワールドはラミアによるヴァサラ軍崩壊を許しており、その世界では本編と異なり「「ヴァサラ軍の一番隊として戦っていたカムイ」にとってラミアは宿敵であったため)ムズカチイ……

闇と光、相反する二つの極みを共鳴させた二人は、あらゆるものをかき消す唯一の剣閃となってラミアを打ち倒したのだった。

Ⅳ 決着後の流れ

敗れたラミアと四神たちはゼラニウム街を放棄するつもりでいたが、ヴァサラの判断によって、彼ら五人による統治は継続することになった。
(これはゼラニウム街周辺の勢力を考えると、本拠が離れたヴァサラ軍の直接統治は困難であったため。) 

敵同士だった四神とヴァサラ軍の面々は、いつの間にか掘られていた温泉で(?)汗を流しながら懇親していた。

しかし、ラミアはその輪から離れて一人でうずくまっていた。
そこへ、天神アサヒは語り掛ける。

アサヒ
「お前の過去は確かに悲惨だよ。俺がお前の立場なら同じことをしたと思う…へっ。『ゼラニウムの過去そのものか』うまいこと言いやがるぜ七福の野郎…でもお前もわかってんだろ?薄々。力だけじゃ何も変わんねぇって。」

ラミア

「前向いて歩け、ですか?その言葉は……」

アサヒ

「言わねぇよ、誰が言うか。傷なんか少しずつ癒やしていけばいい。立ち止まっても絶望しても横を見ろ。お前にゃ一緒に歩いてくれるダチがいるだろ。」

天神の語り掛け。傷を癒やす大切さを彼は知っているのだろう。

そういってアサヒが指す方向には、耳から焼きそばを喰わせるなどと意味不明な事を言う友人「七福の姿」があった。

「ゼラニウム街はこっから良くなる。いや、俺達でよくしていかんとな〜。そんな話はいっか。」

「…うん」

「忘れんなよ、ラミア。俺は一生お前の親友だ。」

これからのゼラニウムは、二人の手にかかっている。

すべてが終わった後、ラミアは七福から「キャベツ太郎」という懐かしいあだ名で呼ばれたことを嬉しそうにしながら、ゼラニウム街をもう一度立て直すことを約束した。

Ⅴ 総評・考察

本作は多くのユーザーが考案したキャラクターが入り乱れたこともあり複雑な展開となったが、要するに「七福」と「ラミア」が仲直りをするというのが本筋である。

一方で『極み』を神格化していた(実際は実験の為)ゼラニウム街を舞台としたこともあってか、当時はヒジリに次いで極みを持たない隊長であったオルキスに関してもスポットが当てられており、豪烈な極みという力が飛び交う中で最後に『仲直り』の術、すなわち七福の命を救う形で彼女もまたゼラニウム騒動を経て新たな生き方に触れたと言える。

また、メインの戦闘シーンとなった玉座の四神vsヴァサラ軍では、実力者と思われていた戦士たちが尺の都合で次々と痛手を負わされる様から、ゼラニウム街がたった五人の力で維持されていたという事実に超越的な説得力をもたらすことになった。(最も激しい戦いというだけはある)

なお、これを機に数か月前から明かされていたキャラクターたちの活躍がようやく形となり、それぞれの背景情報にも大きな影響を及ぼした一作であるため、これまで明らかになっていたキャラクターたちの情報を再度見直したうえで読み返すと新たな発見があるかもしれない。

※追記
11月28日、表紙イラストが掲載された。担当はイラストレーターのp氏

・引用リンク

第三弾本編

前日譚『ヴァサラ戦記/FILM:REVERSE STORY:CENTRAL』


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