うしれんのおよめさん

うしれん第2弾として書いたお話です。

「うしれんのおよめさん」

うしれんとハムレンはどうぶつの夫婦です。


ある日、ハムレンは友達と街でお茶をしていました。

「あら、3時だわ。私そろそろ行かなきゃだわ。」

「ハムレンはヤマノハラだもんね、遠いよね。」

「そうなのよ〜。」

「じゃあまたね。」

「ごめんね、またね。」


ハムレンは友達と別れて駅へ行き、ヤマノハラ行きの古びた電車に乗り込みました。


(ふう、これで夕方にはヤマノハラに帰れる。)

(帰りに駅前のスーパーで、うしれんの好きなトマトとりんごを買っていこう。)

(でも…今はとても幸せだけど、最初からこうではなかったのよね。)


電車に揺られながら、ハムレンはうしれんと初めて出会った頃の事を思い出していました。



5年前。うしれんとハムレンが初めて出会ったのは植物園でした。


「こんにちは!ヤマノハラのうしれんです!」

「こんにちは。ハムレンです。」

「ハムレンさんはお一人ですか?それならワタシと付き合ってくれませんか?」

「えーっ!…は、はい。」


それからというもの。

「ハムレンさーん!手を繋ぎましょ〜!」

「いやぁああ!」


「ハムレンさーん!チューしましょ〜!」

「いやぁああ!」


「ハムレンさーん!ケッコン!ケッコン!」


それでもうしれんは、デートの度に車で送り迎えしてくれる優しい彼氏でしたし、3ヶ月後には、お互いの両親にも会い、友達からもハムレンにお祝いの品物が届きました。

でもハムレンの心は置いてきぼり。

(私は本当にうしれんと結婚するのかしら。)

(これがマリッジブルーなの?)


ある秋の日のこと、ハムレンはうしれんに山登りに誘われました。

「あの山の神様に、結婚のお願いをして叶ったから、今度はお礼参りに行くよ。」

「…。」

「当日は電車で行くからね。帰り送れないけど。」

「…いいよ、おべんとう作っていくね。」

「ありがとう!」


喜ぶうしれんと対称的に、ハムレンの心は悲しみに沈んでいました。

(別れたほうがいいのかしら。)


山登り当日、ハムレンはおべんとうを持って待ち合わせ場所に行きました。

「おーい、ハムレンさーん!おはよう!」

「おはよう。」

「さぁ、登ろうか。」

でもハムレンの気分は晴れませんでした。


山の上でおべんとうを食べて、山の神様にお参りしました。

「神様!無事に結婚できそうです!ありがとうございます!」

大きな声でうしれんは言いました。

「あのね、うしれんさん。」

「何だい、ハムレンさん。」

「〜!!」


どうしたことでしょう。突然、ハムレンの具合が悪くなりました。

「〜!気持ち悪い…。」

「えっ!大丈夫!?…顔色が真っ青だ!…よし、家まで送るよ!」

「えーっ!いいよ、悪いよ。一人で帰れるよ。」

「心配だよ、送るよ!」


うしれんの住むヤマノハラと、ハムレンの家は逆方向で、ハムレンを家まで送ったら、うしれんの帰りは何時になるか分かりません。


結局ハムレンは悪いと思いながらも、うしれんに送ってもらうことにしました。

帰りの電車の中では、うしれんはハムレンを座らせて、ずっと手を握っていてくれて、ハムレンは泣きたくなるほど嬉しかったのです。

「ありがとう。」

うしれんはハムレンを駅からさらに家まで送りました。

「今日は早く休むんだよ。早く具合が良くなるといいね…ハムレン。」

「うしれん…ありがとう!」


どこまでも優しいうしれんに、ハムレンはこの時ついていこうと思ったのです。

(これほど優しい人となら大丈夫。)

(私、ついていきます。)

こうして翌年、うしれんとハムレンは結婚したのでした。



スーパーで買い物して帰宅したハムレンは、5年前のことをすっかり思い出しました。

(そうだった…。それから何度もうしれんの優しさに助けられて、私は幸せになったのよ。)


「ただいま〜!」

「おかえりなさい、うしれん。…ごめんなさい、まだ何も支度してなくて。」

「いいよ、今日は疲れたでしょう。ゆっくりでいいよ。」

「あの…うしれん。」

「何だい?ハムレン。」

「私、あなたと結婚してとても幸せよ。ありがとう。」

「ふーん、そうか。おれこそありがとう。」


それからうしれんは向きなおって言いました。

「明日のおべんとうのパンはできてるかな。」

「できてるよ!入れとくね!」


こうして夜はふけていきます。

うしれん、今日もおつかれさま。

ハムレン、今日もおつかれさま。



おしまい。

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