『はてな』
一方通行風呂という標識が出てきた。
土曜の午後ドライブデートをしていた我々は運転中だけど4.8秒はお互いの目だけを見ていた。
?
どういうこと?あ!ほらほらちゃんと前見て!ききっ!とブレーキの音が鳴り心臓が高鳴る。
ウーンあれじゃない?シャッター切っておけば良かったね。あのほら珍百景に応募したら読まれるやつだよ。年下の彼氏はくすくす笑っている。
また変な看板が出てきたので今度はスマホを用意してパシャッ!
『♨️』なあんだ温泉が近いだけかあ
なるほどね、そういう洒落なのね。
でもさあ、交通標識でしょう、ゆるいのかな、温泉が多い場所だからゆったりしてるんじゃないのお、入っていこうよ。道は細くなり山に入り秘境ぽい温泉に着いた。男も女もないらしくボコボコの岩場の陰に隠れて肌と肌をくっつけて温まった。こんな場所初めてだ‥‥帰り道ちょっとだけ怖いね。一方通行だったからなぁ。じゃあ来た道じゃ帰れないってことね。
何にも知らないできたの?と毛の多いおじさんが声をかけてきた。(人がいたんだ‥はずっ)おじさんはよく見たら猿で頭の辺りが白かった。怖かったけど帰り道は聞かなくちゃ、明日は月曜日だし。このお湯を潜って行くしかないんだよ、と言う。無茶苦茶だけど既に猿と喋っているので真剣に聞いた。
足がつくけど?それは硬いお湯なんだ。押せば開くよ。ほらっ!と言うとおじさんが湯の中に消えた。お湯が大きく揺れてそのはずみで私たちも吸い込まれた。彼としっかりと抱き合ったまま狭い様な温かい様ななんとも言えない感触に包まれてただただ落ちて行く。苦しいけど悪くなかった。目が覚めると砂が黄色い浜辺にいた。体の疲れはすっかりと取れている。ぼんやりとお互いの目を見て頭が戻るのを待った。
‥そうだ、車は?それならここだよ、と猿のおじさんが指差している。みんな裸だった。服はそこら辺の木にぶら下がっているよ。はっはい!
彼の背中に隠れながら服を探した。
もうお姉さんの車の助手席は乗らない。と普通の道路を走行しながら彼が言う。
なんでよ、面白かったでしょ。
もう一方通行は絶対進まないで。
仕方なかったでしょ?‥おじさん猿だったんだから許してよ。目尻の下がる私を見た彼が睨んでくる。
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