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60代後半重い失語症の夫の日常〜妻のつぶやき3〜


その1

散歩をしていたら、前の方を横一列で
おばさまたち7人くらいが歩いているのが
見えた。

そこはちょっとした沼があり、
その横は広々とした広場のようになっていて、
犬の散歩をする人、子どもと散歩する人、
ベンチでゆったり話をしている人が
いるような場所なのだ。

さすがに7人横一列というのは
あまり見たことはないが、
それでも道をふさぐわけではない。

夫がこのまま行けば、
そのおばさまたちの列に
ぶつかってしまうとは思ったが、
さすがに避けるだろうと思っていた。

でも、でもである。
にぎやかにおしゃべりしながら歩いている
おばさまたちにどんどん近づいていき、
夫は特に気にすることもなく歩き、
その列に何ごともなかったかのように
突き進もうとしているではないか!

驚いた私はさすがにおばさまたちに
ぶつかる寸前で
夫の腕を取っておばさまたちの列の横へと
夫を連行したのである。

「な・なんだ」
急に腕をつかんで連れていかれ、
驚いている夫。
おばさまたちの列にぶつかるのは
回避できたとホッとする私。
夫は私の腕をブン!と振りほどき、
何するんだお前!くらいの顔をして
また歩き始めたのである。

本当にわかっていないのね。

これまでも相手が避けなくて
少し体がぶつかると
「チッ」と大きく舌打ちして
「なんで避けないんだ」
と毒を吐くことが多かった。

今回もおばさまたちとぶつかっても
自分が悪いとは絶対に思わなかっただろう。

あとから
早めに夫におばさまたちがいるから
こっちを歩こうと夫に言えばよかった
のだろうと思った。
きっと何で?と思って
避けないかもしれないけど。

散歩も気が抜けない。


その2

今日の夕食は夫の嫌いな煮魚だった。
でも私の実家の母が
魚をたくさん送ってくれて、
何とか消費しなければならないのだ。

他のメニューは豆乳のクリームシチュー、
ほうれん草の三色和え。

夫は食卓につくと「チッ」と舌打ちし、
ため息をついた。
夫は好きじゃない献立の時はいつもこうする。
(脳梗塞前はそう思ったとしてもしなかった)

病気がそうさせていると思っても
それを聞くのはやっぱり嫌なので、
知らんぷりして違う方を見るようにしている。

まずシチューを食べる。
すると声を出して、口から出してしまう。
「熱かったかい?」
「ごめんね」
と言うと、
何かひと言言って、
流し台の方へ行ってしまった。

シチュー熱かったのかもしれないな、
冷ますのが足りなかったかも
と反省していたら、食卓に戻ってきた。

すると
「これはイヤだ」とはっきり言って
シチューとほうれん草の和え物をよける。
そして煮魚もよけてしまったのである。

え~、全部???
「ご飯は?」と聞くと、
もういいわみたいな感じで
お茶碗もよけてしまう。
結局、全部お盆に乗せて
台所に持って行ってしまったのである。

「食べないの?」と聞くと、
「食べない」と言う。

こうなったら絶対食べない人なのだ。

シチューでつまづいたのかな。
元々、煮魚は苦手だし、
ほうれん草の和え物も大好きではない。

夫はさっさと夜の薬を飲み、
ソファーに座ってしまった。

こういう時はあれこれ言ってもダメなので、
仕方ないので、私は普通にご飯を食べ、
片づけをする。

夫のご飯が丸ごと残っているので、
ご飯好きの夫なので、
もしかして後から食べるかもしれないな
と思い、
鰹節を入れておかかおにぎりにしておく。

そのまま普段通りに過ごし、
頃合いを見て夫に
「お腹すいてないの?」と聞くと
「すいてる」と言う。

「おにぎり作ったけど、食べる?」と聞くと
「食べる」と言うので、
おにぎりをソファーの前のテーブルに置く。
すぐに食べる気配はなかった。

夫がお風呂に入り、
私がお風呂から上がると
おにぎりがなくなっていた。

この日の夕食はおにぎり1個。

今までは嫌いなものでも
イヤそうに食べてはいたが、
食べないことはなかった。

いろんなことがあるな・・・


その3

夜にソファーに座っていたら
急に何かを言い始める。

なんだなんだ?

よく聞くと、お金がどうのって言っている。

お金という言葉は分かったが、
なんで急にお金のことを言うんだろうと
お金に関する出来事があったか?
と思い出そうとするが
ちっとも思い出せない。

自分の言うことが全然伝わらないので、
夫もまたか、と言う感じになったが、
自分の部屋に行くので、
私もついていく。

自分のお財布を開けて
お金を見せながら、何か言うのである。
さらに小銭入れも開けて見せる。

お金足りないんでしょみたいな感じ?
だからあげるよみたいな感じ?

全くわからなかったけど、
「大丈夫だよ。
あるからもらわなくても大丈夫。」
と言うと、
ほんとか?みたいなことを言って、
お財布はしまっていた。

どうして、急にお金の心配をしたのだろう?

いや、それもあってるのかどうか?
何か私の行動でお金がなさそうって
心配になったのか?

その夜はなんで?の夜だった。


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