見出し画像

第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 21「ザ・キラー」

AWARDS PROFILE Vol. 21

ザ・キラー

RT: 85%
MC: 73
IMDb: 6.8

 任務の致命的な失敗の後、国々をまたにかける追跡の中で、暗殺者は雇い主や自分自身と闘わざるを得なくなる。

 映画ファンに愛されるデヴィッド・フィンチャー監督が2020年の「Mank/マンク」に引き続き、NETFLIXとタッグを組んだスタイリッシュなアクションスリラーの本作。アレクシス・ノランとリュック・ジャカモンによるコミック「The Killer」を基に、フィンチャー監督と「セブン」でも組んだアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが脚本を担当している。主人公の名前のない殺し屋を演じるのは、オスカーにも2度候補になった実力派マイケル・ファスベンダー。彼の周りをティルダ・スウィントンをはじめ、アーリス・ハワード、チャールズ・パーネル、ケリー・オマリー、サラ・ベイカー、ソフィー・シャーロットなどの布陣が固めている。撮影や音楽、編集もフィンチャー常連の手練れが揃っていて心強い。ヴェネチア国際映画祭で公開されて、フィンチャー監督らしいスリリングな作品と好評を博している。細心の注意をもって見事に作りこまれたアクションスリラーで、さながらフィンチャー版ジェームズ・ボンドの趣もあるとか。血みどろでざらついたコミックの質感を保ちながら、ブラックな面白さと不条理な空気、空虚さを包み込む。無機質、無表情、無感情の荒涼とした世界と精神から機知を拾い上げることに成功している。完璧を求めるアンチヒーローの仕事の流儀と、危機的状況に追い詰められた時の振る舞いの狭間の揺らぎをみせる主演ファスベンダーが、シリアスな真顔のまま、口数少なくとも強烈で献身的なアクションパフォーマンスを披露する。その身のこなしに優美の二文字が宿る。必ずしもフィンチャー監督のベストではないかもしれないが、完璧なプロセスと正確さを追い求めて、感情を抑え込む完璧主義者の主人公の姿に監督の姿が重なるそうだ。コミックの映像化ながら、フィンチャー監督の最もパーソナルな映画とも言えるとの評も集まっている。NETFLIXにて配信中。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?