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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 10「関心領域」

AWARDS PROFILE Vol. 10

関心領域

RT: 92%
MC: 90
IMDb: 8.0

 アウシュヴィッツ強制収容所の司令官ルドルフ・ヘスと妻ヘドウィグの一家は、収容所の隣にある豪邸で夢のある素敵な生活を築こうとする...。

 2014年に発表されたマーティン・エイミスによる同名小説をゆるやかに基にして、イギリスが産んだ寡作の名匠ジョナサン・グレイザーが映画化した本作。実在した将校ヘスを演じるのはクリスチャン・フリーデル、妻ヘドウィグにはザンドラ・ヒュラー。ホロコーストの中でも最も多くの虐殺が行われたアウシュヴィッツ強制収容所で、ナチスの命令通りにユダヤ人絶滅計画を実行した司令官ヘスは戦後、裁判にかけられてアウシュビッツの地で絞首刑に処せられた。そんな人間の醜悪の象徴のような者たちを中心に物語は展開する。グレイザー監督は前作「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」を発表後、2年ほどかけて今作に関わる書物を読み込み、リサーチのためにアウシュビッツを訪れた。そこに残されたヘス司令官の住居に影響を受けたという。アウシュヴィッツ博物館をはじめとする関係機関の協力のもと、収容所生存者やヘスの家に雇われていた者による貴重な証言を検証し、この歴史に残る虐殺に関連した人々の描写を組み立てていった。その作り方のおかげで本とは異なり、実名で物語が進むのが特徴的だ。撮影も特殊だったようで、セットにカメラを定点的に複数設置し、クルーのいない、キャストだけの空間を作ったそう。そんな実験的なアプローチがとられた今作は、カンヌ国際映画祭でプレミア上映されて、最高賞に次ぐグランプリを獲得する熱い支持を受けた。ヘス家を単なる人間たちとして観察し、彼らの平凡な日常の描写を積み重ねることで、今作を最も暗く、最も重要な芸術へと変貌させている。冷淡にして深遠。瞑想的で没入感がある。作品は相反するイメージを内包させて、光の中でさえも暗く影を落とす人間の闇に肉薄し、その闇の毛穴を凝視する。悪という凡庸にして恐ろしい概念を探求し、悪が絶えることなく連鎖反応を起こす様をまざまざとみせられる。そこでは直接的な残虐行為よりも恐ろしいことについて考えさせられる。映画が伝えるメッセージは挑戦的で、映画の枠組みを超えて議論を巻き起こすだろう。間違いなくグレイザーが21世紀を代表するオリジナリティをもったフィルムメイカーだと証明する一作となっている。音楽、音響デザインからも巧妙に、平和の裏で起きている恐怖を忍ばせている。今作は人間についての詩であり、人間についての映画であり、そして何よりも人間の罪についてであることを理解しているという。

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