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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 24「ブラックベリー」

AWARDS PROFILE Vol. 24

ブラックベリー

RT: 98%
MC: 78
IMDb: 7.4

 ダグラス・フレギンとマイク・ラザリディス、ジム・バルシリーが設立したリサーチ・イン・モーション社。同社が開発した携帯電話「ブラックベリー」の盛衰を描く...。

 「THE DIRTIES」や「OPERATION AVALANCHE」で知られるものの、日本では無名気味の監督マット・ジョンソンが仕掛けるコーポレーション伝記コメディ。リサーチ・イン・モーション社が開発したブラックベリーは携帯電話スマートフォンの元祖として当時、そのセキュリティーの高さから法人を中心に使われていた。iPhoneが誕生した2007年より前から使われていたブラックベリーが、いかにしてその頂点の地位から降りるに至ったのかを、実話を基に描いたのが今作だ。キャストはコメディを得意とするグレン・ハワートンやジェイ・バルシェルをはじめ、リッチ・ソマー、マイケル・アイアンサイド、マーティン・ドノヴァン、そして監督本人という顔ぶれ。ベルリン国際映画祭でプレミア公開されて、爆発力のあるコメディと好評で迎えられている。脚本も務める監督の手際の良さが際立つ本作は、非常にスマートで面白いとのこと。ドキュメンタリー風の演出で、ブラックベリーの関係者が体感したジェットコースターのような成功と失敗のアップダウンを追体験させる。そこにはトップを維持することの難しさが顔をのぞかせる。特に猛烈な競争を伴うテクノロジー業界なら尚更だ。友情、誇り、自由市場の残忍さを巧みに組み立てて、スリリングで感動的な物語を作り上げることに成功した。脚本は鮮やかそのもので、専門用語に置いていかれることなく物事の本質をガッチリと捉えている。キャストも素晴らしい掛け合いをみせる。バルシェルとジョンソンが開発者ならではのオタクらしい姿勢でドライな笑いを繰り出すと、ハワートンがサメのような猛烈な存在感で、周りにいるものを食い散らかす。触れるな危険のブチ切れビジネスマンの姿は数年に一度の悪役と太鼓判を押されている。モバイルデバイスの世界に革命を起こし、頂上へと向かう瞬間とその地位が惨めにも崩れ去る瞬間が同じくらい魅惑的という容赦ない中毒性のあるコメディの今作は、破滅へと一直線に突き進む爽快感があり、その歴史の敗者となった者たちへの鎮魂歌となる。そして良い時は長続きしないという悲しみを漂わせた、夢を持つはみ出し者たちに向けた愛のある讃歌だ。

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