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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 30「ナイアド ~その決意は海を越える~」

AWARDS PROFILE Vol. 30

ナイアド ~その決意は海を越える~

RT: 85%
MC: 65
IMDb: 7.1

 ダイアナ・ナイアド。60才。何度も過酷な長距離水泳を成し遂げてきた彼女にも成し遂げていないことがあった。それはキューバ―フロリダ間の164kmを泳ぎ切ること。彼女は親友のボニーと共に無謀な挑戦へと歩みだす...。

 2013年にキューバ—フロリダ間の164kmをその身ひとつで泳ぎ渡ったダイアナ・ナイアドの挑戦の実話を基に描いた作品。監督は「フリーソロ」や「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」といったドキュメンタリー作品で知られるジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィの二人だ。前者の作品ではオスカーに輝くなど、ドキュメンタリー作品で優れた才能を見せた二人は、今作で初めての長編映画監督デビューを果たす。これまでも無謀な挑戦に立ち向かう題材を撮影してきただけあり、今回のダイアナ・ナイアドのチャレンジを描くストーリーは打って付けだ。ナイアドを演じるのは、オスカーに4度候補経験のあるアネット・ベニング。体を鍛えてナイアドの不屈の精神を捉える。彼女の親友にして、この挑戦におけるコーチの役割を担うボニーには、2度のオスカーに輝くジョディ・フォスターだ。トロント国際映画祭で公開されて、王道の力強いスポーツ映画に仕上がっているとの評価を受けている。キューバとフロリダにある海を渡ることは、何万回も水をかき、何十時間もの泳ぎで幻覚が見えて、海に長時間入ることで顔は腫れるなどの内的要素に加えて、天候次第で凶暴になる海、サメやクラゲなど危険な海の生き物といった外的要素と立ち向かわなければならない。はっきり言って命懸けの挑戦に60才を迎えたナイアドが向き合う。そんなことをするナイアドそのものが、海以上に、厄介で傲慢で自信家なところが面白くもあり、心配をかける存在だ。無理を言っては協力してくれる周囲の者と衝突を繰り返す。この衝突が映画のミソで、一見単独の偉業とされてしまう挑戦をチームワークの賜物であるとしているのが好ましい。特にフォスター演じるボニーの存在は大きい。ナイアドを理解しながらも、命を落としかねない行動は避けさせる。チームが険悪なムードになるときは潤滑油となる。冷静さが求められるコーチとしての絶妙な距離感が最高の鍵となるのだ。ドキュメンタリーで命懸けの挑戦を撮り続け、もしかしたら題材となる者が目の前で命を落としてしまうかもしれない葛藤を抱えた監督二人ならではの心情が、ボニーというキャラクターに注がれるのだ。だからバキバキに仕上がったベニングのカリスマ性溢れるナイアドも素晴らしかったが、フォスターが体現する葛藤を持ちながらも優しく愛の溢れる演技が何よりも最高なのだ。また、航海士として渋い存在感をみせるリス・エヴァンスも、プロフェッショナルな立ち振る舞いで魅せる魅せる。監督らしい実際の映像を交えたドキュメンタリー的演出も心地よいリズムを生む。時に平和で、時に容赦なく襲いかかる海を捉えた撮影も美しい。唯一、フラッシュバックが作品の流れを邪魔しかけていたが、違和感は最小限に抑えられる。飾らないシンプルでストレートな今作だからこそ、ナイアドとそのチームの偉業に清々しい力強いメッセージを込めることに成功した。NETFLIXで配信中。

これにて今年のオスカー有望作の紹介はおしまい。

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