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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 13「落下の解剖学」

AWARDS PROFILE Vol. 13

落下の解剖学

RT: 96%
MC: 86
IMDb: 7.9

 フランスの人里離れた雪山にある山荘で家族と住む男が亡くなっているのが発見される。転落死に思えたこの事件を、警察は不審死と結論づけて、男の妻でドイツ人作家のサンドラに容疑をかけた。この事件の唯一の証人となるのは盲目の息子だった…。

 第76回カンヌ国際映画祭で並いる強力な作品をおさえて最高賞パルムドールに選ばれた本作は、ドキュメンタリーや短編映画を経た、監督ジュスティーヌ・トリエにとって長編四作目となる作品だ。脚本はトリエと、彼女の公私に渡るパートナー、アーサー・ハラリが共同で担当している。主人公サンドラを演じるのは、ザンドラ・ヒュラーだ。監督とは、2019年公開の「愛欲のセラピー」に続き、二度目のタッグとなる。監督はヒュラーのために、この作品を執筆したと語っている。ヒッチコック様式の裁判スリラーと称される今作は、熱量のある圧倒的な賛辞を受けている。息を呑むほどに知的で、絶妙な捻りのある傑作とのことで、中毒性のあるスリルに満ちている。裁判劇と家族のドラマ、巧みなミステリーが大胆に融合し、観る者の想像を掻き立てる。真実を映画と共に探らせる、キャラクター達との距離感が絶妙。作品は事件の真実を解剖しつつ、結果的に一件に関わる者たちの関係性を解剖していく。パートナー間、親子間、言葉と世界の間に流れる深い関係性の軸にある、言い表すことのできないミステリー。人の本質を理解すること、人の関係性を理解することは決して容易いものではないと作品は提示する。ヒュラーは言語の違いによって本性の見えない主人公サンドラを演じ、知性を刺激する今作に、肌触りや感情的な力を与えている。目が離せない演技とはまさにこのこと。今作は、社会の中で強く結びつく個人とストーリーテリングの関係性を探る物語を、素晴らしい筆致で描き出しているという。来年2月23日に公開予定。

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