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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 17「SALTBURN」

AWARDS PROFILE Vol. 17

SALTBURN

RT: 72%
MC: 60
IMDb: 7.5

 オックスフォード大学で学ぶ、労働階級のオリヴァーは、自分の居場所がないことに悩んでいた。ある夏、チャーミングで貴族風を吹かせた同級生フェリックスが、オリヴァーを家族の大邸宅に招き入れる。彼は、屋敷に集う奇妙なフェリックスの家族と取り巻きと共に、忘れることの出来ない一夏を過ごすことになる…。

 2020年に長編監督デビュー作「プロミシング・ヤング・ウーマン」で大旋風を巻き起こしたエメラルド・フェネル監督待望の二作目となる本作。前作は親友を性暴力の末に自殺で亡くした主人公が、夜な夜な男たちに復讐をするタイムリーな題材のリベンジドラマ。難しくなりそうなテーマをエンターテインメントたっぷりに描き、フェネルはアカデミー脚本賞を獲得している。今作でもドラマとコメディをミックスさせた娯楽性抜群の作品を魅せてくれるのか。主演はオスカー候補になったばかりのクセモノ、バリー・コーガン。上流階級の人々にはジェイコブ・エロルディやロザムンド・パイク、リチャード・E・グラント、アリソン・オリヴァーなどが扮し、主人公を大邸宅で待ち受ける。テルライド映画祭で公開されて、惜しげもなく派手派手しい格差社会の描写に、熱狂派と否定派を生んでいる模様。フェネル曰く、残酷や不平等、奇妙さを伴うにも関わらず、我慢のならない嫌悪を催すような人々を愛せたり、恋に落ちたり、その魅力の謎を理解しようとしたり、一緒にいたいと思えるのなら、そこに面白い力関係があるのではと語っている。2006年という時とイギリスの大邸宅を舞台に、階級の差が生むドロドロした状況に、観る者は突き落とされ、思わず笑ってしまうようなクレイジーな展開の連続にもみくちゃにされる。フェネルは全てをぶっ壊すモードで、荒々しく不遜な怪物そのものの今作を、騒々しく邪悪で面白い娯楽作に仕上げた。必ずしも風刺劇として機能しているかは疑問が残るが、ざらついた白昼夢のような野心的な青春ドラマに、フェネルの疑いようのない才能の高さがうかがえる。映像は超絶に最高でスタイリッシュ。富豪の美醜入り混じる生態を巧妙に炙り出す。主演コーガンは、フェネルの挑発的な感性と完全にシンクロし、触れづらいテーマを容赦なく掘り下げる。新たな主演スターとしての輝きを放っている。否定的意見としては、時として表面的なレベルにとどまる階級への洞察力の幼稚さを指摘されている。とはいえ、視覚的にも文法的にも、独特の優美さと奇妙さを贅沢に含んだ今作は、乱痴気騒ぎと開き直ったかのような栄光が編み出した、誰がどこから観ても過剰なシネマなのだ。12月22日よりプライムビデオで配信予定。

誰がどう見ても寂れているのは長後です。

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