息子さんの想い
入院33日目
今日は日曜日。
入院してから何回目の日曜日だろう。
もう面会時間になっているが、今日はあまり人の気配がない。
いつもより静かな日曜日だ。
面会といえば、私の左隣の患者さんの所には、毎日必ず面会がある。
入院しているのは、小柄で穏やかなおばあちゃんで、脳梗塞を発症し長期入院しているようだった。
後遺症なのか、認知症なのかはわからないが、看護師さんとの会話を聞いていると見当識障害があるようす。
面会に訪れるのは息子さん。お仕事帰りなのか、毎日夕方にいらっしゃる。
「来ましたよ〜。」
と息子さんが声をかけると、
「あらあら、お疲れ様。」
「今日は早いね。」
「ご飯は食べたの?」
いつもこんな感じで、おばあちゃんは返事をする。
仕事から帰ってきた息子を、家で迎えるお母さんが目に浮かぶようなやりとりでとても微笑ましい。
息子さんは、優しい口調でひとしきりおしゃべりをして、穏やかな時間を過ごすと「また来ますね。」と言って帰っていく。
毎日病院に顔を出すって、なかなか出来るものではない。息子さんの、お母さんを想う気持ちが伝わってくる。
ある日、お隣のベッドに、東北訛りのある男性の面会があった。もう一人の息子さんのようである。
地元から、遥々面会にいらしたのか、土産として地元の物産を持参していて、お母さんに振る舞っている様子だった。
そして「お母さんの身体が早く良くなるように」と御守りも渡していた。
息子さんが方言でしゃべると、おばあちゃんも自然と方言が出て、いつもよりよく言葉が出ているような気がする。
途中から、毎日面会を欠かさない息子さんも合流してお話が弾んでいた。
家族に愛されているおばあちゃん。
きっと、息子さん達を一生懸命に育てて、愛情を与えてきたんだろうなと想像する。
その数日後、お隣のおばあちゃんが、別の施設に移動してしまうことを知る。
おばあちゃんの退院当日。
看護師さんが、ベッドまわりの荷物をまとめていると、床頭台の引き出しに御守りがいくつも入ってるのを見つけたようだった。
おばあちゃんは、病衣から私服に着替えさせてもらっていると、
「どこに行くんですか?」
と不安そうに何度も聞いている。
「息子さんが迎えに来て、一緒にお出かけですよ。」
と看護師さんが答えるけど、おばあちゃんは不安げだ。
そうしているうちに、息子さんが迎えに来た。息子さんの車で次の施設へ送って行くそうだ。
新しい場所に早く慣れて、穏やかに過ごせるようになりますように。
きっと息子さん達が、おばあちゃんが寂しくないようにしてくれるかな。
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