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香りの記憶 贅沢で最高に幸せな時

遠い記憶を思い出すかのように、
頭の中を通り抜けていく香りの記憶。
それはあたかも本当に香りを嗅いでいるかのように、
よみがえってくる香りがあります。

この季節、ダージリン紅茶の一番茶ファーストフラッシュが、ヒマラヤの山の奥の農園からはるばる日本に到着します。
私は毎年この日を楽しみに待っているのです。

ダージリン紅茶には春のお茶のファーストフラッシュ、
夏のお茶のセカンドフラッシュ、
秋のお茶のオータムナルがあります。

それぞれシーズンにより味も香りも異なります。
私はこのファーストフラッシュが、紅茶の中でも一番好きなのです。
柔らかな新芽の茶葉は所々が緑がかり、お茶の色は薄い黄色からオレンジ色。
香りはしっかりとした黄緑色のような春の香りで、その味は若々しく、少し青い苦味が感じられます。

私はこのお茶から、毎年若々しい自然の生命力をもらえるような気がしています。
今年もまた、このお茶を飲むことが出来たこと、こうして元気でいられることに感謝の気持ちでいっぱいになるのです。

その昔、インドのダージリンに行ったことがあります。
ダージリンはインド北東部のヒマラヤ山麓に位置し、標高は2000メートルを超え、山の斜面に紅茶畑がどこまでも続きます。
朝夕の寒暖差は大きく、濃い霧がかかった畑は幻想的で、これが美味しい紅茶が出来る条件でもあります。

製茶工場までの道のりは過酷で、狭いデコボコの山道を小型ジープでガタガタと進みます。
道の片側は急な斜面で、山をひとつ越えもうひとつ越え更に越え、そして最後は山道を徒歩で登らなければいけません。
やがて出来立てのお茶の良い香りが何処からかしてきたら、息を切らしながらあともう少し山の上まで登ります。
大好きな香りで全身が包み込まれた私は、まるで夢の中にいるかのようです。

製茶工場では一通りお茶が出来るまでの工程を見学させてもらい、その後はオーナーさんと一緒にビスケットを頂きながらのティータイムです。
きっと日本で食べたら、たいして美味しいビスケットではありません。
でもあの時のビスケットと紅茶はとても美味しかったのです。
遠くに見える8000メートルを超える雪のかかったヒマラヤ山脈を眺めながらのお茶の時間は、最高に贅沢で幸せだった私の思い出です。

以前のような体力が無くなった今、インドへの道のりはあまりにも遠く過酷で、あの山道はもう登れそうにはありません。
今やIT技術の発展がめざましいインドですが、きっとあの山道は今も変わっていないことでしょう。

今でもあの時の香りが、しっかりと私の中に記憶として残っています。
そしてこの季節、あの懐かしさが香りと共によみがえって来るのです。

去年の秋のダージリン オータムナルです

お茶にしましょう
自分で淹れる紅茶の時間
のんびり時が流れます
ピスタチオとストロベリーロールのおやつと一緒に

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