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ストッパーが外れた真夜中の新宿歌舞伎町で

「新宿歌舞伎町で飲み会があるんだけど行かない?」

初めて彼女を見た時、私はこの人とは付き合えないと思った。
いや付き合いたくないと思ったのが正直なところだった。

「歌舞伎町?私もう何十年も行っていないよ」
「○○さんも来るってよ」
そうは言っても私はただ顔を知っているくらいの人なのだ。

何事にも好奇心を持ち、人見知りすることなく、愚痴や人の悪口を彼女は決して言わない。
そんな彼女を見ていると
少なくとも私の人生の10倍は楽しんでいると感じる。

お店に着くと男女10人ほどが次々とやって来た。
メンバーは20代30代と、まさに自分の子供のような年代の人達がやって来る。
私は彼女の交友の幅の広さに改めて感心するも、
いったい私は何を話していいのやら、ただただ若い子の話しにうなずくばかり。
どうも私にはこの場は居心地が良いとは言えない。

「さぁ次は水タバコが吸えるお店に行きましょう」
「僕、面白いお店知っているんです」
若い男の子が切り出す。
「水タバコ」この言葉に彼女の好奇心はもう全開だ。
「行きたい!」
「いやいや、もう終電が無くなるから」
新宿から家までは1時間以上かかる。
私はいつもそんな彼女のストッパー役なのだ。
お酒もまわり上機嫌の彼女は、皆とハグをし別れを惜しんでいる。
そんな彼女を私は半ば強引に引っ張り、最終電車に乗り込んだ。

さてここからが限りなく現実に近い、もしものおはなしです。

真夜中の新宿歌舞伎町 私の場合
「水タバコ?」
その響きは、なんだか中東の男達がペルシャ絨毯の上であぐらを組み、水パイプをくわえブクブクしているようなそんな光景が目に浮かんだ。
そもそもタバコが吸えない私は、店に入りキョロキョロまわりを見渡し、ただただ驚くばかり。
店は薄暗く、もちろん吸ってみたいなどとは思うはずもない。
自分がどうなるかわからない不安もある。
そして店を出た時には、もうとっくに終電はなかった。
真夜中の新宿歌舞伎町をひとりで歩く。
怖い、怖い、怖いよ。
ひとりの男が声をかけて来る。
「よう!お姉さん」
決して目を合わせてはいけない。
いやいや私はおばさんだからと心の中で叫び、
私はバックをぎゅっと握り締め、さらに足早に通りを歩いた。
すると少し先に、24時間営業のカフェの看板を見つけ、
やれやれ、とりあえず入ろう。
カフェは終電に乗り遅れたサラリーマンや、友達同士の女の子、家出でもして来たのか行き場のない人達で溢れていた。
私はコーヒーをちびちび飲みながら、時々コクリとする自分に気が付き、あとここで2時間。
2時間もすれば始発の電車が走りだす。
そしたら家に帰ろう。

真夜中の新宿歌舞伎町 彼女の場合
「水タバコ!」
「おもしろそう! 初めてだわ!」
「この水パイプはどうやって吸うの? 教えて教えて!」
「へぇ〜なんだか楽しくなって来た」
「こっちも試していい?」
そして店を出た時にはもうとっくに終電はなかった。
「イヤ〜楽しかった楽しかった〜」
真夜中の歌舞伎町を、ご機嫌でスキップするかのようにひとり行く。
目指すはお店に着いた時に、サッとスマホで予約した1秒チェックインのビジネスホテル。
ひとりの男が声をかけて来る。
「よう!お姉さん」
「ハハハァ〜おばさんだよ〜残念でした〜」
ちょどいい、スマホを見せてビジネスホテルの場所を聞いてみる。
「ここを真っ直ぐ行って右に曲がり‥‥」
強面のお兄さんも案外親切なのだ。
すると今度は美人のオネエさんが声をかけて来る。
「ネェ〜オカマショー楽しいから観に来ない?」
「場所はどこ? お店の名前は?」
「お店にオネエさんは何人いるの?」
「ショーは何時から? 料金はどのくらい?」
興味あるある、もはや質問が止まらない。
「オネエさん名前教えて。今度友達連れて行くから」

ある日の朝、朝食の支度をしている私の元にLINEがピコピコ鳴った。
彼女からだ。「おっはよ〜」
「今、新宿のビジネスホテルだよ〜」
そして朝食バイキングの写真が送られて来る。
何やらミニビールがサービスだと言う。
朝から彼女はご機嫌だ。
「今日はこれからショッピングして冬服買って、伊勢丹で今晩のおかずを買って帰る予定」
グースタンプと楽しんでネ。と私は返事を返す。

小心者で臆病で怖がりで、いつもなかなか物事が決められない私は、
彼女のようには生きられないけれど、
それでも困った時、悩んだ時、どうしたらいいかわからない時、
もし彼女だったらこんな時どうするだろうと、私は時々考える。

それから数週間後
彼女からLINEが来た。
「明日の夜ヒマ?」
「新宿のオカマちゃんショー観に行かない?」
「私の友達の知っている子がいるから」

バナナ オレンジ チョコのブラウニ

お茶にしましょう
やっぱり私は
スイーツを食べながらnoteを読む
こんなお茶の時間が好き

#エッセイ #小説 #新宿歌舞伎町 #水たばこ #友達

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