”日本一詳しい”2023/24シーズン アストン・ヴィラ全選手査定(MF&FW編)

アストン・ヴィラサポーターの皆さん、そしてプレミアリーグや欧州サッカーのファンの皆さん、2023/24シーズンも応援お疲れ様でした。

まずは、このnoteを書いている「安 洋一郎」の自己紹介をさせていただきます。

年齢は25歳です。高校2年生の時にサッカー関係の仕事をはじめて、それを活かしてAO入試で大学に入学。卒業のタイミングで、もともと所属していた会社を独立し、フリーランスのライターをしています。

現在は「フットボールチャンネル」「footballista」などのwebメディアに記事を寄稿していて、直近の数シーズンは「エル・ゴラッソ」のプレミアリーグクラブやCL出場クラブの選手名鑑の一部も担当させていただきました。

アストン・ヴィラに関しては、2011/12シーズンから応援していて、チャンピオンシップ時代を含めて試合は配信環境が整い始めた2014/15シーズンごろから全試合観ています。また日本の公式サポーターズクラブである『AVFC Japan』の運営にも微力ながら関わらせていただいております。

ヴィラに関しては仕事とは別に、番記者やメディアの情報も基本的にすべて追っている上にログにも溜めているので、僭越ながらnoteのタイトル部分に「日本一詳しい」と記載させていただきました。

一見、尖ったタイトルをつけましたが、自分の意見が必ずしも「正」というわけではないです。誤解していただきたくないのは、知識マウントを取りたいわけではなく、自分の一意見を共有することで、より「アストン・ヴィラの話題が活性化されれば良いな」という思いから執筆に至りました。

つきましては、何か間違った点や違和感のある箇所がありましたら遠慮なくご指摘ください。

さて、本題に入りますが、今回は2023/24シーズンにアストン・ヴィラでプレーしたMFとFWのパフォーマンスを5段階(S・A・B・C・評価なし)で評価していきます。

※「S」は「言うことなし」、「A」は「良かった」「B」は「平均点」、Cは「期待外れ」、「評価なし」は「何らかの理由で評価できない」です

【”日本一詳しい”2023/24シーズン アストン・ヴィラ全選手査定(GK&DF編)】

【”日本一詳しい”2023/24シーズン アストン・ヴィラ全選手査定(ローンプレイヤー編)】

MF

背番号6 ドウグラス・ルイス(ブラジル代表)

生年月日:1998年5月9日(26歳)
今季リーグ成績:35試合9得点5アシスト
今季公式戦成績:53試合10得点10アシスト
現行契約:2026年夏まで
評価:S

ドウグラス・ルイスのキャリアで今季がベストなシーズンだった。ブバカル・カマラとのダブルボランチはプレミアリーグ屈指の完成度と相性の良さを誇り、彼が本来得意とするドリブルでの持ち運びや3列目からの飛び出しから積極的に得点に絡めるようになった。

2月にカマラが負傷してからは守備的に求められるタスクも増え、シーズン終盤はかなり疲弊していた。その上、日程的にも不慣れなことが多く、週2ペースで試合を行うのは彼のキャリアの中で初。プレータイムはチーム2位であり、こうした負担の大きさを考慮すると、終盤戦の不調は仕方ない部分もあるだろう。

彼の去就が騒がれているが、基本的には残留路線だと思う。まずはアストン・ヴィラとの関係を整理すると、ルイスはチームに対するコミットメントが非常に高く、エメリもキャプテンの1人として高い信頼を置いている。加えてガールフレンドのアリシャ・レーマンもアストン・ヴィラのレディースチームに所属しており、現在の環境が彼にとってベストだろう。

そして1億ポンドを超える移籍金が必要という状況を踏まえても、獲得できるクラブは現状だとマンチェスター・シティかアーセナルの2つに絞られる。前者であればロドリの相方として活きるかもしれないが、主な関心が伝えられているのは後者であり、彼らはトーマス・パーティの後釜を探している。しかし、ルイスのプロフィールには当てはまらない。

第一に彼はボックス・トゥ・ボックスの選手であり、プレーエリアがデクラン・ライスと重なる。仮にどちらかの選手をアンカー起用するプランもあるが、彼らの能力が最大限に活かすことができないのは勿体ないだろう。ルイス自身もボックス・トゥ・ボックスのプレーを希望(インタビューでの発言)しており、ヴィラから移籍をする必要があまり感じられない。

ちなみに彼はヴィラで着用している「6」の数字が気に入っているようで、今シーズンの途中に右膝に「6」のタトゥーを入れた。

背番号7 ジョン・マッギン(スコットランド代表)

生年月日:1994年10月18日(29歳)
今季リーグ成績:35試合6得点4アシスト
今季公式戦成績:53試合9得点7アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:S

出場停止処分を受けた3試合を除いた53試合に出場と、怪我知らずのキャプテンは今季も元気にフル稼働した。

チーム内に怪我人が相次いだことからあらゆるポジションをこなし、ECLのアヤックス戦では退場者が出たことからCBでも出場。GKと右SB、ストライカー以外のポジションで起用と、さすがのユーティリティーぶりを発揮している。

今シーズン大きく見られた成長が、相手ボックス内への侵入の頻度が上がったことである。エメリはマッギンにもゴールを決めることを要求しており、エバートンとの第2節やアーセナルとの第16節で決めた得点はその代表例だ。その結果、チャンピオンシップ時代を含めて最多となる公式戦9ゴールを記録。シーズン終盤はメインポジションを3列目に下げたことを踏まえると、特筆すべき数字と言えるだろう。

背番号8 ユーリ・ティーレマンス(ベルギー代表)

生年月日:1997年5月7日(27歳)
今季リーグ成績:32試合2得点6アシスト
今季公式戦成績:46試合3得点7アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:A

背番号8は過去にジェームズ・ミルナーやファン・パブロ・アンヘルらレジェンド級の選手たちも着用していた番号だが、総合的に見ると活躍しなかった事例が多い。明確に活躍した最後の事例は2015/16シーズンのイドリッサ・ゲイェまで遡り、それ以降に着用したアーロン・トシボラ(16/17)、ヘンリー・ランズベリ(17/18~20/21)、モルガン・サンソン(21/22~22/23)は軒並み主力に定着することができなかった。

こうした過去を踏まえると、ティーレマンスが8番を背負うと発表された時に嫌な予感がした。そして迎えた今季の開幕直後は中盤で不用意なミスを犯していくつかの失点に関与する最悪のスタートとなってしまった。

ただ、開幕直後のミス連発はコンディションが上がっていなかったことが最大の要因だったようで、開幕前の心配は完全に払しょくされた。エメリはチームの戦術に慣れてきたころにトップ下で起用すると”ライン間の鬼”に。レイオフで攻撃を加速させる役割を担い、チーム随一のスルーパスの上手さで絶妙なボールを相手最終ラインの裏に供給し続けた。

2月のカマラの離脱後は加入当初に苦戦したボランチの一角でも奮闘。ネガトラの部分ではフランス代表MFのような強度は出せないが、チームのために走ってその穴を何とか埋めた。

なお、昨年10月頃にエメリとの不仲説が出たが、直後に本人が否定。このような報道が出た要因は誤訳のせいであり、彼らの間には何も問題がなかった。

背番号10 エミリアーノ・ブエンディア(アルゼンチン代表)

生年月日:1996年12月25日(27歳)
今季リーグ成績:0試合0得点0アシスト
今季公式戦成績:0試合0得点0アシスト
現行契約:2026年夏まで
評価:なし

プレシーズンマッチでは間違いなくチーム1番の好パフォーマンスを披露していた。ところが、開幕3日前に膝の前十字靭帯を断裂。開幕前にキャリア最高の姿を披露していただけに、シーズン絶望の大怪我はあまりに痛恨だった。

3月ごろから芝生の上でのトレーニングに復帰をすると、5月上旬にはトップチームの練習に参加。エメリは身体的な負荷や精神的なプレッシャーを与えないために彼を試合で起用することはなかったが、来季に向けてのプレシーズンから本格的に復帰を果たすだろう。

背番号19 ムサ・ディアビ(フランス代表)

生年月日:1999年7月7日(24歳)
今季リーグ成績:38試合6得点8アシスト
今季公式戦成績:54試合10得点9アシスト
現行契約:2028年夏まで
評価:A

ムサ・ディアビの移籍金はクラブ史上最高額となる5500万ユーロ。他国リーグからの移籍組はフィットに時間がかかる傾向にあるが、プレシーズンから即フィットした。シーズン途中は不調に陥ったが、それでもチーム唯一となるプレミアリーグ全試合出場を果たし、公式戦では2桁ゴールと上々の活躍を披露している。

1年目からフィットできたのは間違いなくエメリのスカウティングのおかげだろう。指揮官はこのフランス代表ウインガーを中央の選手として計算しており、それを獲得前に行った本人とのzoomでの打ち合わせでも伝えていたようだ。実際に先発起用した際はワイドよりも中央の方がパフォーマンスレベルが高く、逆に最初からWG起用された試合ではあまり結果を残せなかった。

ただ、途中出場の際はWGとしても大外からのインスイングのクロスという形で得点を演出できており、来季以降も先発では中央、途中からはワイドという形になりそうだ。

ディアビを中央で起用するメリットとしてはターンの上手さだ。狭いスペースでボールを受けてもスムーズに前を向ける。そして相手チームの選手はワイドより中央の方がアジリティが劣る選手が多く、そうした環境でこそディアビとのスピードのギャップで一気にチャンスが生まれる。これを代表するのがリバプールとの第37節でジョン・デュランのゴールをお膳立てしたシーンだろう。もう少し決定力が上がれば文句なし。

背番号22 ニコロ・ザニオーロ(イタリア代表)

生年月日:1999年7月2日(24歳)
今季リーグ成績:25試合2得点0アシスト
今季公式戦成績:40試合3得点0アシスト
現行契約:今季終了まで(ガラタサライからのローン移籍)
評価:B

エミ・ブエンディアが開幕前に大怪我を負ったことによる緊急補強だった。これまでのキャリアでは右か中央で起用されることが多かったが、アルゼンチン代表MFとジェイコブ・ラムジーの開幕からの離脱に伴い左サイドハーフでの起用が主となっている。

チェルシーとの第6節やアーセナルとの第33節など、キープ力を武器にプレスの逃げどころとして活躍した試合もあった。しかし、ゴール前では精彩を欠く場面が多く、相手GKのビッグセーブがあったとはいえ、わずか7.4%に留まっている。

懸念されていた通り怪我が多く、パフォーマンス的にも「C評価」としてもよかったが、彼の精神面での成長を評価して「B」としたい。プレミアリーグでの先発は9試合に終わるなど、指揮官の中での序列は高くなかったが、それでもエメリを「ワールドクラスの監督」と認め、不満分子となることなく、腐らずに真剣にトレーニングに励んでいた。特に2月以降の姿勢は素晴らしく、エメリも真面目に取り組んでいたザニオーロをアーセナルとの大一番で先発に抜擢するなど高く評価している。

シーズンを通して振り返ると、調子を上げてきたタイミングでの怪我に苦しんだ。最終盤は2列目の選手が相次いで負傷したことから万全の状態ではなかったのにも関わらず、ECL準決勝オリンピアコス戦やリバプールとの第37節ではチームを助けようと”志願”の強行出場。しかし、最終的には痛めていた箇所とは違う中足骨を骨折してしまいEUROの欠場が決まってしまった。

ただ、3月の代表戦では守備でも存在感を示すなど、エメリの指導で大きく成長した身体の向きの作り方や意識の部分が活きていたようだ。1人の選手として、そして人間としても成長したザニオーロが来シーズン以降どのようなプレイヤーになるのか見守っていきたい。

背番号27 モーガン・ロジャーズ(U-21イングランド代表)

生年月日:2002年7月26日(21歳)
今季リーグ成績:11試合3得点1アシスト
今季公式戦成績:16試合3得点1アシスト
現行契約:2029年夏まで
評価:A

アストン・ヴィラに限らず、今冬のプレミアリーグでのベストバイの一つだろう。冬の移籍市場最終日に入団したモーガン・ロジャーズは、瞬く間にチームの中心となり、負傷者の影響で今シーズンを通してレギュラーが固まっていなかった左サイドハーフのポジションを掴んだ。

正直なところ、ここまで早く戦力になるとは思っていなかった。彼はライン間でボールを受けるのが上手く、そこからのドリブルやターンで一気にチャンスを演出する。プレーエリアがサイド、中央と問わないため、左サイドハーフが内側に絞るアストン・ヴィラ式の「3-5-2」の戦術にも即フィットした。

これだけ早くチームに馴染んだのはエメリのスカウティング能力の賜物だ。1月のミドルズブラとのFAカップに向けて相手チームを分析していた指揮官は、このイングランド人ウインガーが目を付けた。そしてアストン・ヴィラのアカデミーに彼が幼少期から過ごしたウェスト・ブロムでともに働いていたマーク・ハリソン(アカデミー責任者)やスティーブ・ホップクロフト(アカデミー採用責任者)がいたことも後押しとなって獲得に至ったそうだ。

すでに加入時と比較をすると、『transfermarkt』での市場価値は5倍以上に高騰しており、報道によるとシーズン終盤の怪我さえなければEUROの代表メンバーに入っていた可能性もある。来季はエミ・ブエンディアやジェイコブ・ラムジーが復帰をするが、その中でもスタメンに定着するだけの実力を持ち合わせているだろう。

背番号31 レオン・ベイリー(ジャマイカ代表)

生年月日:1997年8月9日(26歳)
今季リーグ成績:35試合10得点9アシスト
今季公式戦成績:52試合14得点14アシスト
現行契約:2027年夏まで(1年のオプション付き)
評価:S

ベイリーはエメリの下で別人のように成長した。前任のジェラード体制では29試合3得点3アシストに留まっていたが、現体制では1年半で75試合16得点16アシストを記録。そのうち14得点14アシストが今季記録したものであり、本人が「キャリアのベストなシーズン」と振り返ったのも納得だ。

プレミアリーグの水に慣れてきたのかドリブルで抜ける回数が圧倒的増え、不用意にボールを奪われる回数が激減した。今季は過去2シーズンと比較をすると、10%以上ドリブル成功率が向上しており、エメリ政権になってから縦に仕掛けてからのマイナスへの折り返し(カットバック)の形で多くのチャンスを演出している。

今季は決定力も申し分なく、チャンスはほぼ決めきった印象だ。プレミアリーグに限定するとビッグチャンスミスは1回のみで、6.33のゴール期待値に対して10ゴール決めている。

課題だった稼働率の悪さも克服しており、エメリ体制となってから無理なハードワークが減ったことも相まって怪我が激減。シーズン終盤は膝にテーピングを巻いての稼働だったが、それでもシーズンを走り切った。

背番号41 ジェイコブ・ラムジー(U-21イングランド代表)

生年月日:2001年5月28日(23歳)
今季リーグ成績:16試合1得点1アシスト
今季公式戦成績:21試合1得点2アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:C

2020/21シーズンのトップチーム定着からシーズンを追うごとにゴール、アシストが増えていた中で今季は期待外れに終わってしまった。ただ、これがラムジー自身に責任があるかどうかを問われると別問題で、昨夏のU-21欧州選手権で危険なタックル受けたことによる中足骨骨折が最後まで響いた。

一方で最後の離脱直前のフラム戦とノッティンガム・フォレスト戦は今季1、2のパフォーマンスだったと言える。左のハーフスペースへの進入の上手さや守備での強度を踏まえると、彼がシーズンを通して計算できなかったのはチームとして痛かった。

課題を一つ上げるとすれば左SBとの連係だ。特にルカ・ディニュの場合は彼自身でドリブルを仕掛けるタイプではないため、自らがボールを引きつけた上でパスを出さなければクロスを上げる体勢に入りにくい。昨季終盤にラムジーとアレックス・モレノの関係がよかったのは、モレノ自身がドリブルで相手を剝がせるためであり、そこのサポートの意識は向上の余地がある。

PSRの関係上、今夏の売却候補という報道を目にするが、優先度としてはかなり低いだろう。他の選手が売れず、どうしても売らなければいけない事態とならない限りの売却は考えにくい。ただ、ロジャーズとエミ・ブエンディアがいることから他のポジションと比較をすると、退団のダメージは低く、仮に売ることになってもクラブに文句は言えない。

ちなみに弟のコール・ラムジー(17歳)が今年2月にU-18デビューを果たしたので、恐らく来季からU-18に昇格すると思う。

背番号44 ブバカル・カマラ(フランス代表)

生年月日:1999年11月23日(24歳)
今季リーグ成績:20試合0得点1アシスト
今季公式戦成績:30試合1得点1アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:A

ミングスの今季絶望に続き、今年2月に起きてしまったカマラの靱帯断裂でトップ4入りは厳しいと思った。背走している状況でも相手からノーファウルでボールを刈り取れる希少なアンカーで、プレス耐性も高く、保持でも違いを作れる。今季は昨季と異なり細かい怪我もなく、中盤で絶対的に必要な存在だった。

しかし、2月のマンチェスター・ユナイテッド戦で先述した通り、膝の前十字靭帯の大怪我を負ってしまった。彼が出場停止で欠場した第18節から第20節までの内容が散々だったことを踏まえると、シーズン終了を覚悟したが、そこは何とかマッギンとティーレマンスが埋めてくれた。

現在のアストン・ヴィラには彼のようなタイプの選手はおらず、その穴を完璧に埋めることができる選手は誰一人としていない。CBと右SBの間にできるギャップを埋めるのも上手く、最終ラインに吸収された状況での守備と、そこから前に出ていく守備対応は絶品だ。彼のパフォーマンスがスーパーな一方で、過去2シーズンの稼働率を踏まえると、今夏にもう1人同じような役割をこなせる選手を獲得するのが得策だろう。

背番号47 ティム・イェロブーナム(U-20イングランド代表)

生年月日:2003年6月30日(20歳)
今季リーグ成績:9試合0得点0アシスト
今季公式戦成績:15試合0得点0アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:C

この若者を評価するのは難しい。昨夏のアメリカ遠征を前に怪我をしたことでシーズン序盤戦をほぼ全欠。初出場が12月末のマンチェスター・ユナイテッド戦だった。

基本的には途中出場からの起用が主だったが、試合に入れていないケースが多く、不用意なファウルやパスミスも多かった。特にルートン・タウンとの第27節ではダウティーの左足を警戒して、チームとしてファウルを最小限に抑えるプランを練っていたが、立て続けにファウルを犯してそこから失点を喫してしまった。

キャリー能力と守備範囲の広さがあるだけに、ノーファウルでボールを奪い切る確率を上げたいところ。ただ、冬にデンドンカーを放出したのはイェロブーナムの復帰があったからで、エメリ監督も一定の評価を下している。しかし、彼のような若い選手は出場機会を得ることが大切であり、今夏のローン移籍での放出、もしくはオファー次第で売却の可能性(恐らく買い戻しOP付き)もあるだろう。

背番号71 オマリ・ケリーマン(U-20イングランド代表)

生年月日:2005年9月15日(18歳)
今季リーグ成績:2試合0得点0アシスト
今季公式戦成績:6試合0得点1アシスト
現行契約:2027年夏まで
評価:A

U-21チームでは敵なしの18歳は、昨夏のアメリカ遠征でアカデミーの選手で唯一トップチームに帯同した。ライン間でボールを受けるのが上手く、スムーズなターンから前を向いて素早く前線の選手へとパスを出す。ストライドの大きいドリブルとパンチ力のあるシュートも魅力的で、瞬く間にエメリ監督を魅了した。

ECL予選でトップチームデビュー&アシストを記録したが、本大会のグループリーグのメンバーには在籍歴が2年を経過していなかったため入ることができなかった(決勝Tからはメンバー入り)。シーズンを通してみると、これが痛恨で、シーズン最終盤に怪我人が相次いだ際に起用に踏み切れなかったのは、余裕のあった序盤戦で起用できなかったから。仮にECLのグループリーグで経験を積ませることができていたら、ブライトンとの第36節などでも戦力として計算できていたかもしれない。

それでも「A評価」としたのは、U-21チームでの無双っぷりを評価したからだ。17歳から18歳にかけてのシーズンで、ここまで敵なしだった選手はカーニー・チュクウェメカ以来だろう。

なお、弟のジャーミー・ケリマンも昨年10月にアストン・ヴィラのU-15に入団している。

FW

背番号11 オリー・ワトキンス(イングランド代表)

生年月日:1995年12月30日(28歳)
今季リーグ成績:37試合19得点13アシスト
今季公式戦成績:53試合27得点13アシスト
現行契約:2028年夏まで
評価:S

ファンと選手が選出するクラブの年間MVPに輝いたことからもわかるように、今シーズンのワトキンスはスーパーな存在だった。得点関与はもちろん稼働率も凄まじく、1試合を除く37試合で先発出場を果たした。

開幕5試合ノーゴールだったため序盤戦こそ心配したが、そこからはゴールを量産。昨季まではプレミアリーグにおいて1試合で複数得点を記録することが稀だったが、今季は1年間で過去3シーズンを上回る4試合で複数得点を記録した。

その万能性はハリー・ケインが去ったプレミアリーグのストライカーの中でも随一だ。中盤に降りてきてプレス回避に一役買ったかと思えば、サイドでボール受けた際にはカットインを散らかせつつ縦に仕掛けてマイナスに折り返す。自らに相手選手の視線を集めるのが上手く、それがアシスト量産につながったと言えるだろう。

これだけの活躍をすれば「移籍してしまうのではないか」と心配するファンもいるだろうが、その必要性はないと言って良い。

昨年10月に2028年夏までの長期契約を結んだワトキンスは「ここは僕にとってサッカーをするのに最適な場所だ。まだここで成し遂げなければならないことがたくさんあるし、残留の合意に至ったことを嬉しく思う。ウナイ(・エメリ)は、僕が契約延長を決断する上で大きな存在だった。彼の下で短期間に大きく成長できたし、長期的に見れば、自分には到達できるさまざまなレベルがあると感じている」とコメント。

続けて「ガビー(アグボンラホール)のプレミアリーグでのクラブのゴール記録(73)を更新したいし、トロフィーも獲得したい。メダルを持ち帰ったり、ゴールを決めたりすることで、ファンに恩返しができるといいね」と明かしており、これ以上ないほどにチームにコミットしている。

このコミットメントこそ、今のアストン・ヴィラの強みであり、全権監督と言っても良いエメリを頂点にクラブの関係者は同じ方向を向いている。現オーナーとなった5年前から、選手を獲得する際や契約延長の際に「一緒にCL出場権を獲得してトロフィーを目指そう」を合言葉に契約を締結しているため、全員がその目標に向かっている。これが主力選手が移籍希望を出さない理由であり、移籍市場でも争奪戦に強いのは具体的なプランがあるからだ。

背番号24 ジョン・デュラン(コロンビア代表)

生年月日:2003年12月13日(20歳)
今季リーグ成績:23試合5得点0アシスト
今季公式戦成績:37試合8得点0アシスト
現行契約:2028年夏まで
評価:B

これ以上カオスを生む存在はいないかもしれない。悪い日は空回りして相手に不用意なファウルを仕掛けるだけだが、ハマると劇的なゴールやPK奪取など決定的な仕事をする。実際に見ないとどっちに転ぶかわからないギャンブル的な要素はあるが、使っても何も起きない選手よりはデュランを起用するのが正解だ。

スーパーサブとして果たした役割を踏まえると「S」か「A」の評価に相応しいと思うが、あまりにピッチ外で無駄な騒ぎを起こすため「B」とした。『Instagram』のクラブ公式アカウントのフォローを外したり、過去の投稿を削除したりするなど、どうでもよい憶測を生みかねない謎行動が多すぎる。

ハッキリ言うと精神年齢が幼い。SNS上で生産性のない煽り合いをしている学生と一緒。なので、彼のSNS周りの行動は何一つ気にしないのが正解だ。

デュランに限らず、SNSで「○○が△△にいいねをした」というニュースほど、どうでもよい情報はない。そもそもワンクリックでできてしまう「いいね」の価値など、たかが知れている。

ワトキンスのところでコミットメントの重要性について記載したが、この男のみ真意は不明だ。エメリは上手く話し合いを重ねてマネジメントしているが、仮にチームの和を乱すような行動があれば即効放出でOK。彼をスカウティングしていたのは昨年にスパーズへと去ったヨハン・ランゲとロブ・マッケンジーのコンビであり、オファー額次第では放出の可能性もあるだろう。

総評

今シーズンは守備の要であるミングスと10番のエミ・ブエンディアを開幕前後で失い、アレックス・モレノとジェイコブ・ラムジーという昨季の左サイドのペアが開幕から数ヶ月離脱という中で始まった。年末年始にはCBの1~4番手が全滅し、2月には中盤のキーマンだったカマラがACL断裂で今季絶望。シーズン最終盤は左サイドハーフで計算できる選手が4人離脱し、ベイリーもしくはディアビを左に回して右SBのキャッシュを右サイドハーフ起用しなければいけないほど、2列目の選手は壊滅状態だった。

このカオスな状況でトップ4に入れたのはエメリの手腕が見事だったからに他ならない。欲を言えばカンファレンスリーグのタイトルを獲得したかったが、満身創痍だったチームのコンディション的には厳しかった。オリンピアコスとの準決勝1st legは保持の局面でキーマンとなるエミ・マルティネスとパウ・トーレスが怪我のために起用できず、2nd legは彼らが戻って来たとはいえ、ベンチに入った21歳以上の選手はCBのラングレだけだった。これはエメリの責任どうこうではない。極力選手に負担をかけないサッカーをしていたが、怪我人が増えたことで起用できる選手たちに負担が集中してしまう悪循環に陥っていた。

ザニオーロは緊急補強だったため例外と言えるが、モンチはセビージャ時代から怪我が多い選手の獲得は進めておらず、それはアストン・ヴィラでも同様だ。今季はあまりに不運な要素(昨季全試合出場のブエンディアが練習でACL断裂。35試合出場のミングスが開幕戦で着地を誤ってACL断裂。相手FWに削られたパウ・トーレスが年末年始の試合を欠場など)が多かったため、来季は少なくとも今季よりは怪我人少なくいけると予想する。

今夏の補強は基本的に選手として完成された即戦力を中心に推し進められていくことだろう。移籍市場や獲得した選手の考察なども、需要があればまとめていこうと思います。

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