”日本一詳しい”2023/24シーズン アストン・ヴィラ全選手査定(ローンプレイヤー編)

アストン・ヴィラサポーターの皆さん、そしてプレミアリーグや欧州サッカーのファンの皆さん、2023/24シーズンも応援お疲れ様でした。

まずは、このnoteを書いている「安 洋一郎」の自己紹介をさせていただきます。

年齢は25歳です。高校2年生の時にサッカー関係の仕事をはじめて、それを活かしてAO入試で大学に入学。卒業のタイミングで、もともと所属していた会社を独立し、フリーランスのライターをしています。

現在は「フットボールチャンネル」「footballista」などのwebメディアに記事を寄稿していて、直近の数シーズンは「エル・ゴラッソ」のプレミアリーグクラブやCL出場クラブの選手名鑑の一部も担当させていただきました。

アストン・ヴィラに関しては、2011/12シーズンから応援していて、チャンピオンシップ時代を含めて試合は配信環境が整い始めた2014/15シーズンごろから全試合観ています。また日本の公式サポーターズクラブである『AVFC Japan』の運営にも微力ながら関わらせていただいております。

ヴィラに関しては仕事とは別に、番記者やメディアの情報も基本的にすべて追っている上にログにも溜めているので、僭越ながらnoteのタイトル部分に「日本一詳しい」と記載させていただきました。

一見、尖ったタイトルをつけましたが、自分の意見が必ずしも「正」というわけではないです。誤解していただきたくないのは、知識マウントを取りたいわけではなく、自分の一意見を共有することで、より「アストン・ヴィラの話題が活性化されれば良いな」という思いから執筆に至りました。

つきましては、何か間違った点や違和感のある箇所がありましたら遠慮なくご指摘ください。

さて、本題に入りますが、今回は2023/24シーズンにアストン・ヴィラから他クラブへとローン移籍した20選手についてまとめました。

最初は各選手についての個人的感想を書いていこうかなと思ったのですが、ユースの選手の場合は日々の生活で目に留まる機会が少ないと思うので、プロフィールや移籍の経緯についても書きました。その結果1万2000字オーバーという大変ボリューミーな内容で、かつ記事っぽいテイストになってしまいましたが、ご了承ください。

各々のパフォーマンスを5段階(S・A・B・C・評価なし)で評価し、来シーズン以降の去就も含めた分析をしています(データは5月25日現在)。

※「S」は「言うことなし」、「A」は「良かった」「B」は「平均点」、Cは「期待外れ」、「評価なし」は「何らかの理由で評価できない」です

GK

GK:ヴィルヤミ・シニサロ(フィンランド代表)

生年月日:2001年10月11日(22歳)
移籍先:エクセター・シティ(リーグ1)
今季リーグ成績:45試合59失点
今季公式戦成績:50試合66失点
評価:S

今シーズンのローンプレイヤーでベストな活躍を披露したのは、エクセター・シティでプレーしたヴィルヤミ・シニサロと断言してよい。

このフィンランド代表GKは開幕戦からスタメンに名を連ねると、リーグ戦46試合中45試合で先発出場。多くの試合でビッグセーブを連発し、PK戦にもつれたカラバオ・カップ2回戦では相手のPKを止めて勝利の立役者となった。リーグ戦でも3つのPKを止めるなど、シュートストッパーとしての才能を見せつけている。

こうした活躍が評価され、今シーズンのエクセター・シティのファンと選手が選ぶクラブの年間最優秀選手賞をダブル受賞。他にも4つの賞に選ばれるなど、GKながらクラブの個人賞を総ナメした。ガリー・コールドウェル監督も「信じられないようなキャリアを歩むだろう」と、シニサロの将来に大きな期待を寄せている。

気になるのが来シーズン以降の去就だ。本人は退団の際にクラブが公開した30分弱のインタビュー動画で「アストン・ヴィラとプレミアリーグでプレーするのが夢だ」と語っているが、エミリアーノ・マルティネスがいることからプレータイムの確保が難しいのが現状だ。現行契約は2025年夏までであり、契約延長をしない限りは今夏の退団が既定路線となるのではないだろうか。

その中でも今シーズン限りでジョー・ハートが引退するため、後釜を探しているセルティックが強い関心を示しているそうだ。地元誌によるとブレンダン・ロジャーズ監督も高く評価しているとのことで、移籍金は300万ポンド前後と想定されている。仮にスコットランドの強豪に移籍することになれば、元アストン・ヴィラのベンジャミン・ジークリストらとポジションを争うことになる。

GK:フィリップ・マーシャル(イングランド)

生年月日:2003年4月24日(21歳)
移籍先:MKドンズ(リーグ2)
今季リーグ成績:6試合9失点
今季公式戦成績:7試合14失点
評価:C

移籍先でサポーターと特別な関係を築いたヴィルヤミ・シニサロとは対照的に、フィリップ・マーシャルのMKドンズへのローン移籍は難しいものとなってしまった。

MKドンズを率いるマイク・ウィリアムソンとマーシャルは、今回のタッグで3シーズン連続での共闘となる。若き40歳の指揮官は今季途中までゲーツヘッドで監督を務めており、過去2シーズン続けて同クラブへとローン移籍していた若き守護神の良き理解者だった。

こうした背景もあって、冬の移籍市場での加入ながらすぐにMKドンズの正GKを任されたが、クリーンシートの試合が1つもないことからもわかるように安定感に欠けていた。イージーなパスミスなども散見されたことでサポーターから批判の対象となっている。

2月に怪我を負ってからは序列を下げてしまい、第42節ノッツ・カウンティ戦でチャンスをもらったがこの試合で3失点を喫したことで再びベンチを温める日々に。プレーオフ準決勝2nd legでも出番を貰ったが、チームの集中力が切れてしまったこともあって大量5失点を献上し、不完全燃焼のままMKドンズでのローン生活が終わりを告げた。

GK:オリヴィエ・ザイシェ(ポーランドU-21代表)

生年月日:2004年6月28日(19歳)
移籍先:プシュチャ・ニエポウォミツェ(エクストラクラサ)
今季リーグ成績:25試合35失点
今季公式戦成績:25試合35失点
評価:S

ポーランドU-20代表で正GKを務めるオリヴィエ・ザイシェは、昨夏の移籍市場閉幕間際に昇格組のプシュチャ・ニエポウォミツェへとローン移籍している。

すぐに正GKの座を掴んだ若き守護神は、エクストラクラサ(ポーランド1部)の年間最優秀GK候補にノミネートされるほどの大活躍を披露。試合を重ねるごとに安定感が増し、上記のポストにもあるようにほぼ全ての枠内シュートを止める時期もあった。

※なお、今季の活躍を受けて、6月に行われるポーランドU-21代表に初招集。EURO 2024に向けての予備登録メンバーにも選出されました。

DF

RSB:ケイン・ケスラー=ヘイデン(イングランド)

生年月日:2002年10月23日(21歳)
移籍先:プリマス・アーガイル(チャンピオンシップ)
今季リーグ成績:24試合0ゴール2アシスト
今季公式戦成績:27試合0ゴール2アシスト
評価:A

後半戦からアストン・ヴィラのトップチームの一員となったケイン・ケスラー=ヘイデンは、前半戦をチャンピオンシップのプリマス・アーガイルで過ごしていた。

開幕戦から数試合は本職ではない左SBでプレーするなど器用さをみせ、持ち前の身体能力の高さと俊敏性を武器に背後へのカバーやドリブルでのキャリーなど攻守に重要な役割を担っていた。クロスのパターンの少なさには課題を残したが、自らがチャンピオンシップで通用する選手ということを証明するには十分な半年間だった。

シーズン途中にアストン・ヴィラにローンバックされたのは年末年始に最終ラインに負傷者が続出したから。アーガイルのイアン・フォスター監督(当時)も「本当に残念だ」とイングランドの年代別代表で指導経験のある愛弟子の退団を嘆いていた。

LSB:セバスティアン・レヴァン(イングランド)

生年月日:2003年7月14日(20歳)
移籍先:ロザラム・ユナイテッド(チャンピオンシップ)
今季リーグ成績:36試合1ゴール2アシスト
今季公式戦成績:37試合1ゴール2アシスト
評価:A

今シーズン開幕直後にアストン・ヴィラのトップチームデビューを飾ったセバスティアン・レヴァンは、夏の移籍市場最終日にロザラムへとローン移籍を果たした。

本職は左SBながら、最終ラインであればどのポジションでもプレーできる万能型DFはシーズンを通して主力選手としてフル稼働。チームは最下位となり、降格を余儀なくされたが、ロザラムの年間最優秀若手選手賞を獲得している。

今シーズンの最大のハイライトはミルウォールとの第40節だろう。3バックの一角として出場しながら、WGのような強烈なミドルシュートとボックス内へのクロスで1得点1アシストの大車輪の活躍を披露した。

今シーズンが初のEFLでのプレーであり、彼のキャリアにとって大きな一歩を踏み出す1年になったことは間違いない。ただ、現時点では来シーズンからアストン・ヴィラのトップチームの戦力として計算できるほどの経験とクオリティは持ち合わせておらず、ローン移籍もしくは完全移籍での退団が濃厚だろう。

LSB:ベンジャミン・クリシーン(イングランドU-20代表)

生年月日:2004年1月12日(20歳)
移籍先:ブラックバーン・ローヴァース(チャンピオンシップ)
今季リーグ成績:16試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:18試合0ゴール0アシスト
評価:B

ベン・クリシーンはキルマーノック(スコットランド)へとローン移籍していた昨季途中に膝内側側副靱帯を損傷する大怪我を負った。約半年間の離脱を経て10月に実践復帰を果たすと、冬の移籍市場でブラックバーンへとローン移籍している。

あらゆるポジションをこなせるクリシーンは、ブラックバーンで左CB、左SB、左WBとしてプレーした。2月にヨン・ダール・トマソン前監督が解任されてからは出番を減らしたが、大怪我からの復帰のシーズンながら怪我なく完走。残留が懸かった最終節では左WBとしてフル出場を果たし、見事チームとして目標を達成した。

今シーズンを振り返ったクリシーンは「試合を重ねるごとにチャンピオンシップのレベルに慣れてきて、もっと多くの経験をしたいと思った。もう少し出場機会があれば、もっと多くのことを見せられたと思うので、シーズンが終わってしまったのは残念だ」とコメント。こうした発言や彼のポテンシャルを考えると、アストン・ヴィラは戦力として計算する可能性が高く、来シーズンもチャンピオンシップのクラブへのローン移籍が高いと思われる。

LSB:リノ・ソウザ(イングランドU-19代表)

生年月日:2005年1月19日(19歳)
移籍先:プリマス・アーガイル(チャンピオンシップ)
今季リーグ成績:8試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:8試合0ゴール0アシスト
評価:B

今冬にアーセナルから完全移籍で加入したリノ・ソウザは、すぐにプリマス・アーガイルへとローン移籍となった。同選手はウェスト・ブロムのアカデミー出身であり、2020/21シーズンのFAユースカップ準決勝では、先述したベン・クリシーン(右WGで出場)とマッチアップしている。

アーセナルでは偽SBとして内側のレーンでプレーすることが多かったが、本来は大外のレーンを使いたいオーソドックスな左SBで、プリマスでも左WBとしての起用が多かった。監督のイアン・フォスターはイングランドの年代別代表を指揮していたことからソウザとは個人的な関係があり、重宝されることが予想されていた。

しかし、4月に同監督が成績不振によって解任をされると構想外となり、ニール・デュースニップ新監督のもとでは一度も出場機会が訪れなかった。ソウザにとっては初のシニアレベルのプレーであり、プリマスへのローン移籍は貴重な経験となったが、今すぐアストン・ヴィラの戦力としてカウントするのは難しいのではないだろうか。来季はフルシーズンでチャンピオンシップへのクラブにローン移籍するのがベストな選択肢となりそうだ。

CB:ジョシュ・フィーニー(イングランド)

生年月日:2005年5月6日(19歳)
移籍先:レアル・ウニオン(スペイン3部)
今季リーグ成績:6試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:6試合0ゴール0アシスト

評価:C

ウナイ・エメリがオーナーを務め、昨年11月にVスポーツ(アストン・ヴィラのオーナー会社)がグループの一員に迎い入れたレアル・ウニオンに、今冬2人のアカデミーの選手が送り込まれた。

その一人がイングランドの年代別代表で主将を務めてきた大型CBジョシュ・フィーニーである。今季の開幕前のプレシーズンマッチトップチームの一員として試合に出場するなど、期待の若手選手だ。彼とほぼ時を同じくしてアストン・ヴィラU-21を率いていたイニゴ・イディアケスがレアル・ウニオンの監督に就任したため、重宝されるかと思われたが、ほとんど出場機会は訪れなかった。

4月にはイディアケスが監督を解任され、終わってみると先発出場はたったの3回。異国でのプレーは貴重なものになっただろうが、もう少し経験を積みたかったのが本音だろう。

CB:カー・スミス(スコットランドU-19代表)

生年月日:2004年12月12日(19歳)
移籍先:セント・ジョンストン(スコットランド)
今季リーグ成績:3試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:3試合0ゴール0アシスト
評価:なし

前所属のダンディー・ユナイテッド時代に16歳の若さでスコティッシュ・プレミアシップデビューを飾っていたカー・スミスは、昨季からアストン・ヴィラのU-21チームの主力に定着。その活躍が評価されて今冬に新契約を結ぶと、直後にセント・ジョンストンへのローン移籍が決まった。

2試合の先発出場を含む3試合で出番を得たが、3月上旬の練習試合でハムストリングの負傷して今シーズン絶望が確定。そのため早期に契約が打ち切られている。

RSB:コスタ・ネデリコヴィッチ(セルビアU-19代表)

生年月日:2005年12月16日(18歳)
移籍先:ツルヴェナ・ズヴェズダ(セルビア)
今季リーグ成績:12試合0ゴール1アシスト
今季公式戦成績:19試合0ゴール2アシスト
評価:なし

今冬の移籍市場で最初の獲得となったのが、今季ツルヴェナ・ズヴェズダでトップチームデビューを飾ったばかりのコスタ・ネデリコヴィッチだ。シーズン後半戦はローン移籍という形を取り、残留という形で引き続きセルビア王者でプレーした。

昨年11月に行われたヤング・ボーイズとのUEFAチャンピオンズリーグでの試合など、いくつかの映像を見た上での第一印象は「デカくて速い」「対人守備に強い」といったところ。(当時)17歳とは思えないほど堂々としていて、相手にプレッシャーを掛けられても慌てる様子なくプレーしていたのが印象的だった。

第一印象で感じたことについて調べると、身長は184cmと上背があり、昨季はセカンドチームで時速36.4kmを記録したらしい。計測している機械の種類が異なる可能性もあるので完全には比較できないが、プレミアリーグが第12節終了時点で発表したスピードランキングに彼を当てはめると7位に入る。アストン・ヴィラではチーム最速のムサ・ディアビが時速35.89kmなので、もしかするとチームで最も足が速い選手になるかもしれない。

若手選手にありがちな身体の線が細い印象もなく、10代ながら非常に優れたフィジカルの持ち主であることは間違いないだろう。課題を挙げるとすれば予測の部分。特にセカンドボールに対するリアクションの遅さは気になるが、ここら辺は経験に基づく要素が大きいので、試合を重ねるごとに吸収することができれば問題なさそうだ。

今季前半戦の活躍を受けて、セルビア代表のドラガン・ストイコヴィッチ監督はネデリコヴィッチを3月の強化試合に招集することを示唆していた。しかし、股関節の負傷によりシーズン後半戦はほぼ全欠。5月16日の試合でようやく実践復帰を果たしたが、EURO 2024のメンバーからは落選した。

怪我の理由についてネデリコヴィッチは「自分のせいだ。すべては負荷によるもので、股関節の軟骨に問題を抱えていたのに報告をしなかった。昔から痛みの限界を超えようとしてしまうことがある」とコメント。ここら辺はメディカル班との信頼関係になるので、来季以降は自らの身体とよく相談してプレーして欲しいところだ。

MF

OMF:フェリペ・コウチーニョ(元ブラジル代表)

生年月日:1992年6月12日(31歳)
移籍先:アル・ドゥハイル(カタール)
今季リーグ成績:16試合3ゴール2アシスト
今季公式戦成績:21試合6ゴール3アシスト
評価:C

アストン・ヴィラでは完全に不良債権となってしまっているフェリペ・コウチーニョ。本来は買い手を見つけたかったところだが、今季はアル・ドゥハイルが給与全負担という形でローン移籍での放出となった。

伸び伸びとプレーしていた印象だが、正直パフォーマンスのレベルとしては厳しいところ。かつての代名詞だったミドルシュートは鳴りを潜め、FKを除いてボックス外からのゴールはゼロ。そもそも流れの中から公式戦21試合で3ゴールしか決めることができておらず、アシストも3しかない。これでは強豪クラブから買い手がつかないのも納得だ。

すでに、エメリの構想外であることは明らかだ。コウチーニョ本人も自らが育ったクラブであるヴァスコ・ダ・ガマへの復帰を望んでおり、すでに現地入りしている。

本来はいくらかの移籍金を希望したかったところだが、現在のヴァスコ・ダ・ガマはオーナーの投資グループ777パートナーズは経営難に陥っており、両者の間で裁判を行っている最中と厳しい状況にある。

そのため、恐らくアストン・ヴィラと契約解除した上でのフリートランスファーでの移籍となるだろう。

CMF:モルガン・サンソン(フランス)

生年月日:1994年8月18日(29歳)
移籍先:ニース(フランス)
今季リーグ成績:29試合2ゴール3アシスト
今季公式戦成績:32試合4ゴール3アシスト
評価:A

モルガン・サンソンは2021年冬にアストン・ヴィラの一員となって以降、自らの本来の姿をみせることができなかった。

活躍できなかった理由は当時の編成部にある。というのも、スカウトたちがサンソンを獲得するのに否定的な意見を持っていた中、ヨハン・ランゲ(現トッテナムSD)が移籍金の安さから獲得を推し進めた案件だった。実際にサンソンが加入する半年前と比較をするとマルセイユ側が設定していた移籍金からは半額ほどに下げられている。しかし、スカウトたちの意見は正しく、チームにマッチすることなく構想外となった。

話を今季のニースでのプレーに移すと、フランチェスコ・ファリオーリ監督の下で主にインサイドハーフのポジションで重宝された。攻撃時はFWをサポートするようにハーフスペースに飛び込み、守備ではリーグ最少失点に抑えた要因であるコンパクトなブロックの中で汗かき役としてハードワークをこなす。かつてのようにアシストを量産することはなかったが、ここ数年ではベストなパフォーマンスを出した。

アストン・ヴィラとニースはサンソンの移籍に際して「リーグ戦半分以上の出場」と「8位以上でのフィニッシュ」の2つが達成された場合、自動的に買い取りオプションが行使される契約を結んでいた。この2つの条件がいずれも揃ったためサンソンは正式にニースの一員となった。ファリオーリが来季からアヤックスの監督に就任するため、この契約条項を挟んでいなかった場合は買い取りが見送られていた可能性もある。ここは首脳陣のファインプレーとも言えるだろう。

DMF:レアンデル・デンドンカー(ベルギー代表)

生年月日:1995年4月15日(29歳)
移籍先:ナポリ(イタリア)
今季リーグ成績:3試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:3試合0ゴール0アシスト
評価:C

今シーズンのワースト移籍はレアンデル・デンドンカーのナポリ移籍で間違いないだろう。冬の移籍市場で出番を求めて昨季のイタリア王者に加入したベルギー代表MFは、怪我での離脱がほぼなかったのにも関わらず、21分間の出場時間しか得ることができなかった。

デンドンカーがナポリに移籍した当初の監督はワルテル・マッツァーリであり、個人的にはフィジカルに長ける選手を好むベテラン指揮官の方針にマッチすると思っていた。ところが加入から1週間足らずで発表されたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントの登録メンバーから外れたことで、序列が低いことを察した。

この予想が悪い形で的中し、2月28日に行われたサッスオーロ戦を最後に出番を与えられることはなかった。あわよくば900万ユーロの買い取りオプションを行使して欲しかったが、それも叶わず、今夏に新たな移籍先を探すことになる。

なお、デンドンカーが再びアストン・ヴィラで出番が与えられることはないだろう。というのも、プレースタイルが驚くほどにチームの戦術とミスマッチな選手であり、ターンや保持で優位性を作れない30歳目前の選手をベンチに置いておくほど無意味なことはない。問答無用で売却するべきだ。

OMF:フィン・アザズ(アイルランド代表)

生年月日:2000年9月7日(23歳)
移籍先:プリマス・アーガイル(チャンピオンシップ)
今季リーグ成績:26試合7ゴール5アシスト
今季公式戦成績:28試合7ゴール5アシスト
評価:S

昨季プリマス・アーガイルをチャンピオンシップ昇格に導いたフィン・アザズは、今季も引き続き同クラブへとローン移籍となった。

今季のアザズの姿はまさに”ファンタジスタ”だった。初のチャンピオンシップ挑戦ながら華麗なターンやタッチで相手選手を出し抜き、ファイナルサードで決定的な仕事をこなす。中でも結果的にアーガイルでのラストマッチになった第26節ワトフォード戦で決めたボレーシュート(上記のポスト)は、クラブの年間最優秀ゴールにも選出される美しいゴールだった。

前半戦だけで7得点5アシストを記録したことからチャンピオンシップのクラブ内で争奪戦となり、1月5日にミドルズブラへの移籍が決定。2021年夏にアストン・ヴィラに加入して以降一度も公式戦でプレーすることなく、250万ポンドの移籍金を残してマイケル・キャリック率いるチームへと去った。個人的にはもう少し移籍金を高く設定してもよかった気がするが、彼のキャリアのためにも地に足をつけてプレーできる環境を手にすることができたのはよかったのではないだろうか。

DMF:ラマレ・ボハルデ(オランダ)

生年月日:2004年1月5日(20歳)
移籍先:ブリストル・ローヴァース(リーグ1)
今季リーグ成績:14試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:15試合0ゴール2アシスト
評価:B

元オランダ代表MFウィンストン・ボハルデを叔父に持つラマレ・ボハルデは、昨季後半戦に続いてブリストル・ローヴァースへとローン移籍した。

ボハルデは現役時代から”悪童”と呼び声高かったジョーイ・バートン監督(当時)から気に入られており、「ラマレを見れば、彼は何でもできる選手だと分かる。彼もまた若い選手だが、大きな可能性を秘めている」と大絶賛されている。一昨季にローヴァースでプレーしたエリオット・アンダーソン(ニューカッスル)と昨季プレーしたジャレル・クアンサー(リバプール)の名前を出して、彼らと同じように優れた才能の持ち主だとポテンシャルの高さに太鼓判を押していた。

今季も昨季と同じように中盤で最終ラインから前線への繋ぎ役としてプレーしていたが、10月末にバートンが監督を解任されると露骨に出場機会が減る。その結果、半年でのローンバックとなった。

CMF:テディ・ロウ(イングランド)

生年月日:2003年10月17日(20歳)
移籍先:グロスター・シティ(ナショナルリーグ・ノース)
今季リーグ成績:18試合1ゴール2アシスト
今季公式戦成績:3試合0ゴール0アシスト
評価:B

8歳からアストン・ヴィラ一筋でプレーしているエドワード・ロウ(通称テディ・ロウ)は、冬の移籍市場でグロスター・シティ(イングランド6部)へとローン移籍している。

キャリア初のシニアレベルでのプレーとなったが、すぐにレギュラーの座を掴むと、退団選手の関係で加入早々に背番号が12から10へと変更。本職は中盤の選手だがサイドでもプレーできる機動力があり、デビュー4戦目では果敢な攻撃参加で1得点1アシストを記録。中でも大外を駆け上がってのファーへのクロスは精度が高くて印象的だった。

ロウのアストン・ヴィラとの契約状況を正確に把握をしていない(公表されていない)ため憶測ではあるが、2022年夏にプロ契約を結んだことから恐らく今シーズン限りまでの契約だと思われる。この仮説が正しかった場合はフリーでの放出となるだろう。

※6/5に契約満了に伴い退団が発表されました

OMF:トミー・オライリー(イングランド)

生年月日:2003年12月15日(20歳)
移籍先:レアル・ウニオン(スペイン3部)
今季リーグ成績:2試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:2試合0ゴール0アシスト
評価:なし

フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)とも比較をされるトミー・オライリーは今年1月に2028年夏までの長期契約を結んで、ジョシュ・フィーニーと同じくレアル・ウニオンへとローン移籍した(詳しくはフィーニーの寸評で記載)。

今季前半戦はU-21チームで無双しており、テクニカルな技術を活かした正確なチャンスメイクでアシストを量産していた。そのためローン移籍先での活躍が期待されたが2月に負傷。4月に復帰を果たしたが、その時はすでに監督がイニゴ・イディアケスから交代となっていたため公式戦2試合の出場のまま今季が終わりそうだ。

実力的にはすぐにでもEFLカテゴリーでプレーできる選手であり、来季のローン移籍先がどこになるのか注目だ。

OMF:リコ・リチャーズ(イングランド)

生年月日:2003年9月27日(20歳)
移籍先:ストックポート・カウンティ(リーグ2)
今季リーグ成績:11試合1ゴール0アシスト
今季公式戦成績:11試合1ゴール0アシスト
評価:B

昨夏にアストン・ヴィラのアカデミー責任者であるマーク・ハリソンらを追ってウェスト・ブロムから加入したリコ・リチャーズは、後半戦を同い年のルイ・バリーが所属しているストックポート・カウンティ(イングランド4部相当)で過ごしている。

アストン・ヴィラのU-21ではサイドでの起用が多かったが、ストックポート・カウンティでは中央で起用され、シャドー的な役割が求められていた。一時はスタメンに定着してフォレスト・グリーン戦ではゴールを決めたが、基本的にはスーパーサブとしての起用が多かった。

その中でチームはリーグ2で優勝を成し遂げ、リーグ1への昇格を果たしている。シーズン途中での加入とはいえ、この体験ができたのは、彼のキャリアの中で重要な瞬間となるはずだ。来季もEFLのクラブへのローン移籍が濃厚だろう。

左WG:チソム・アフォカ(イングランド)

生年月日:2003年9月23日(20歳)
移籍先:ブラッドフォード・シティ(リーグ2)
今季リーグ成績:2試合0ゴール0アシスト
今季公式戦成績:5試合0ゴール0アシスト
評価:C

チソム・アフォカのブラッドフォード・シティ(イングランド4部相当)へのローン移籍は正直なところ厳しかった。

ただ、苦しんだ理由はアフォカ自身にあるというよりも、ブラッドフォードの環境が変わった影響が大きい。というのも。加入当初はプレミアリーグファンの間ではお馴染みのマーク・ヒューズが監督を務めており、獲得に至った経緯は彼の意向が強かったそうだ。

ところが18位に低迷したことで、10月初旬にヒューズが解任されると露骨に出番を失う。その結果、新体制では一度も出番を得ることなく構想外となり、冬の移籍市場が始まった直後にローンバックが決まった。

テディ・ロウと一緒で正式な契約内容を把握していないため憶測にはなるが、恐らく今シーズン限りまでの契約だと思われる。アストン・ヴィラ復帰後もU-21チームで数字に残る結果を残せなかったことから退団になると予想する。
※6/5に契約満了に伴い退団が発表されました

FW

CF:ルイ・バリー(イングランド)
生年月日:2003年6月21日(20歳)
移籍先:ストックポート・カウンティ(リーグ2)
今季リーグ成績:20試合9ゴール4アシスト
今季公式戦成績:22試合9ゴール4アシスト
評価:A

前半戦終了時点でルイ・バリーはベストなローンプレイヤーだった。結果的にリーグ2の優勝&リーグ1への昇格を決めたストックポート・カウンティで点取り屋として覚醒し、第4節からはクラブレコードとなる7試合連続ゴールを記録。すぐに地元ファンの間でアイドル的な存在となった。

しかし、10月末に手術が必要となるハムストリングの怪我を負ったことで長期離脱を余儀なくされてしまった。ただ、通常であれば手術を伴うような大怪我を負った場合はローンバックとなるが、バリーはそのままストックポート・カウンティに残留してラスト5試合で復帰。優勝を決めたアクリントン・スタンリー戦では先制ゴールをアシストし、栄冠を勝ち取る原動力となっている。

バリー本人の中でもベストなシーズンとなり、来季リーグ1を戦うストックポート・カウンティも完全移籍での獲得に乗り出している。すでに地元出身のオーナーが「獲得に向けて交渉中」と明言した。

ストックポート・カウンティのオーナーは資金力があるため完全移籍が成立する可能性もあるが、少なくともチャンピオンシップのクラブとの争奪戦にはなるだろう。ウナイ・エメリのチームで構想に入っていないことから退団は決定的で、移籍が決まった場合は彼の今後のキャリアを温かく見守っていきたい。

総評

昨季のアストン・ヴィラはチャンピオンシップのクラブに対して、プレミアリーグで最多となる9ケースの移籍を成立させるなど、イングランド屈指の育成クラブへと成長している。今季も5ケースの移籍を成立させた。

その中で重要となっているのが「ローンプレイヤー・マネージャー」の存在であり、アストン・ヴィラU-21でのプレーを見て、どのクラブのサッカーに合うのかを見極めてから武者修行先を決めている。監督交代などで失敗に終わるケースもあるが、高い確率で成功を収めているのはそのためだ。

そして毎試合ごとに各選手とフィードバックをはじめとしたやり取りを行っており、2、3ヶ月に一度はアストン・ヴィラのボディムーア・ヒース・トレーニング・グラウンドに訪れてフィジカルテストも行っている。

こうした万全なサポート体制を構築したことが結果に表れている。成功を収めた昨季と今季に続き、来季も若手選手たちの躍動に期待だ。

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