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#18 once apon a time

文;はりけーん(サタンオールスターズ)

「なあ、これあってるか?」

199×年 世界は核の炎に包まれてはいなかったが、我々は当時高校1年生だった。
友人の部屋でヤングマガジンを読んでいた私は、AKIRA最新回は相変わらずよくわかんねーなとか思いつつ、
唐突に渡されたキャンパスノートに目をやった。

ナーキーハッキーハノーシーイー
ガットザフォリカムドントミー マハ
メキャ キッスターマハーアー

何だ?何の呪文だ?

モトリークルーのキックスタートマイハートだ。

俺、今度ボーカルでROXXデビューすることになったんだけどさ。
英語読めねーから耳コピした。
とのこと。

なんだモトリーか。それにしてもカタカナ表記とは。
カッコ良い曲が結構台無しになってないかと思いながらも、
残念ながら友人の学力はおそらく偏差値30台であり、英語力など皆無に等しい。
実際、彼のリスニング経験は、街でマウンテンバイクに乗った白人2人組に

「アナタ、ドコノ高校デスカ?」

「え?○○高ですけど…」

「エェ~ 〇〇高? アッタマいいですねェ~」

と話しかけられたのみだ。
言っておくが、彼は地元では特にスポーツに力を入れている私立高校に所属しており、
スポーツをやらない一般生徒はあまり学問が得意でない、どちらかというと武闘派揃いで有名な学校である。
従って、アッタマいいですね~、は無礼千万、単身丸腰で戸塚水産高校にボンタン狩りに行くようなものなのだが、
褒めて歓心を買うつもりが思いっきり裏目に出たという典型的な外人の失敗を目の当たりにしたのだった。

そんな彼がここまで頑張って耳コピしたのだ。
いやむしろ、この奇妙奇天烈なカタカナ英語をそのまま読んだほうがネイティブに近いんじゃないかという気すらしてきた。
それにしてもボーカルの耳コピとは。ギターならともかく、凄い根性である。
考えてみれば我々は「努力・勝利・友情」のジャンプ世代だ。
キャプテン翼の石崎くん、魁!男塾の富樫源次、
キン肉マンのジェロニモに至っては、人間でありながら悪魔超人サンシャインを声だけで倒してしまうのだ。
カッコ悪くて才能もないけど、根性のみであらゆる困難を乗り超えることが美徳とされてきたのだ。

なんてことを考えているうちに、念願のROXXデビューに向け、ステージ衣装を購入する流れとなった。
行先は三日町、中央ビル地下1階ガンガ。
フロントマンとして、イケてる「バンドTシャツ」を仕入れなければならない。

確か彼のバンドは、モトリー、ガンズアンドローゼズ、エアロスミスあたりのアメリカンロックをコピーしていたはずだが、
何故かNWOBHMの雄、アイアンメイデンのTシャツをチョイスしていた。
まさに「バンT」界のセブンスター、マイルドセブンというべきスタンダードであり、
エディの禍々(まがまが)しさやIRON MAIDENのロゴがとてもカッコ良いことについて全く異論はないが、


それイギリスのバンドだよ


とは言えなかった。
そもそも彼の好みは安全地帯とか鈴木雅之なのだ。
彼にとってはイギリスもアメリカもない。同じカントリーなのだ。

とりあえず納得し、ふと「バンT」の値札に目をやると、


イロンマイデン ××××円


と書いてあった。あまりにも直球すぎるローマ字読みに、一瞬何のことかわからなかった。
類は友を呼ぶ。
IRON MAIDENをイロンマイデンと読むガンガの店長もメーターを振り切った英語力の持ち主だったのだ。
笑ってはいけない。
おそらく店長はかつて鬼畜米英と戦い、死闘の果てに現代の日本を築き上げた偉大なる先人なのだ。尊敬して然るべきだ。
だが、本当に申し訳ないが、当時の我々にそういう気づきはなかった。笑いを堪えるのに精いっぱいだった。

さて、この奇跡の邂逅を垣間見た数日後、いよいよ友人のROXXデビューとなった。
別の友人たちと合流。映画「TOP GUN」で流行った偽物のMA-1ジャンパーと
妙に裾の狭いケミカルウオッシュのジーンズという出で立ちで集合した。
髪型は何故か全員真ん中分けの吉田栄作だ。
MA-1のファスナーの隙間から、DEF LEPPARD や Ozzy Osbourneなどの「バンT」がチラチラと目に入る。
今考えるともう殺して下さいと懇願したいぐらい恥ずかしい恰好だが、
これでやっと黄金聖闘士が全員揃った、というようなワケのわからない高揚感とともに我々はデンデンビルの階段を上り始めた。

もう始まってるぞ、と誰かが言った。
いかにもタランティーノの映画に出てきそうな、入ったら二度と娑婆には戻れない感を醸し出している入口から、
ライブハウス特有のバスドラムとベースの重低音が漏れ出していた。
若干緊張しつつチケットを購入し、自らの心臓とベース音のシンクロを感じながら、恐る恐るドアを開けたその瞬間、
今まで聞いたこともないような大音量が私の体を突き抜けた。

すげえな。これがバンドか。

遠慮がちに後ろの方からステージを覗き込むと、程なくしてキックスタートマイハートが演奏された。
必死で耳コピしたあの曲だ。
緊張のあまりハシりまくって原曲の倍ぐらいのテンポになっていたと思うが、そんなことはどうでもいい。
とにかく会場は凄いことになっていた。

2番目、3番目と次々にバンドが登場。年上の先輩バンドのレベルはとにかく高かった。
トリバンドの演奏に至っては会場の熱気は頂点に達し、
握った拳 力の限り 音の渦の中突き上げ状態と化していた。
まさに「ベストヒットUSA」で見たボンジョヴィの「Livin' on a prayer」のPVそのものではないか…
少なくとも私にはそう見えた。
ちょっとナメていた。バンドすげえ。すげえぞ。

俺もバンドやってみよう…。

ROXXはそういう夢を与える場所なのだ。


それから約30年後の2020年12月26日

もう何度目か忘れてしまったが、我々サタンオールスターズはまたROXXのステージに立った。
足元はBOSSのメタルゾーンから高級ブランドのエフェクターボードへと様変わりし、
ギターも少々上手くなった気がするが、ライブ直前のあの緊張感、
何より少し汚れが浮いている木の床は、高校生でROXXデビューしたあの頃のままだ。
震災、友人の死、パンデミック…
諸行無常の世の中で、30年前と変わらずライブが出来ることは奇跡だ。
心からそう思う。
ありがとうROXX。これからもずっと我々のホームグラウンドでいて欲しい。

(END)

今回は、サタンオールスターズのはりけーんさんにご出演いただきました。

ロックス初期、HR/HMのライブの熱狂具合がすばらしいです。読んでいるだけで熱気で眼鏡曇りそう。

ロックスの昔の写真を拝見したことがあるのですが、時代時代の流行りを反映したお店やライブ、オーディエンスやゆきさんの変化が面白いです。特にゆきさんがケーブルテレビで番組を持っていたあたりの写真なんてもうかわいくてゆきさんLOVE!って感じです。イヤ本当に。

歴史のあるライブハウスは、そうやっていろんなジャンルのいろんな人や音を飲み込んで豊かなハコになっていくのでしょう。

はりけーんさんありがとうございました!サタンオールスターズは現在のロックスライブの稼ぎ頭です!次のライブまた楽しみにしてるよ!みなさんもぜひ見てください。メンバー全員超バリウマです。一度は体験すべき!

次回は2月16日の予定です。期間が短いので、読むイシヤンコーナーにします。読むロックスのちょっとした野望です。お楽しみに!

読むロックスはみんなで作る「読むライブスペース」です。楽器できなくてもOK!スタイル自由!そしてノルマなし(笑)。読むライブやりたい方大募集中!イシヤン又はゆきさんまでよろしく!

みなさんご覧いただきありがとうございました。
よろしければ、ロックスへのご支援、お願いいたします。

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