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ジョージアワインに魅せられて

トルコの隣、黒海に隣接するジョージアという国はワイン発祥の地として近年有名になりつつある。

ワイン造りに8000年の歴史があるという。

赤土で作られた壺の中にブドウを入れて発酵させる「クヴェヴリ製法」は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された。

砂糖や化学薬品は一切使用しない、オーガニックワイン。

旧ソ連の国であるジョージアは、領土の占領や法律によってクヴェヴリ製法で作られるワインが減少傾向にあるものの、国をあげて昔からの製法を守り続けている。

世界最古のワイン製法である。

実はジョージアにつくまで、この国がワインで有名なことを全く知らなかった。

空港に降り立つと、不愛想な入国審査官が待ち構えていた。

パスポートを渡すと、表情を一ミリも変えずにパスポート写真とわたしの顔を見比べてからスタンプをぽんっと押し、それから「ウェルカム」と英語で言いながらやっぱり表情を変えずに小さいワインをくれた。

入国時にもらえるウェルカムボトルらしい。

ラベルには「Gamarjoba Dear Guest」から始まる歓迎の言葉が英語でつづられていた。

"Gamarjoba (ガマルジョバ)” とはジョージア語で ”こんにちは” という意味である。

「ジョージアは美食の天国だから、サイズの大きいパンツが必要になるかもね」とも書いてあった。

入国審査官は今まで訪れた国のどこよりも不愛想だったのに、なんとも粋なギフトだ。

日本と同じ配色の国旗と、全く読めない暗号のような丸っこいジョージア文字に、一気に愛着がわいた。

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ジョージア入国時にもらえるワイン

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郊外では小さなワイナリーを持つ家庭も多く、それぞれホームメイドワインが作られる。

赤い土でつくられた大きな壺を地面に埋め、その中にブドウを入れて発酵させる作り方。

ぶどうの皮や種、ときには枝も一緒に壺の中に入れてしまうというので驚いた。

だから、ジョージアのワインは個体差がとても大きい。

おいしいものは格別においしいし、おいしくないものは何となく飲む手がとまってしまう。

だからこそワインを買うときは宝くじみたいな気持ちでちょっと楽しい。

ジョージアに来てからは毎日ワインを飲むようになった。(以前はもっぱらビールかウイスキー)

もちろんジョージアにはおいしいビールもウイスキーもあるのだけど、今回はワインへの愛だけを書くことにする。

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おいしいジョージアワインと初めて出会ったときの感動は今でも忘れられない。

ぶどう作りが盛んな東側の町「カヘティ(Khaheti)」に訪れたとき、今までの人生で一番おいしい赤ワインを飲んだ。

品種はキンズマラウリ。ジョージアではよく見かける代表的なワインである。

ダークレッド色の上質な自然派セミスイートワイン。

赤ワイン独特の舌に残る渋みと甘さが同時に感じられる不思議な味。

ヨーグルトのようなもったりとした甘さが口の中に広がり、ぶどうの芳醇さが鼻を抜けていく。

赤ワインなのにすんすんと水のように身体にはいってしまう。

思わず目を見開いた。

おいしすぎる。

一緒に食事をしていた友人も口を揃えて「これはおいしい!」と歓喜していた。

キンズマラウリという品種はほかのレストランでもよく飲んだけど、カヘティで飲んだものは段違いにおいしかった。

元々ワインを飲むならいつも白、赤は酔いやすいから苦手だと思っていたのに、その日から赤ワインが好きになった。

しかも赤ワインはお肉に合う。

カヘティは豚肉もおいしいと有名な美食の街で、ぶどうの枝を燃やして焼かれる豚肉の串焼き「ツワディ」という料理が絶品。

キンズマラウリとツワディの相性が最高すぎて、カヘティ滞在中は昼も夜も飽きずに食べていた。

今まで「ワインと食事のマリアージュは~」と誰かに説明されてもいまいち分からなかったけど、こんなにも料理とワインが合うものかと衝撃的だった。

普段住んでいる首都トビリシに帰ったあとも、カヘティで飲んだワインが定期的に頭をよぎる。

同じメニューをトビリシのレストランで食べても「なんか違う」と物足りなさを覚えた。

カヘティのワインと豚肉の串焼きが忘れられない日々が続く。

完全に中毒症状。あれは紛れもなく合法麻薬である。

たまらなく食べたくなって、翌月にもカヘティを訪れた。

ワインをしこたま飲んで、おいしい豚肉の串焼きを食べて「あー、これが幸せそのもの!!!!」と満たされた気持ちになった。

今このnoteを書いている最中も、ワインの味を思い出してジョージアに帰りたくなっている。(実は昨日ジョージアから帰国したばかり、、)

このワインの何がすごいかって、ボトリングされていないのでジョージアのカヘティという街に行き、そのワインを提供しているレストランまで足を運ばないと飲めないことだ。

頼めば5L単位で購入できるのだけど、さすがに日本へは持って帰れない。

ワインの製造者でありレストランのオーナーでもある店主は、厳格で気難しそうに見えるけどワインについて聞くと嬉しそうに話し始め、たくさんテイスティングをさせてくれた。

そのとき、ジョージアに入国したときにワインをくれた入国審査官を思い出した。

一見不愛想なのに、歓迎の言葉と共にワインを渡してくれた審査官。

歴史が深く、愛情の深い国ジョージア。

そこで作られ、守られてきたジョージアワインの味は格別である。

またジョージアに戻れる日を待ちわびながら、東京でジョージアワインを飲めるお店を探そうと思う。

ガーマルジョス!(ジョージア語で”乾杯“)




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