産婦人科② 10/21。
妊娠を告げた瞬間に彼から「堕ろしてほしい」と言われることは、この世に数ある不幸の中で何番目くらいだろうか。
産むか、産まないか。最終的な決断は自分で決めたかったので、彼とは連絡を絶った。
お腹に宿った命は愛おしく、毎日話しかけた。歌を歌ってあげたり、絵本を読んであげた。
「妊娠」「中絶」「シングルマザー」と言ったキーワードを何度検索したころだろう。
世の中には自分と同じ境遇の女性が案外多いことに安心と怒りを感じた。
2度目の産婦人科の受診の際に、中絶の予約を取った。
「彼の意見は変わらなかったの?」という先生。
涙があふれそうな私を見て、先生は「はい、次行こ!また戻ってくるから」と言った。以降は看護師さんが血液検査をしたり、手術にあたっての注意事項を説明したりと、テキパキと対応してくれた。
「また戻ってくるとはどういうことだろう?」
ぼんやりと考えながら、看護師さんの説明を聞いていた。そして、その夜、彼に中絶の決断を伝えた。
なぜ、私は中絶の決断をしたのか。
もしその答えを言葉にするならば「彼を愛していたから」だと思う。
私がシングルマザーの道を進んでいく中で、きっと彼は社会から様々な責めを受けるだろう。繊細なこの人の心は壊れてしまうと感じたのだ。
そして、私は体に無理がきかない。万が一私が倒れた時に、誰がこの子を守ってくれるのだろうか?私の両親は老いた。彼しか思い浮かばなかった。その彼が子どもの誕生を望んでいない。ならば、この子を守ってくれる人はいない。
私は愚か人間だと思う。自分に力がないのに、彼を愛するあまり、きちんと準備もしてないうちに、彼の子を授かってしまった。
だが、本能的に子どもの命を守ろうとする中で、彼を犠牲にしたくない気持ちを捨てきれなかった。
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