実験装置を壊した話と教授の話(1/2)

12月6日〜10日、外部施設に泊まりで実験に行ってきた。
帰ってきてから3日。
色々あって、案の定心がまだ死んでいる。

事実や結果は仕方ないとしても、うちの教授や出張先の教授方への申し訳なさ、
そして何より、自分は「実践」が本当に苦手だなあという絶望をずっと引き摺っている。

行ったのは千葉県のとある研究所。
修了研究のデータを取るのに必要な実験装置…ARPESって言うんだけど…が自分の大学の研究室には無くて、
そこの研究所にうちの教授と親しい教授がいるため、代々実験室を借りて使わせてもらっている。

1回の測定に5~6時間は平気でかかるし、測定のための試料作製にも数時間かかる。
それに一発で上手くいく事などまず無いので、泊まりが必須になる。
毎日23時くらいまで実験して、終バスで最寄り駅のホテルまで戻って寝泊まり、次の日は起き次第また研究所に向かい実験、というブラック企業のような生活になる。

(でも世の中にはそんな生活を1年中強いられるような研究室もあるんだろうな、と思うとゾッとしてしまう)

基本的に作業するのは自分1人、他に学生はいない。
教授は実験操作などの必要な説明と、時々様子を見にきてくれる他は、大体部屋の隅で事務作業をしている。

ただ、この教授が本当に優しいというか頼もしいというか、恐れ多い人なのだ。
まず、絶対に怒らない。困った時はいつも助けれくれるし、教え方も分かりやすい。
学生がもっと作業したいと言っても終バスまでには必ず帰りなさいと言ってくれる。
実験が中途半端だった時は「残りは僕がやっておくから」と代わってくれる。
そして次の日の朝来て先生のとった実験ノートを見てみると、
大抵26時とか27時までやっている。
僕の取りこぼしや、先生が追加で必要だと思った測定も全部やってくれている。
そして次の日は、お昼頃に起きてやってくる。

教授なので学部生の授業も持っているわけで、
今回については対面の学生実験の授業が被っていたので研究所を抜け出して車で1~2時間、大学まで飛ばして授業をやって、終わり次第こちらに戻ってくる、なんてこともしていた。
どれだけ体力があるんだ。
いや、体力のあるなしじゃなくて教授として当然だとばかりにこなしてくださるから、本当に恐れ多い。

なのに僕は、極めて初歩的な不注意で、実験装置をぶっ壊したのだ。

「ここまでやってくれるのに、自分は理解力が無くて申し訳ない。ミスばかりで申し訳ない。頑張って実験を成功させなくては。期待に応えなくては。」

この研究室にいると、そんな風に僕は常々感じる。
能力が無いのは仕方がない。
ならせめて、努力の面では妥協しないぞ。
そう思って、この合宿中は頑張って早起きして、8時〜9時には実験を始めるようにしていた。
(8時からいましたと教授に伝えると「マジで?!」と、逆に心配と言わんばかりの反応を毎回された)

そんなルーティーンを繰り返した4日目、12月9日。
1〜2日目は試料作製のために下準備、3日目から試料作製に入るも中々上手く行かずに迎えた4日目の夕方。
ついに試料の作製が上手くいった。
これは中々良い。教授を呼んだ。
「おお、これは良いね。すぐ測定に入ろう」
そう言い残し、教授は別の仕事があるのかすぐまた部屋を出て行った。

ちなみに、教授が授業のために研究所を抜け出していたのはこの日。
ただでさえ寝不足な上に、教授は大学へ授業して蜻蛉返りしてさっき戻った状態だ。

これを測定すればノルマクリアだ。
既に3日間僕を全力でサポートしてくれている教授を、やっと安心させられる。
僕は夢中で測定の準備を始めた。

僕の実験は、簡単に言うと大きな真空容器の中に試料や沢山の測定装置が取り付けられている。
ミクロレベルの物理現象の実験であるため、1つ1つの部品が非常に精密に作られている。
そのため、試料や装置の位置を内部で動かす時は手順が非常に重要であり、中の様子を確認しながら極めて慎重にならなければいけない。

僕は、実験が上手くいきそうな喜びと焦りで、手順の1つを完全に忘れて試料を動かし始めた。
身近な例えで言うと、歩行者の存在を確認せずに交差点を右折してしまったような状態だ。到着を急ぐあまりに。

突然、装置からゴンッという鈍い音がした。


後半↓
実験装置を壊した話と教授の話(2/2)

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