Dolby Atmosを徹底解説!(後編)
前編ではDolby Atmos技術そのものについて解説しましたが、今回はLive Extremeでの配信方法や再生方法について紹介します。
Live ExtremeでDolby Atmos配信する方法
Live ExtremeでDolby Atmosを配信する場合の技術仕様は以下の通りです。
コーデック: Dolby Digital Plus
サンプルレート: 48kHz
ビットレート: 384, 448, 576, 640, 768, 1024 kbps
チャンネル数 : 最大16/JOC
配信方式: 疑似ライブ配信 (リニア配信), オンデマンド配信
Dolby Atmosでの生配信にはまだ対応していませんが、収録済みコンテンツを使って、疑似的にライブ配信を行うことは可能です。この場合、視聴者は決まった時間にしか視聴できず、かつ全員が同じ箇所を同時視聴することになりますので、ライブ配信と同様の体験を提供できます。
コンテンツの納品方法 (チャンネル・ベース)
収録済みコンテンツをLive Extreme提携プラットフォームを通じて配信する場合、完パケファイルをコルグに納品していただき、コルグがファイル変換、アップロード、プレイヤー設置を担当することになります。
通常のロスレス/ハイレゾ配信においては、Apple Prores (.mov) 動画にLPCM音声を収録して納品していただいていますが、チャンネル・ベースでレンダリングされた音声をDolby Atmos配信する場合も同様となります。音声の納品フォーマットは以下の通りです。
フォーマット: LPCM 48kHz/16bit または 48kHz/24bit
対応チャンネル形式 (ファイル収録順):
5.1.4ch: L, R, C, LFE, Ls, Rs, Ltf, Rtf, Ltr, Rtr
7.1.4ch: L, R, C, LFE, Ls, Rs, Lrs, Rrs, Ltf, Rtf, Ltr, Rtr
9.1.6ch: L, R, C, LFE, Ls, Rs, Lrs, Rrs, Lw, Rw, Ltf, Rtf, Ltm, Rtm, Ltr, Rtr
コンテンツの納品方法 (オブジェクト・ベース)
音声がオブジェクト・ベースの場合は、Apple Proresに収録することができないので、動画ファイルとは別に音声ファイル (ADM-BWF または DAMF) を納品していただきます。当然ながら、音声ファイルは動画ファイルと同期が取れている必要があります。
各再生プラットフォームのDolby Atmos対応状況
ここでは、各再生プラットフォームの Dolby Atmos (Dolby Digital Plus) 対応状況について、特にLive Extreme配信コンテンツを再生することを前提にまとめてみます。(再生方法の詳細はLive Extremeの公式ウェブサイトをご覧ください)
Windows
下の例のようにDolby Atmos対応を謳っているWindows PCであれば、Edgeブラウザ※でDolby Atmosコンテンツを再生し、内蔵スピーカーやヘッドホン、HDMIから出力することが可能です。HDMIからはDolby Digital Plusのビットストリームが出力されるので、AVアンプやサウンドバーでデコードすることになります。
Dolby Atmos非対応のPCであっても、Windows 10以降であれば、下記より「Dolby Access」というフリーソフトをインストールすることで、Edgeブラウザ※からDolby Atmosコンテンツを再生し、HDMIまたはヘッドホン(有料オプション適用時)から出力することが可能となります。
※Live Extremeコンテンツ再生前の準備
EdgeブラウザでLive ExtremeのDolby Atmosコンテンツを再生するには、以下の手順でブラウザの設定を予め変更しておく必要があります。
Mac
macOS 10.5 Catalina以降のSafariブラウザであれば、Dolby Atmosコンテンツを再生することができますが、対応モデル(ハードウェア)が以下のように限定されています。
内蔵スピーカー再生
●対応モデル: 2018年以降発売のMacBookシリーズ (MacBook Pro, MacBook Air)
ヘッドホン再生
●対応モデル: Apple Silicon搭載Mac
●対応ヘッドホン: ヘッドトラッキング対応ヘッドホン
※通常のヘッドホンではDolby Atmos再生ができません
HDMI出力
Live ExtremeのDolby AtmosコンテンツをMacから直接HDMI出力することはできません。HDMIで出力したい場合は、後述のようにApple TV 4KにAirPlayでキャストしていただく必要があります。
Dolby Atmos非対応モデルでの取り扱い
Macは以前よりDolby Digital Plusのデコーダーを内蔵しています(下記リンク参照)。このため、もし上記Dolby Atmosの再生要件を満たしていない場合でも、無音になることなく、Dolby Digital Plus 5.1chとして再生されます。前回の記事に書いたように全てのオブジェクトの音を含んだ信号ではありますが、空間情報は失われているので注意が必要です。
iPhone / iPad
iPhoneは以下のデバイスで、内蔵スピーカー、およびヘッドトラッキング対応ヘッドホンでのDolby Atmos再生に対応しています。(通常のヘッドホンでは非対応)
iPhone XSシリーズ
iPhone XR
iPhone 11以降
また、以下のデバイスは、ヘッドトラッキング対応ヘッドホン利用時のみ、Dolby Atmos再生が可能です。(内蔵スピーカー非対応)
iPhone SE (第2世代)
2018年発売以降のiPad (Pro, Mini, Airを含む)
いずれの場合も、Live Extremeコンテンツの再生には、Safariブラウザを利用します。
Dolby Atmos非対応モデルでの取り扱い
Mac同様、旧モデルにおいてもDolby Digital Plusデコーダを内蔵しています(下記リンク参照)。このため、上記Dolby Atmosの再生要件を満たしていない場合でも、無音になることなく、通常のDolby Digital Plusとして再生されます。
Androidスマホ / タブレット
2018年より各社から、以下のようなDolby Atmos対応のAndroid端末が発売されています。
このような端末では、あらかじめ以下の設定をしておくことで、内蔵スピーカーやヘッドホンでのDolby Atmos再生が可能となります。
ここで1つ大きな問題があります。Androidではブラウザ(webアプリ)からDolby Atmosデコーダーを利用することができないようになっています。この問題に対処するため、コルグでは「Live Extreme Experience」というネイティブ・アプリを無償提供しています。
このアプリでは、Live Extremeの最新ニュースや公演情報の取得のほか、Dolby Atmosを含むデモ音源の再生が可能となっています。また、URLスキームを通じてブラウザからも起動できるようになっているため、既存のウェブページやサービスと連携してDolby Atmosコンテンツを再生することも可能です。
Apple TV
「Apple TV 4K」は、2017年発売の第1世代よりDolby Atmosに対応しています。
HDMIからDolby Atmos出力するために必要な設定は以下の通りです。
尚、Apple TVは立体音響のゲームに対応するためか、立体音響再生時はDolby MATでHDMI出力する仕様になっています。このため、コンテンツに含まれるDolby Digital Plus音声は、Apple TV内で一旦Dolby MAT形式に変換 (PCMにデコード) された上で、HDMI出力されます。
Apple TVにはウェブ・ブラウザが存在せず、Live Extremeの再生アプリも提供されていませんが、MacまたはiPhone/iPadのSafariブラウザでコンテンツを開き、AirPlayでApple TVにキャストすれば、Live ExtremeのDolby AtmosコンテンツをApple TVで再生することができます。
Chromecast
2016年発売の「Chromecast Ultra」、および2020年以降に展開されている「Chromecast with Google TV」はDolby AtmosのHDMIパススルー出力に対応しています。
HDMIからのDolby Atmos出力に必要な設定は以下の通りです。
WindowsやMacのChromeブラウザ、または「Live Extreme Experience for Android」アプリでコンテンツを開き、Google Castでキャストすれば、Live ExtremeのDolby AtmosコンテンツをChromecastで再生することができます。
Fire TV
AmazonのFire TVは、2017年発売以降のモデルがDolby Atmosに対応していますが、「Silk」ブラウザからDolby Atmos出力することはできないようです。Live Extremeの再生アプリも提供されていないので、Live ExtremeのDolby Atmosコンテンツは、残念ながらFire TVで再生することはできません。(ロスレスPCMコンテンツは Silk ブラウザで再生可能です。)
まとめ
以上のように、Live ExtremeでDolby Atmos配信を始めるハードルは決して高くなく、再生も多くのデバイスで対応していますので、配信主催者の方に安心してご利用いただけるのではないかと思っています。
更に、Live Extremeは高音質なバイノーラル・プロセッサである「HPL」にも標準対応しています。Live Extremeの副音声配信機能を利用して、Dolby AtmosとともにHPLエンコードされたロスレス音声 (ステレオ) を同時配信すれば、視聴できない人が殆どいない、究極の立体音響配信を実現することができそうです。