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STB特集(4): Fire TVを攻略する

各社のSTB(セットトップ・ボックス)を主に音質面から検証する記事の第2弾は「世界で最も人気のストリーミングメディアプレーヤーシリーズ※」である「Fire TV」をご紹介します。

※Amazon調べ(Fire TVシリーズの2022年10月~2023年9月の世界販売/出荷台数に関する外部調査機関による調査結果、および内部データによる)


Fire TVとは

Fire TVとは、Amazonが2014年から展開しているSTB(セットトップ・ボックス)で、「Amazon Music」「Prime Video」「Amazon Photos」などAmazon提供サービスはもちろんのこと、サード・パーティによるアプリケーションもインストールすることが可能です。Amazonは、収益をハードウェアではなくサービス側から得るビジネス・モデルのためか、高性能のわりに比較的安価に購入することができます。

Amazon Fire TV (2014年発売の初代モデル)

Fire OS

Fire TVは「Fire OS」という独自のOS上で動いていますが、これはAndroid TVをベースに、

  • オリジナルのユーザー・インターフェイスの導入

  • 独自のアプリストア(Amazon Appstore)の設置

  • Amazonが提供するアプリの標準インストール

したもので、機能的にはAndroid TVと大差がありません。Live Extreme Experienceも、Android TV用アプリと同じ実行ファイルがAmazon Appstoreで提供されています。

バリエーション

初代Fire TVは薄いデスクトップ型でしたが、その後、よりコンパクトなスティック型や、多機能なキューブ型に進化していきました。

左: Fire TV Cube (第3世代) 右: Fire TV Stick 4K Max (第2世代)

セットトップ・ボックス以外への展開としては、以下のデバイスが確認されています。

  • スマートTV(Panasonic Z95A OLED TVなど多数)

  • スマート・ディスプレイ(Echo Show 15)

  • 車載デバイス(BMW, Jeep)

  • サウンドバー(Fire TV Soundbar Plus)

特にサウンドバーは2024年12月に国内初投入を予定しており、今後への期待が高まっています。

Live Extreme Experienceがサポートしているモデル

Live Extreme Experienceは、Fire TVのStickモデル、Cubeモデルのうち、下記の4機種での動作をサポートしています。

  • Fire TV Stick (第3世代, 2020)

  • Fire TV Cube (第3世代, 2022)

  • Fire TV Stick 4K (第2世代, 2023)

  • Fire TV Stick 4K Max (第2世代, 2023)

  • Fire TV Stick HD

尚、本ブログ執筆時点での最新OSは、

  • Fire OS 8.1.2.5: Fire TV Stick 4K (第2世代), Fire TV Stick 4K Max (第2世代)

  • Fire OS 7.6.8.5: Fire TV Stick (第3世代), Fire TV Cube (第3世代), Fire TV Stick HD

であり、以下、特に断りのない限り、上記機種/OSをベースに話を進めていきます。

Fire TV CubeとFire TV Stick、どちらが買いか?

かつてはFire TVの高性能版がCube、廉価版がStickというイメージがありました。しかし、Fire TV Cubeの最新モデル (第3世代) と、翌年発売のFire TV Stick 4K Max (第2世代) を比較すると、CPU性能こそFire TV Cubeの方が上回っていますが、そのほかはFire TV Stick 4K Maxと同水準です。

Fire TV Cube (第3世代) と Fire TV Stick 4K Max (第2世代) の性能比較

一方、Fire TV Stick 4K Max (第2世代) は最新OSに対応しているのが大きく、後述のようにオーディオやビデオ機能も一歩リードしています。Fire TV Cube独自のHDMI入力機能、Alexaのハンズフリー音声操作機能が必要なければ、Fire TV Stick 4K Max (第2世代) を選択した方が、価格も安くおすすめです。

オーディオ性能

Fire TVは、STBの金字塔である「Nvidia Shield TV」に次ぐオーディオ・スペックを誇っており、OSやアプリを適切に設定すれば、Live Extremeが対応するほぼ全てのオーディオ・フォーマット(コーデック、サンプルレート、チャンネル数)を再生することができます。

推奨設定

PCM信号をビット・パーフェクトで出力するために、下記のOS設定を推奨します。これはFire TV StickシリーズでAURO-3Dを再生するためにも必須の設定となっています。

⚙️ (設定) > ディスプレイとサウンド > オーディオ
・ナビゲーション操作音:オフ
・サラウンド音響:自動選択
⚙️ (設定) > ディスプレイとサウンド > オーディオ > オーディオ詳細設定
・音量の自動調節:オフ
・ダイアログエンハンサー:オフ

推奨設定(OS)

ハイレゾPCM対応

Fire TVは最大192kHz/24bit/7.1chのFLACの再生に対応しています。しかも、コンテンツに応じて、HDMI出力のサンプルレートを44.1kHzから192kHzまで任意の値に切り替えることが可能(サンプルレート・コンバーターの影響を受けない)なので、Live Extremeにとって一見理想的なデバイスに見えます。

しかし、実際のところ、5.1ch出力時以外はOS起因の問題を抱えています。

【問題点1】ステレオPCM出力時の強制ダウンコンバート

Fire TVは、Live Extreme Experienceがサポートする全モデルで、OSの仕様(またはバグ)により、ステレオPCMを全て48kHz/16bitにダウンコンバートしてHDMI出力してしまうことが確認されています。同一機種で、5.1chや7.1chのPCMは、オリジナルのサンプルレートや24bitでの出力ができているので、大変奇妙な挙動です。

この問題に対処するため、Live Extreme Experienceのプレイヤー詳細設定には、以下の2つのオプションが用意されています。

・2ch PCM (44.1~96kHz) を5.1chに拡張する
・2ch PCM (176.4~192kHz) を5.1chに拡張する

Live Extreme Experienceプレイヤー詳細設定

これらのオプションは、2ch PCMコンテンツ(48kHz/16bitを除く)を再生時に5.1chに拡張(L/Rチャンネル以外は無音)してやることで、ダウンコンバートを回避するためのものです。

Fire TVがハイレゾ/5.1ch対応のAVアンプに接続されている場合、これらのオプションを有効にすることで、Live Extremeにおける2ch PCM再生の音質を向上させることができます。

【問題点2】PCM 7.1chの出力チャンネル順が不正

Fire TVは、Live Extreme Experienceがサポートする全モデルで、OSのバグによりチャンネル順が間違ってHDMI出力される(サラウンド・チャンネルとリア・チャンネルが入れ替わっている)ことが確認されています。

ただし、Live Extreme Experienceのプレイヤー詳細設定で、

7.1ch PCMのサラウンドとリア・チャンネルを入れ替える

Live Extreme Experienceプレイヤー詳細設定

を有効にすると、プレイヤー内部で該当チャンネルをあえて入れ替えてOSに渡すことができます。これによって、Live Extreme再生においては、この問題を回避することが可能です。

Live Extreme Experience 推奨設定(AVアンプ接続時)

AURO-3D対応

下記のモデルは、マルチチャンネルPCM再生時に、24bitのビットパーフェクト出力ができることが分かっており、AURO-3Dも44.1kHz〜96kHzまで問題なく再生することができます。(「7.1ch PCMのサラウンドとリア・チャンネルを入れ替える」有効時)

  • Fire TV Stick (第3世代, 2020)

  • Fire TV Stick 4K (第2世代, 2023)

  • Fire TV Stick 4K Max (第2世代, 2023)

  • Fire TV Stick HD

不思議なことに、Fire TV Cube (第3世代, 2022) だけは、なぜかビット・パーフェクト出力されず、AURO-3Dの再生ができません。HDMI入力端子があるモデルなので、カーネルミキサーの構造が何か異なっているのかもしれません。

Dolby Atmos (DD+JOC) の仕様は要注意!

Live Extreme Experienceでサポートしている全てのFire TVで、Dolby Atmos (Dolby Digital Plusベース) の再生がサポートされています。ただし、モデルによって再生方法に差があるので注意が必要です。

廉価モデルであるFire TV Stick (第3世代, 2020) やFire TV Stick HDはDolby Atmos (DD+JOC) をパススルー出力可能ですが、最近の上位モデルはパススルーではなく、Dolby MAT (PCM) にデコードされてから出力されてしまいます。

Dolby MATであれば、OSやゲームアプリなどが空間オーディオをリアルタイムに生成・出力できるようになるため、一概に悪いものとは言えませんが、問題はFire TVのDolby MATは5.1.2ch仕様となっていることです。即ち、AVアンプに接続されたスピーカーやコンテンツが7.1.4chであっても、5.1.2chにダウンミックスされて再生されてしまいます。

Fire TVモデルごとのDolby Atmos (DD+JOC) 対応状況

この制限はLive Extreme Experienceをはじめ、Prime Video、Amazon Music、U-Next、Digital Concert Hallなど全てのアプリが影響を受けるため、Dolby Atmos再生を目的として、2022年以降に発売されたFire TVを購入することはお勧めできません

Dolby Atmos (Dolby TrueHD) パススルー対応

Fire TVは、2022年モデルでDolby Atmos (DD+JOC) のパススルーが出来なくなったのと引き換えに、Dolby TrueHD(ロスレス)ベースのDolby Atmosのパススルー出力に対応しました。

Live Extremeは、Dolby Digital Plusだけでなく、Dolby TrueHDベースのDolby Atmosにも対応した世界初の配信サービス(コルグ調べ)ですが、下記のモデルであれば、これを再生することが可能です。

  • Fire TV Cube (第3世代, 2022)

  • Fire TV Stick 4K (第2世代, 2023)

  • Fire TV Stick 4K Max (第2世代, 2023)

MPEG-H 3D Audioパススルー対応

Live Extreme Experienceがサポートする全てのFire TVで、MPEG-H 3D Audioのパススルーに対応しています。MPEG-Hの普及状況を考えると意外にも思えますが、Amazon Music自体が360 Reality Audio配信に対応していることも無関係ではないでしょう。

Live Extreme Experienceのほか、Amazon Music、360 Reality Audio Liveといったアプリが、MPEG-H 3DAの再生に対応しています。

ウェブ・ブラウザ搭載

Fire TVには、STBとしては珍しく純正のウェブ・ブラウザ(Amazon Silk)がプリインストールされています。レンダリング・エンジンには、Google Chromeと同様「Chromium」が採用されているため、PCのブラウザに引けをとりません。

Amazon Silk Browser

Amazon Silkには、JavaScript, MSE (Media Source Extension), H.264/265デコーダー、AACデコーダーなどが搭載されているため、streaming+やvimeoのような一般的な動画配信サービスを利用することができます

FLACデコーダーも搭載されているため、Live ExtremeのPCMコンテンツを再生することもできますが、

  • HDMIの出力サンプルレートは48kHzで固定されている

  • マルチチャンネルPCMの出力はできない

  • Dolby Atmos (Dolby Digital Plus) などの空間オーディオは再生できない

などの制限があるため、Live Extreme Experienceに所望のコンテンツがある場合は、そちらを利用した方が賢明です。

Google Castには非対応

Android TVと異なり、Fire TVはChromecastがビルトインされていないため、Google Castレシーバーとしては機能しません。サード・パーティ製Google Castレシーバー・アプリは存在していますが、互換性の問題があり、お勧めできるものはありません。

ビデオ性能

動画コーデックの対応状況

Live Extreme Experienceで対応しているFire TVのうち、Fire TV Stick 4K (第2世代)、Fire TV Stick 4K Max (第2世代) が最強のビデオ性能を誇っています。Fire TV Cube (第3世代) は上記2モデルと殆ど違いがありませんが、H.264 (AVC) のデコード能力のみ若干劣っています。

Fire TV Stick (第3世代) や Fire TV Stick HD は廉価版のため、フルHDまでの対応となっているほか、AV1やDolby Visionにも対応しておりません。

Fire TVの対応コーデック一覧

オーディオ/ビデオの診断

オーディオ機能もビデオ機能も、結局のところ接続先のデバイス(テレビやオーディオ機器)による制限を受けますが、Fire TVは、

⚙️ (設定) > ディスプレイとサウンド > オーディオ/ビデオの診断

から、接続先の状況を含めた対応状況を表示することができ、非常に便利です。

オーディオ/ビデオの診断

音楽配信サービス対応状況

最後に、Live Extreme以外の代表的な音楽配信サービスの対応状況についてご紹介します。

Amazon Music

Fire TVはAmazonの製品であるため、当然ながらAmazon Musicの再生アプリが用意されています。このアプリは、右上の👤(設定)から

音質 > Ultra HDを有効にする : on
空間オーディオ > 空間オーディオを有効にする : on

と設定することで、Amazon Musicで配信されている全てのフォーマット(ハイレゾFLAC, Dolby Atmos, 360 Reality Audioなど)のコンテンツを再生することができます。

本アプリで唯一残念なのが、ステレオ・コンテンツ再生時のHDMIの出力サンプルレートが192kHzに固定され、48kHzや96kHzコンテンツも全て192kHzにアップコンバートされてしまう、という仕様です。オーディオ的には、HDMIのサンプルレートはコンテンツに一致するように切り替わるのが理想的で、この点は改善が望まれます。

360 Reality Audio Live

360RA配信に特化したソニーのオンラインサービス。Amazon Music Unlimitedでの360RA配信がオーディオのみなのに対し、こちらは映像付きコンテンツを配信しているのが特長です。

もともとiPhoneとAndroidスマホ専用のサービスだったため、ヘッドホン再生が基本でしたが、STBとしてはFire TVのみ再生アプリが用意されています。本アプリはMPEG-H 3DAのパススルーに対応しているため、対応のAVアンプやサウンドバーがあれば、360RAをスピーカーでも楽しめます

360 Reality Audio Live

そのほか

Google Playストアで、以下の配信サービスの再生アプリが提供されています。どちらも、他のプラットフォーム用アプリと同様、ハイレゾ(最大48kHz/24bit)、Dolby Atmos(Dolby Digital Plus)の再生が可能です。

  • Digital Concert Hall

  • Stage+

Digital Concert Hall (左) とStage+ (右)

一方で、以下の配信サービスの再生アプリは残念ながら提供されていません。

  • Apple Music

  • Artist Connection

まとめ

Fire TVは国内で入手可能なSTBの中では、最もポテンシャルがあり、幅広いメディア・フォーマットに対応していてオススメです。特にMPEG-H 3DAのパススルー出力、AURO-3D対応、Dolby TrueHDのパススルー出力などは、特筆に値します。

Live Extreme Experienceとの互換性

OSのバグに起因する問題も散見されますが、Live Extremeにおいては、独自の音質改善オプションによってほとんど問題となりません。唯一残念なのは、最近のモデルでDolby Digital Plusのパススルーができなくなってしまったことで、ここを重視するならば、海外からNvidia Shield TVを取り寄せるか、4Kを捨てて、あえてFire TV Stick (第3世代, 2020) や Fire TV Stick HD にするか、ということになるかもしれません。

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