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藤崎剛人氏による論考「都知事選、蓮舫候補の「二重国籍」問題の事実関係を改めて検証する」について

ファクトチェック歓迎します。
藤崎剛人氏のNewsweek日本版の論考

を拝見しました。
「二重国籍問題」を「改めて検証」という取り組みは大変ありがたいです。但し、事実関係に明らかな間違いや憶測もあるようなので(批判ではなくあくまで応援的立場から)確認して情報をブラッシュアップして行っていただけたらと思うところです。引っかかったのは、主に2ページ目です。


時期の間違い

2017年に蓮舫氏は台湾国籍離脱の手続きを行い・・

とありますが、当時の報道内容に照らせば
・台湾当局への離脱手続きは2016年9月6日
・台湾側の許可証書は2016年9月13日付(蓮舫氏が受領したのは9月23日)
そして、2017年(7月18日)というのは、そうした経緯を記者会見で公表した時期だったようです。

「異例」と主張する根拠が不明

日本国籍の選択宣言を改めてさせるという行政指導を蓮舫氏に行った。これもまた極めて異例の措置だった。

 まず、「国籍選択」で「日本国籍を選択する」と言う手続きには、法務省が出している次の図の通り

出典 法務省「国籍の選択について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06.html より

・「外国国籍喪失届」を出す
・「国籍選択宣言」を出す
の二通りの手続きがあります。

 ここで、外国国籍喪失届の場合は「外国の国籍を喪失したことを証する書面」の添付提出が必要です。これが受理されれば、「外国の国籍があった(以前は、二重国籍状態にあった)」ということを日本の行政側が認めることになります。
 一方で、国籍選択宣言ではこうした書面は不要ですし、今現在、外国の国籍を有すると言うことを示す書面も不要です。
 国籍選択宣言は昭和59年11月1日付法務省民二第5500号通達により、「その届け出があった場合には、明らかに外国の国籍を有しないものと認められるときを除き、届出を受理して差し支えない。」とされています。
 2020年の法務省民事局から日弁連への説明の中でも、

日弁連 調査報告書 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/complaint/2021/210924r.pdf 

と説明されています。「明らかに外国の国籍を有しないものと認められるとき」というのは悪魔の証明です。ここにトリックの仕掛けがあります。
 厳密に言えば義務対象者じゃない人であっても、出せば受理されてしまうのです。
 「行政指導」というとなんだか大袈裟に感じます。ここは推測ですが、
外国政府の証明書が必要になる「外国国籍喪失届」は、台湾当局の証明書では受理できませんよ。
・どうしても「国籍選択手続きをした」という形を残したいならば「国籍選択宣言」なら、外国政府の証明書なし受け付ける手続きなので、蓮舫さんの場合も出せば受け付けできますよ。
というくらいの説明だった、のではないでしょうか。

「大きく報道された政治問題」だから扱いが違うわけではない

一般的に台湾出身者が日本国籍を取得する際、法務省の裁量として台湾籍の離脱手続きを提出させることもあるようだが、蓮舫氏のケースのように大きく報道された政治問題となると話は別であり、法務省は台湾の国籍離脱証明書を受け取れなかった。

 ここは、(外国人と言う立場の人が対象の)「帰化手続き」と(日本国民と言う立場の人が対象の)「国籍選択手続き」とで、そもそも扱いが異なることを、藤崎氏は見落としていると思われます。
 通常帰化の場合は、手続きする当事者は「外国人」であり、このケースでは、日本の役所は台湾当局発行の国籍離脱証明書を受けつける。
 しかし、既に日本国籍がある人が、外国国籍を有する証明として台湾当局発行の証明書を出そうとすると、日本の役所側は受けつけない。これは、「蓮舫氏のケースが大きく報道された政治問題だから」ではなく、一般人でも同じことです。
 日本人が台湾に帰化手続きをしても、台湾側の国籍証明を受け付けない。⇒国籍法11条1項の外国国籍の志望取得の際の日本国籍喪失届も受け付けない。だからこそ次の記事のような扱いにもなる。

 この扱いは、遡れば、昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答(日本加除出版「親族、相続、戸籍に関する訓令通牒録」7綴9225頁に掲載)に

(昭和49年10月21日付戸1976号那覇地方法務局長照会)
「日中国交回復後に帰化したとして台湾政府発行の帰化証明書を添付した国籍喪失届の取り扱いについて」
 日中国交回復後に中華民国に帰化したとして台湾省政府発行の帰化証明書を添付し国籍喪失届があった場合の取り扱いについて、このたび別紙証明書を添付して国籍喪失の届け出がなされたが、該証明書により中国国籍を取得したものと認め、所要の手続きをすべきかどうかにつきいささか疑義がありますので、何分のご指示を得たく、照会いたします。

(昭和49年12月26日付法務省民五6674号民事局長回答)
本年十月二十一日付け戸第一、九七六号をもって照会のあった標記の件については、不受理として取り扱うのが相当と考える。

(要旨)
・日中国交回復後に帰化したとして、台湾政府発行の帰化証明書を添付してされた国籍喪失届は不受理として扱うのが相当である。
(編注)
参考・日本人が外国への帰化など自己の志望によって外国籍を取得したときは、日本の国籍を喪失するものとされている(国籍法第11条第1項)。そして、その場合には、当該日本人当事者を戸籍から除く必要があるため、本人、配偶者又は四親等内の親族に国籍喪失の届け出義務を課している(戸籍法第103条)。
 本先例は、日中国交回復後に帰化したとして台湾政府発行の帰化証明書を添付してなされた国籍喪失届は、不受理として取り扱うのが相当であるとしている。

日本加除出版「親族、相続、戸籍に関する訓令通牒録」7綴9225頁より引用

 日本国民が「台湾当局の籍」を志望取得した事実があっても、それを「外国の国籍」の志望取得(国籍法11条1項)からの日本国籍喪失とは扱わないと言うことを示したもので、この扱いは、半世紀にわたって続いている。
 繰り返しますが、「大きく報道された政治問題」だから受け付けないと言うわけではないです。

 これはとりもなおさず、一律に「台湾当局の籍」が「外国の国籍」と扱われるものではないことを、如実に物語っていると言えるでしょう。

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