見出し画像

ピットと宝石の少女/短編小説

こんにちは、小夏です。
突然インスピレーションが湧いて、キーボードを走らせると何となく物語ができたりするものです。

。。。と、いうわけで出来立てホヤホヤ。
何だか不気味な物語が出来上がってしまいました。

タイトルは「ピットと宝石の少女」
サクッと3分くらいで読めるので、息抜きにどうぞ。

Start-------------------------------------------------------------

ピットは拾った本をペラペラとめくっていると、おぞましい挿絵が入っているページにたどり着いた。

怖い顔をしたおじいさんが美しい宝石を手にとって、少女に売りつけようとしている。
どうしてそんなにおぞましいと感じたのかわからないが、ピットはその絵を見入っていた。

ピットは目線の先にキラリと光るものを見つけて、地面に目を向けた。
手であたりを探ると、小さな光る石を見つけた。
「さっきの絵の中の宝石と似ているな」とピットは思った。

その時、後ろで声が聞こえた。
「あの宝石はどこにやった」

さっき絵の中にいたおじいさんが、女の子に攻め寄っていた。
その手には宝石を持っていない。

ピットはとっさにその宝石をポケットに隠した。
おじいさんは女の子にさらに詰め寄る。

「お前は悪いやつだ、痛い目合わせてやる。その宝石を出すんだ」
女の子は体を揺さぶられ、混乱している。

ピットは思わずその二人の間に入った。
「やめろ!何するんだ」

おじいさんを押さえつけるように体を抱え、女の子をかばった。
おじいさんの力は思った以上に弱々しい。

女の子は落ち着いたようだ。
その瞬間、女の子がピットのポケットに手を突っ込み、おそらく宝石を取り上げて逃げていった。

「え?」
一瞬のことで、ピットは理解ができなかった。
振り返った時、すでに女の子は走り去っていた。

おじいさんが声を張り上げた。
「ほら!逃げられたじゃないか!ばかもん。さっさと追わんか!」

切り裂くような声にピットの体がビクッと反応した。
とっさに「はい!」と返事すると、全速力で走り出した。
女の子が向かった方角を向いて追いかけていく。
角を曲がってまっすぐ進むと、青空マーケットが開催されている広場に出た。

「そもそもここはどこなんだ」

あのおじいさんは誰なんだ、どうして女の子は逃げたんだ…。
ピットは賑わう町を見渡しながら、見失った女の子を探していた。
広場を抜けた道沿いで途方にくれていた時に、あの時の女の子が顔を出した。

「こっちに来る?」
そう呼ばれてついていくと、近くの家に招いてくれた。
女の子の部屋だろうか、小さな部屋に通されてソファーに腰をかけた。

「急にごめんね。でも君はだれだい?」
ピットは女の子に聞いた。
女の子は笑みを浮かべながら、目の前の椅子に座って話してくれた。
あの宝石を手に取りながら。

「私はカノン。さっきは助けてくれてありがとう」
「カレンちゃんだね、僕はピット。
 君はおじいさんから宝石を押し付けられていたね。なのに、どうして僕がその宝石を持つことになって、それを盗んだりしたんだい?」
「私、本当はこの宝石が邪魔だったの。だけどおじいさんが『これを使え』ってしつこかったから困っていたのよ」
「そう、邪魔だったんだね。それはどうして?」
「さあ。私この宝石と相性が良くて、この宝石を持っているとみんなと違って、別の声が聞こえるようになるの」
「別の..声?」
「そう、声ではない声」
「それは何を言っているの?」
「いろいろよ。声の主によるわ。木や鳥や犬は、それぞれ別の声でおしゃべりしているの」
「なるほど、君はその宝石を持つことで、植物や動物の声を聞けるようになるんだね」
「そう、他にも」
「他にも..?」
「空とか」
「空?」
「雲からも声が聞こえることがあるわ」
「それはどんな会話をしているのかな?」
「嵐になるとか、風がくるとか」
「なるほど、天気の話だね」
「でも最近、太陽が出なくなるっていうからそれを伝えたら、あのおじいさんが怒ってしまって、『もう一度会話しろ、太陽を出し続ける方法を聞きだすんだ』って怒るのよ」
「そうゆうことだったのか」
「うん」

ピットはようやく部屋全体を眺めた。
土壁に小さな絵が飾られていて、素朴でかわいらしい部屋だった。
「それは困ったね。あんなに怒鳴りつけることもなかったろうにね」
「あなたが来てくれて助かったわ」
ピットは我に返った。どうして自分はここにいるのだろう。
もう何かが思い出せない。今日はどうしてあの通路に出歩いたんだろう。

「それはよかった。どうして僕はあそこにいてたのか忘れちゃったんだけど、君を助けることができて嬉しいよ」
カノンはまた笑みを浮かべてこちらを見た。

カノンは温かい紅茶をピットに渡した。
そこからたわいのない話をしていると、夕焼けが空一面に広がっていた。
それは強烈なオレンジ色で、どこか寂しげだった。

「そろそろ帰らないと」
ピットは反射的にそう言ったが…でも、いったいどこに?

カノンが話しかけた。
「今日は私が帰ろうか?」
「え?ここは君のうちじゃないの?」
「一応今はね」
「じゃあ僕が帰るよ」
「でも、どこに?」
「えっと…」
ピットは言葉が詰まった。記憶が出てこない。
カノンはおもむろに立ち上がって、宝石をピットの顔の前に出した。

「手、出して」
カノンに言われるがまま、ピットは手のひらを上に出すと、そのまま宝石を受け取った。
「次はあなたの番」
そういうとカノンは、ドアの前まで歩いていった。
ピットは唖然としたまま、ソファーに座っていた。
「ちょっと待って、どうゆうこと?」
ピットがソファーから立ち上がった時、カノンが振り返った。

「宝石を握りしめて、話しかけたいものに話しかけるだけよ。
 でも決して彼らの機嫌を損ねてはダメ。何をしでかすか、わからないから。太陽は月を破壊した人間が許せなくて、もう出てこないと怒ってしまったのよ」

そう言い残すと、カノンはドアから出ていった。
ピットは急いでカノンを追いかけて部屋を出たが、見当たらない。

「おい!」
建物を出たところで呼び止められた。
カノンをいじめていたおじいさんだ。

「お前、太陽になんていった!さっさとあの話はなかったことにしろ。月なんてもう不要なんだから、仕方がないだろう」
「待って、それはカノンがすることで、僕も彼女を探しているんだ」
「何のことだ、言い逃れはするんじゃない。お前はこの本の住人なんだろう、潔く諦めるんだ。この続きはこれから書かれるんじゃ。結末は全てお前にかかっておる。さあ、うまくやるんじゃ。さもないと…」

突然だ。
突然あさが来た。ベットの上で目が覚めた。
土色の壁にシンプルな部屋。どこからか朝食のいい香りが漂う。
隣の部屋からだろうか….。

「そうだ、おじいさんに月の話をしないと」
ピットはそう思った。
「太陽に嫌われると、この世界はきっとまずいことになる」
朝食もろくに取らず、急いで家を出た。
水平線に登る太陽はやっぱり不機嫌そうだ。
ピットは宝石を手に取り、そこに意識を向ける….太陽に向かって、昨日の月のことを話さなければならなかったのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。こうやって日々感じたことを、つらつらと書いています。よければ、コメントや感想をお願いします。