『じゃあね』

じゃあね、と
じゃあね、が
輪郭の曖昧な言葉になって
交差点の右と左に
君と僕を引き離していく
ちょうど今日と昨日を
引き離していくのと
同じように

それから夕暮れが
一瞬だけ静止して
思い出したように遠くから
「また明日ね」と君の声
僕は横断歩道を
こっそりと三連符で跳ねた

会えなくなる日を
想像する力なんて
持てずに
持たずに
繰り返していた
名前の無い行為

じぁあね、と
じゃあね、は
くしゃくしゃになったレシート
ポケットの中で忘れられた
鮮明ではない記憶の記録

真っ昼間の彗星みたいだったね
存在していたのは確かだけど
本当は見えていなかったんだ
多分夕焼けの中に落下して
溶けてしまったのだろう

あの場所で跳ねた三連符も
きっと溶け込んでいる
そう考えれば
なんであんな色をしているのか
わかる気がしたよ

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