大人になってRomance.2

「付き合ってすぐのうちは、喧嘩してなんぼだよ。」
私の好きな平成を代表するYouTuberが言っていたこの言葉通りにしなかったからだろうか。
特段大きな喧嘩や衝突がなく、波瀾万丈というよりは落ち着いた恋愛道中を通ってきた私たちは、あの日の私の粗雑で幼稚で乱暴な言葉にお互いに戸惑いを隠せなかった。私も含まれていることには注意してもらいたい。

きっかけは些細なことだった、ドラマや映画の脚本でよく使われるこの言葉に特に意味はない。ここぞとばかりに言いたかっただけだ。
いつものように彼がうちへ来て、当たり前のように私が作ったご飯を食べ、
まるで自分の家かと言わんばかりにゴロゴロと寝そべり携帯をいじっていた姿を見て、つい問うてしまった。
「ねえ、私のこと好き？」

わかっている。そんなこと聞くもんじゃない。ここで欲しかった答えが返ってきたとて嬉しくないこともわかっている。どうせ言ってしまうなら、
もっと可愛く言えばよかったこともわかっているのだ。

「好きだよ？当たり前じゃん。」
いつもと違う空気を悟ったのか、携帯をいじる手を止めて私の方を見た。

「じゃあどうしてあんまりメッセージを返さなくなったの？
どうして電話も誘わなくなったの？
どうして遠出もしなくなったの？
どうして可愛いとか好きだよとか言わなくなったの？
好きじゃなくなったからじゃないの？」
止まらなくなってしまったこの口を、千と千尋の世界に迷い込んで湯婆婆に結んでしまってもらいたい。

「なんていうか、言わなくてももうわかるかと思って。8年だし。
一緒にいる時間が長いからきゅんきゅんとかもないっていうかさ。
それがいいと思ってたし。」

イミガワカラナカッタ。私にとって愛情表現は、わかるわからない、伝わる伝わらないの問題ではなく、そう思うから言ってしまうくらいの、東京03の漫才を見て思わず笑ってしまうくらいの、そういう類の話なのだ。
なのに彼は、イッタイナニヲイッテイルノダロウ？

「そうゆう問題じゃなくない？そう思ってないから言わなくなったり、
やらなくなったんじゃないの？もう8年だよ？」

「だからそうじゃないって。俺だってちゃんと考えてるよ。今日はもう疲れてるからさ、明日でいい？」

まあたしかに、そこまで言わなくてもよかったんじゃない？私？とは思う。
でもなぜだか無性にイライラしてしまったのだ。その言葉やテンション、態度に。そんな飄々としていられるのも今のうちだと言わんばかりに、冒頭の大きめのジャブをいきなり打ち込んでしまった。
10秒か、1分だっただろうか。短い空白のようなものが流れて、彼は戸惑いながらも何も言わずに、私の部屋と私を後にした。急に全てがからっぽになってしまったような、変に体が軽くなってしまったような、そんな感じがした。