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「暴力の歴史」エドゥアール・ルイ原作、トーマス・オスターマイアー演出、シャウビューネ劇場:無意識の差別、加害者と被害者の交錯

フランスの小説をドイツの劇場で舞台化した演劇作品「暴力の歴史」。人種差別や同性愛差別などを、4人の俳優と1人の演奏家が、舞台上の大きなスクリーンを背景に、描き出す。「東京芸術祭2019」の一作として上演された。

粗筋を読むだけで、見るのがつらいだろうと予測がつく作品だ。実際は、確かにつらいが、時折、観客から笑いが出るなど、ユーモラスな演出もあり、驚いた。

舞台上の巨大なスクリーンには、舞台上で(おそらく)リアルタイムで撮影している映像も流れる。俳優たちが自ら大道具・小道具を移動させることで、舞台は街や室内、田舎道、過去の回想の場面などに変わる。

登場人物がマイクに向かって話したり、少し踊ったりもする。ダンスでは、身のこなしが軽い。

ドイツ語上演で、日本語と英語の字幕がスクリーンに出る。ドイツ語は「ハロー」「ありがとう」「失礼します/すみません」くらいしか知らないが、俳優たちが全員、非常に芸達者なのはよく分かる。

原作の内容も、演出も、演技も、全てがとてつもなくハイレベル。演劇にはいろいろあっていいのだが、「演劇とはかくあるべき」の一種の最高峰のように思った。

ラストで、主人公の青年が「ピースサイン」をしているリアルタイムのモノクロの映像がスクリーンに大写しになったとき、顔面を殴られたような衝撃を受けた。

何だこれ!すご過ぎる!!

公演では、この作品に伴い制作された冊子『暴力を考えるノート』が配布されていた。さまざまな書き手による「暴力」についての考察が掲載されている。

主人公が追い詰められ、加害者となる相手に「ゲームをしよう」と持ち掛けて、相手が激怒することなどには、「上から目線」が露呈してしまった、無意識の差別が垣間見える。

当然、事件において、加害者が悪く、被害者は悪くない。しかし、この劇は、被害者の無意識や戸惑い、加害者の苦悩や弱さも容赦なく描こうとする。

事件の被害について主人公から聞いた警察官や主人公の姉が好き勝手に解釈して「語り直し」てしまうのに対して、主人公が「これは私の物語だ!(This is my story!)」と叫ぶ場面が印象深い。人はそれぞれの視点からの物語を持っていて、それを互いに共有するのはいいが、人の物語を奪って変えてしまうのはいけない。それは、人を作り変えようとする暴力に等しい行為だ。

傑作かもしれない。今の時代に、多くの人に見てもらいたい舞台だ。

公演情報

原作 エドゥアール・ルイ著『暴力の歴史』(2016年)
演出 トーマス・オスターマイアー

英語タイトル:"History of Violence"

独仏翻訳 ヒンリッヒ・シュミット=ヘンケル
トーマス・オスターマイアー、フロリアン・ボルヒマイヤー、エドゥアール・ルイによるドイツ語での初演翻案

出演 クリストフ・ガヴェンダ、ラウレンツ・ラウフェンベルク、レナート・シュッフ、アリーナ・シュティーグラー

演奏 トーマス・ヴィッテ
演出助手 ダーヴィッド・シュトエル

舞台美術/衣装 ニーナ・ヴェッツェル

音楽 ニールス・オステンドルフ

映像 セバスティアン・ドュプィ

ドラマトゥルク フロリアン・ボルヒマイヤー

照明 ミヒャエル・ヴェッツェル

振付 ヨハンナ・レムケ

製作 Schaubühne Berlin
共同製作 Théâtre de la Ville Paris, Théâtre National Wallonie-Bruxelles and St. Annʼs Warehouse Brooklyn

初演 2018年6月

<来日公演>
上演期間:2019年10月24日 (木) ~10月26日 (土)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス

チケット:
一般S席:前売5,000円
一般A席:前売4,000円
(全席指定・税込)


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