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【長編小説】さよならが言えたら#2

【キャラクター説明】
[桜空]
15歳。一年前の夏祭りの日、事件に巻き込まれて両親を亡くす。近藤に引き取られ彼の営む剣術道場で暮らすようになる。
[総司]19歳。近藤の剣術道場に居候している。
[近藤]剣術道場を営んでいる。
[すみれ]近藤の妻。医療担当。
[敬助・三哉]
桜空と総司の友達。近藤の剣術道場に通っている。

[あらすじ]
 近藤から、総司と二人で夏祭りに行くことを勧められた桜空。しかし、夏祭りにトラウマを持つ桜空は、行くかどうかを悩んでいた。そんな桜空に総司がかけた言葉は……。


【本文】

「二人で行きませんか?俺は、桜空と一緒に行きたいのですが。」
 一緒に。ただの言葉のあやだ。そうに決まっている。総司さんは私に対してどんな感情を抱いているのか、私には分からない。でも、深い意味はないのだろう。そうわかっていても、うなずいてしまう自分を止められなくて。
「……、ぜひ、い、一緒に……?」
 総司さんは、とても楽しそうに笑った。

 あと三日後に迫った夏祭り。日に日に近づくにつれて、行くと決めたことを後悔しだした。
やっぱり、怖くなってきたのだ。あの日、一人取り残された恐怖が、また襲ってくるのではないかと不安に駆られる。
「知ってるぅ?なんか、夏祭りの一番最後、一番大きい花火が上がった時に手をつないでいた恋人は、永遠に一緒にいられるらしい、っていう言い伝えがあるんだよぉ。」
 稽古の合間、敬助さんが話しかけてくる。一番知りたかったような、知りたくなかったような情報。
「どういう、事、ですか。」
 どんな反応をしたらいいのかわからず、素っ気なく返事をしてしまう。それでも、敬助さんは楽しそうに話を続ける。
「えぇ?みんな知ってるよ。桜空ちゃんが、総司のことが好きだってこと。」
 確かに、私は総司さんのことが。でも、誰かに言った覚えはない。どこから漏れた。おかしい。
 何で知っているんだ、と目線で問いかける。
「あー、見てたらわかるよ。たぶん、誰が見てもわかると思うな。まぁ、でも総司は例外かなぁ。総司って結構鈍感じゃん。そういうとこ。」
 見てたらわかる、か。そんなにあからさまだっただろうか。
「まあ、置いといて、二人で、夏祭り行くんでしょ。楽しんできなよ。」
 そんなことまで知られているのか。プライバシーとやらはどこに行った。
 三日後の夏祭りに想いを馳せて、うつむく。
 夏祭りの一番最後、一番大きい花火が上がった時に手をつないでいた恋人は、永遠に一緒にいられるらしい、という言い伝え。そもそも手をつないだことすらないのだから無理に決まっている。ため息が漏れた。
「お、総司。稽古終わったのぉ?」
 噂をすれば、というのか。総司さんが稽古を終えて戻ってきたらしい。
「桜空に、敬助。何の話をしていたのですか?二人だけの秘密の話でしょうか。」
 からかうように笑う総司さん。こういう時に何とも言えない気持ちになるのは、自分の気持ちに素直になれないからか。
「あのねぇ実は、……。」
「な、ななな、何でも、ないです……!」
 目線がじりじりと下がる。恥ずかしさと申し訳なさと。何が正しい感情なのか、自分にも分からない。目が自分の足をとらえた。震えている。悪くなかったと、そう思いたい、ただそれだけ。
 ぽん、と頭に何かが乗る。びくりと無意識に肩が跳ねる。頭の上に載っていたのは、総司さんの大きな手だった。
 しかし、すぐに離れていく。
「総司?」
「……、いえ。何でもありません。」
 しきりに後ろを確認している。何かあったのか。
心配だ。ただ、心配だ。背中を、得体の知れない何かに触れられているような、気持ちの悪い感覚に陥る。
 また何か、何かが起きるような。そんな気がした。

[告知]
次回!
 総司と夏祭りに行くことになった桜空。
 二人きりの夏祭りデートの行方は!?
 さよならが言えたら#3 お楽しみに!
 

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