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たまたま読んだ本3:「書籍修繕という仕事」 歩んで来た書籍と持ち主の人生への思いやり、その追憶を修繕していく繊細な感情と確かな美意識と技術

書籍修繕という仕事

書籍修繕?
第一印象は、こんな仕事があるのか?
古文書の修復か何かと思い、手に取った。

ところが、まったくその通り、本の修繕だった。
修復でも、復元でも、補修でもなく、
書籍修繕家として著者は胸を張っている。

書籍の修繕にかかわるきっかけや、
修繕した書籍のエピソードなど、結婚アルバムを含めて
23種類の書籍が紹介されている。
写真などもあり、イメージしやすい。

文章が柔らかい。
書籍に対する愛情だけでなく、
その書籍が歩んできた道のりや
その書籍に支えられてきた持ち主の思いや
人生にいたるまで著者の思いやりが伝わってくる。
韓国語で書かれた原文の味を
十分に伝えるように翻訳もずいぶん丁寧になされているのだろう。
落ち着いた雰囲気をまとい、読んでいて気持ちのいい文章だ。

著者は韓国の美術大学で、純粋美術とグラフィックデザインを学び、
アメリカの大学院でブックアートと製紙を専攻した。
大学図書館付属の「書籍保存研究室」で、
書籍修繕のノウハウを学び、3年半、1800冊の蔵書を修繕した経歴を持つ。

韓国に帰国後、2018年にジェヨン書籍修繕をオープンする。
 
不思議なのは、いったい、書籍修繕がビジネスとして成り立つのか、
そういう見通しがあったのかということだ。
実はなかったらしい。

紙の本が電子化され、スマホや端末で読む時代に、
ましてや韓国は日本でもたつくDXの先進国だ。
書籍に対する愛情もよいが、この事業は苦労するだろうな、
先行き危ないのではないかと、余計な心配までしてしまう。

「え? 本を修繕するんですか?」
一番多く受けた質問らしい。
韓国でも書籍修繕というとあまり認知度はない。
でも予約が増え、今まで149冊の書籍などを修繕し、
今も25冊ほどの本が何か月先まで修繕を待っているという。

どの本も世界に一冊しかない希少書籍なのだ
という緊張感を持って仕事しているという著者は、
修繕の依頼を受け付けるに当たり、
修繕方針などを相談しながら、
依頼人のその書籍とのかかわり方などに配慮し、
尊重しながら作業を進めるという。
本の落書きやメモもできるだけ残し、
その本の持つ持ち主との歴史を大事にするという。

本を大事にするといっても飾るための本ではない。
読まれ、使い込まれて、その人の人生にとって、
今後も使い込まれる重要な歴史の語り部なのかもしれない。

そんな本を、修繕したくなる本を人生に1冊は持ちたいものだと思う。


書籍修繕という仕事
―刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる
出版社名:原書房
発行年月日:2022/12/20
ページ数:232ページ
定価:¥2,000+(税)

著者プロフィール
ジェヨン
傷んだ本を修繕する「ジェヨン書籍修繕」作業室代表。書籍修繕家、
ブックアート専門家。
韓国の美術大学で純粋美術とグラフィックデザインを学ぶ。
2014年、アメリカの大学院に進学しブックアートと製紙を専攻する。
指導教授の勧めで、大学図書館付属の「書籍保存研究室」で働きながら
書籍修繕のノウハウを一から学ぶ。
3年半で1800冊の蔵書の修繕を担当した。
帰国後、ソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」を2018年2月にオープン。
書籍修繕家として本だけでなく紙類(しおり、フォトスタンド、ポスター、LPジャケットなど)全般の修繕に携わっている。

翻訳
牧野美加(まきの みか)
韓国語翻訳家。訳書に『ショウコの微笑』(共訳)、
『オルレ:道をつなぐ』(共訳)、『仕事の喜びと哀しみ』、
『希望ではなく欲望:閉じ込められていた世界を飛び出す』
(以上クオン)、
『サイボーグになる:テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』(岩波書店)などがある。


トップの写真:タイサンボク

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