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見えてきた「見えない生きづらさ」 LITALICO研究所OPEN LAB#4 スカラーシップ生レポート

社会的マイノリティに関する「知」の共有と深化を目的とした、未来構想プログラム「LITALICO研究所OPEN LAB」

10月31日に第4回講義 わたしたちは何を「見て」いるのか – ユニークな身体と自己肯定 を開催しました。

以下では、同講義の「スカラーシップ生」によるレポートを掲載します。

OPEN LABスカラーシップ生とは
・障害や病気、経済的な困難さがあり、参加費のお支払いが難しい方
・本講義に対する学びの意欲が高く、明確な目的を持って参加できる方
を対象にした、公募・選抜制での参加枠による受講生です。スカラーシップ生は、同講義に無料で参加(遠方の場合は交通費を一定額まで支援)、講義終了後に「受講レポート」を執筆します。

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見えてきた「見えない生きづらさ」 

「わたしたちは何を『見て』いるのか」というテーマは、「『見えない』生きづらさ」を抱える当事者側からすれば「理解されやすくてうらやましい」の思いもあるが、反面、それゆえの生きづらさを知ることでもある。

可視化された「生きづらさ」は、支援の側からはわかりやすさがあり、アピールもそれほど苦とはならないと思われる。

だが、当事者でしか抱えていない「生きづらさ」の共有がほぼ不可能であることは「見えない生きづらさを持つ者」と同じなのだろうか?

この疑問の解決・解決のヒントを得ることが今回の参加の目的である。

一人目の登壇者の石井氏は「ユニークフェイス」という生きづらさを抱える人生。

彼の挙げた「3大困難」である、1)いじめ(虐待)2)恋愛・結婚、3)就職差別は、正に共通点ともいうべき「生きづらさ」である。

根本的な違いは、ユニークフェイスは「隠すサービス」により社会問題からは切り離す処置の可能な生きづらさであることと、露呈することで一生涯背負ってしまう生きづらさであることだと思わされた。

そして、石井氏は「社会問題」としてメディアへの露出を通じ、存在を社会へ発信することを生業としており、問題の解決へと尽力されているとのことであった。

石井氏は自身そして他の当事者の生きづらさとその解決に向けてを「言語化」することが可能であることから著書『顔面漂流記』の出版へとつなげ、今後の展開を図る現在を過ごされている。

しかし、「見えない生きづらさ」を抱える者の場合、特に私の周囲においては、専門的知識を有しなかったり、言語で症状を伝えることも困難な当事者が多く、私自身もいったい何をどう表現することで生きづらさを伝え、そして理解につなげられるのかが不明である。実に研究者や支援者泣かせなのが、精神面での生きづらさを抱える当事者である。

今回の講義後に石井氏と少しお話をするチャンスを得たが、上記の困難が共通であることから、私の所属するYPS・横浜ピアスタッフ協会と何かができるのではと持ち掛けたところ、「ユニークフェイスは外にでることをそもそも拒む」とのことであった。

解決したい共通事項はあっても、解決に向けリアルの場を持つことが困難である。外に出られるということは、いかに自分自身を克服したかのバロメータでもあり、石井氏の発信力に期待し、1日でも早い協同での解決テーブルに着く日を作りたい。

2人目の登壇者である藤岡氏は「吃音」に向き合い、家族やクラスメイトとの体験を通じ、克服したかのような生き方となったが、現在では「ちゃんとどもろう」と思うことで周囲に対しても「吃音で悩んでいる」と宣言。結果、驚かれることもなく、本人が思うより大きな問題ではないと認識されているとのこと。

おそらくは、誰しもが何らかの機会にそうなってしまうことがあり、その頻度が多いだけ、と周囲の理解を得られているのではないだろうか。私自身、流暢に・堂々と話をすることができるのを誇る機会もあるが、もちろん、言葉に詰まることもあれば、同じ音を何度も繰り返し吃音同様の状態になることもある。

頻度が多いこと=生きづらさとなるのは、伝えることに関しての「障害」となりうるからであろう。

伝わっているのか、が伝える側にあり、なかなか伝わらないな、が聴く側にあるのだ。

しかしながら、誰しもが伝えることに関しては困難さを感じており、その内容も様々で、「吃音」は聴いていて明らかであるため、伝わりにくさが生きづらさに直結するのであろう。

人間である以上、人間の中で生きていくうえでの手段の一つはコミュニケーションである。

受信→処理→発信の繰り返しがスムーズであるほど良質なコミュニケーションとされるようだが、発信の部分で不充分が生じることで受信にも影響があり、処理にも支障をきたしかねない。

つまり、スムーズなコミュニケーションの障害という点で精神面での生きづらさを感じる人達(私自身を含む)と同様であると思われる。

また、発信がうまくいかないことで他人とのコミュニケーションを取りづらい生き方へシフトしていくことも同様であると思われる。

藤岡氏にも講座終了後に個別にお話を伺ったが、周囲の理解の大切さが重要な要素として挙げられた。

このことは、よけいに石井氏そして精神面での生きづらさを感じる者の課題として浮き上がらせた。

その解決に向かうため=リカバリーとして、発信者であり続けることをこれからも続けていく必要がある。

3人目の登壇者、伊藤氏の講義からの前に、ちょうどweb記事にて彼女の新著『記憶する体』に関してのインタビューを読む機会があり、専門研究分野の「美学」をより高いレベルで理解することができた。このことを踏まえたうえで、以下、述べていく。

産業革命以降、「障害」は医学的に取り除くことで解決とされたが、1970年代より、社会の変化が解決するという、医学モデルから社会モデルへ変化した。さらに2010年代からは、美学や当事者研究からのアプローチによる解決が主流になってきている。

社会とは、対立ではなく、フィードバックし合い、相互に含み合うものと認識し合うことでより善く生きられる世の中になっていく。

さて、伊藤氏は「体」を通してが、「美学」は何たるかの研究なのだろうか。生きづらさを考えるうえで、伊藤氏の「ちょっとした言語不信から始まる学問」は、言語化したくても言語を知らない、言語に頼れない(専門家や支援者の言いなりであることを含む)、言語を使えない困難を持った精神での生きづらさを抱える者こそが研究対象であってもおかしくないように思われる。

講座終了後、いまひとつ腑に落ちない点を感じたが、上記のインタビュー記事を読むことで、具現化できた。

伊藤氏は同じインタビュー記事において「人間関係が固定化し、障害者が障害者を演じなくちゃいけない社会なんて、誰にとっても幸せとは言えません」と語る。

私は、ここでいう「障害者」を身体に限って欲しくない。

見えない生きづらさを持つ者として、見せたくはないし見て欲しくはない思いを持ちながらも、「手帳」というある種免罪符のようなパスポートを使いたがる私自身も存在している。

一見、矛盾のようだが、これも伊藤氏の大事にしたい考えである「一人の人間の中の多様性」なのである。

そして私の中での「生きるための美学」でもある。

他人から見ることができるから感じる生きづらさ。

それによって生じる「見えない生きづらさ」。

社会とのかかわり方を考え、発信する当事者が増えていくことが、その解決への近道であることをさらに確信し、専門家・支援者の協力はそのためにあるという考えへのシフトチェンジのスタートラインに立てた。

まだまだ、考え方の確立のみで実行レベルに移すには、であろうが、少なくとも発信に関しては周囲に恵まれていることもあり、今後も継続していけるであろう。

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LITALICO研究所OPEN LAB#2 スカラーシップ生
佐藤 孝 (さとう たかし 50代男性)

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プロフィール:
・昭和40年代生まれ
・北海道出身・現在神奈川県民
・28歳の時にうつと診断され、10年後に躁が入っていることも判明
・40歳のときに手帳取得
・仕事も車も家族(妻)も失い、絶望しかけるが、「欲の塊」であることを 思い出し、「なりたい自分」になる=「リカバリー」にむけ、横浜ピアスタッフ協会=YPSのメンバーに。
・心理テストライターとしてTV番組で採用された実績あり
・就労移行支援事業所「LITALICOワークス」元利用者

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LITALICO研究所OPEN LAB

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第9回 それぞれの孤独を携えて、私とあなたが隣に「居る」こと


食事をする、仕事をする、恋をする、式をあげる…何かを「する」ことで得られる日常のささやかな喜び。

その裏側でそれぞれが抱える痛みと孤独。

「わかりあえる」という期待と「わかりあえない」という諦め。

決して重なりきらない別々の人生を生きる私たちが、それでも共に「居る」ということ。

LITALICO研究所OPEN LAB、シリーズ最後の講義です。

ゲスト
家入一真さん 株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO
尾角光美さん 一般社団法人リヴオン代表理事
東畑開人さん 十文字学園女子大学准教授

2020年3月24日(火) 19:30〜22:00

次回講義は、完全オンライン配信での実施となります。

チケット販売サイトPeatixよりチケットをお求めください。


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