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地域工務店は営業利益に目を向けよう

地域工務店の方々と話をしていく際にはよく『適正な粗利益は何%か』という議論になる。

売上高-原価=売上総利益(粗利益)

私の知る限り、工務店の粗利益は18%~40%まで様々な設定がある。

ひとくくりに粗利益と言っても、原価に含まれる内容が違う(計算方法が違う)場合がある。現場監督など工事に関わる社員の給与は原価に入れるのが建設業のセオリーではあるが、地域工務店の多くは一般社員と同じく販売費・一般管理費(販管費)に入れる形を取っている。理由は、決算年度ごとの収益が分かりやすいから。年間の施工棟数や仕掛工事の状況によって現場経費が増減してしまう関係で、単純な粗利が見えづらくなるのである。(なお、上記の工務店の粗利益は現場監督などの人件費は入れていないものである。)

上場している大手ハウスメーカーは建設業としての原価計算に基づき、現場管理費を原価に入れているので、開示している粗利率は低い。その代わり、営業利益はおよそ5~8%と良好な水準にある。おそらく地域工務店の計算方式で行くと粗利率は30%超だと推察される。そして大手ハウスメーカーと言っても収益構造様々。飯田GHのようにローコスト住宅を販売している場合は営業経費をかけないように各地方の不動産会社と業務提携をして販管費を抑えていると思われる。また積水ハウスはプレハブ住宅を工場で生産しているので固定費はかかるが一定の量があると収益性が高まる。なお、大手ハウスメーカーの売上総利益(粗利益)は住宅以外の事業も含まれているため、純粋に住宅事業のみの正確な数字は不明である。

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1.地域工務店の適正粗利益は何%か

ずばり、地域工務店の適正粗利率は大手ハウスメーカーの計算方法で言うと23%程度(地域工務店の計算方式で30%程度)そして販管費が18%で営業利益が5%というのが一つの形だと考えている。(数値だけでみると丁度上記タマホームの決算状況に近い。)

尚、これは営業・設計・インテリアコーディネーター・現場監督・経理総務人事がすべて揃っている工務店のケースであり、設計部門や施工部門を持たない営業会社の場合は営業利益率10%は確保したいところである。

2.なぜ地域工務店が営業利益に目を向けるべきか

粗利設定は業績に大きなインパクトを与えるので押さえておきたい数値であることは間違いない。しかしながら、地域工務店は営業利益にこそ目を向けるべきであると断言できる。

理由1.1棟あたりの人件費がかかりすぎているかもしれない。

理由2.あまりにこだわった住宅は営業赤字になる可能性がある。

理由3.ファミリー経営の場合は販管費の内容を理解しておく必要がある。

以上の3点が重要ポイントだと考える。理由1と2は連動しているのであわせて説明するが、いかに粗利が高くても生産性が低いと赤字になる可能性がある。1棟の家造りをするのに、打合せが10回のお施主と30回のお施主では、かかってくる人件費が違うのである。理論値で行けば3倍の人件費負担分+利益をもらわないと合わない。通常10回の打合せで1棟の家造りが出来るのだとすると、30回の打合せをした施主は3棟分の利益をもらわなければ合わない。当然ながら住宅が高級化すると打合せの数は増える可能性が高い。地域工務店のなかには住宅単価を上げていく動きがあるが、この戦略にはそれに相応しい社内スキルと仕組が備わっている事が前提であり、すべての地域工務店に高級化戦略が適しているとは思えない。それよりは、中高級(アッパーミドル)の1棟当たり25~30百万円の価格帯のお施主様に対して自社の強みを磨き上げた戦略を立てていく方が健全なケースもある。他にも、1棟当たりの単価が大きくなりすぎると事業規模によってはリスクにもなり得る。住宅はクレーム産業ともいわれ、シリアス型のリアルな事業であるので、なおさらではないだろうか。

地域工務店の多くは非上場・大株主兼経営者である。この場合、役員報酬・役員賞与をはじめ役員への生命保険、接待交際費などに健全性を持たせておく必要もある。コンプライアンス上問題なければ何も言われる訳ではないが、会社は社会の公器であることを忘れてはならない。また企業の継続性・収益性をはじめ社員のモチベーションにもかかわりかねない大きな要素となるので、決算書の内容、特に販管費の内容はお施主に見せても問題ないような形が望ましい。この販管費の使い方で営業利益が左右されるのは言うまでもないので、ある意味経営者の資質が問われる。

以上から、キャッシュフローなどと共に営業利益に目を向けた健全かつ戦略的な経営を確認されてみてはいかがだろうか。

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