午前0時51分

とある夜、同僚から会社のslackに、深夜このような写真が送られてきた。

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唐突で意味が分からなかったが、
「これをネタにストーリーを買いてほしいというフリでしょうか?」
と聞いたら、「Yes」のスタンプが押されたので、ストーリーを書いてみました。

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彼氏からLINEにメッセージが来たのは、午前0時51分だった。
なぜ正確に覚えているかというと、スクショをとったからだ。
どうしてそんなに自分が冷静でいられたのかは分からない。
とっさに、自分の指が動いたのだ。
「カシャッ」と乾いた音が鳴った。

その音は私の耳にしか届かないくらい、そのバーは、金曜の夜ともあって賑やかだった。カウンターには、7人ぐらいの男女がグループで集まっていて、シャンパンをボトルで飲んでいた。誰かの誕生日をお祝いをしているみたいだった。カウンターのグループを除いては落ち着いたバーという感じで、壁には羊の角が描かれたペインティングがかかっていた。

私は、ミックスナッツを食べながら、ロン・サカパというベネズエラのダークラムをストレートで飲んでいた。家にも同じボトルを置いているのに、わざわざバーに来ても飲んでいるなんて、我ながらつまらないと思うけれど、いったん好きになると、飽きるまで同じものを飲んでしまう。

メッセージが来て、すぐウエイトレスが来た。
「こちらマルゲーリータ、ラージサイズです」
私は一瞬慌てて顔を上げて、「あ、ありがとうございます」と言った。
そして、間もなく健がトイレから戻って来た。
健は大学のゼミで一緒だった同級生だ。
「お、ピザきたね、こんな時間だけれどお腹が空いちゃって」
そういうと、健はナイフでピザを切り分けてくれた。
「私は小さいので大丈夫だよ」
自分でもその声が少しだけ震えていたのが分かった。
健は、ピザから目を離して「ん、大丈夫、なにかあった?」と聞いた。
「ううん、何もないよ、大丈夫。ちょっと今日仕事が忙しくて疲れたみたい」

彼氏から来たLINEには、こう書いてあった。
「今日も楽しかった、ワンピースとても似合っていたよ。また来週楽しみにしているね!」
私の彼氏と見知らぬ女が写っていて、後ろにはベッドがあった。
それはホテルの部屋であると一目で分かった。
今週は、広島に出張だから会えないと聞いていた。

彼氏と会ったのは、先週の土曜日だった。
一緒に映画を見に行って、タイ料理を食べた。次の日は朝早くゴルフに行く予定があるからと言って、いつもより早めに切り上げた。彼は、私の家まで車で送ってくれた。特に変わった様子はなかった。少なくとも私はそう思っていた。

健はピザをあっという間に平らげて、ビールのお代わりをオーダーした。
私も同じラムをオーダーした。
それが飲み終わる頃には、2時を回ろうとしていた。
「そろそろ行こっか」と健は言った。
「そうだね」
お会計を済ませて、外に出た。
風が強く吹いていて、頭の中にふんわりしていたラムが頭の中で高速に回転し始めた。

タクシーを捕まえて、目黒に向かった。
健は一人で目黒に暮らしている。
タクシーの中で、メッセージが来た。
指値で入れていたビットコインが3240ドルで決済されたという通知だった。
私はチャートを開いた。

そこには、現在のプライスの数字があって、24時間で何パーセント上がったという数字があって、自分の資産はいくらになったという数字が並んでいて、それらの推移を示すチャートがあった。

それを見て、私は大きく深呼吸した。
資産が増えていたからとかそういうのではない。
ただ、なんといえばいいのだろう、数字が並ぶ世界に癒された感じがした。
風がタクシーの少しだけ開いた窓から入り込んできた。

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