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綺麗な色のグラスで乾杯を。

私は広海さんと水の入ったグラスで乾杯をした。
ある目標を立てそのスタートと達成を誓ったのだ。


その少し後にSNSで、目標を達成したと想定して乾杯を先にしてしまう「予祝」というちょっと面白い投稿を読んだ。

あ、これやりたい。

広海さんとは定期的にお会いしていた。
カフェで会話をしている時間は有意義で穏やかな気持ちにもさせてくれた。
わたしはこの「予祝」の話をしてみたら、
興味があるとおっしゃってくださったのは
今年の3月初旬の話である。

調べてみると予祝は古くからあるそうで、桜のお花見も五穀豊穣を祈り前祝いをするとその通り叶うという歴史もあるとも言われている。
予祝で引き寄せることは日本的なもので決して怪しい謎めいたことではないのかも知れない。

この「先に乾杯する」という場所に相応しいのは大人が行くようなバーだと思った。
わたしは今までそんなお洒落なバーに行ったことは一度もないので、ほんの少し憧れもあった。

近いうちにできたら…
そう思っていた。


その提案をしてからほどなくしてマスクなしでは街中を歩くのも人が集まるカフェで誰かと会うことも控えたほうがいい風潮になってきた。
広海さんとお会いするのはもしかしたらしばらくないかもしれない。
そんなことを思いながら向かったオープンカフェの日射しの暖かさとはらはら舞う桜を今も憶えている。

その日を最後に広海さんとはオンラインでしかお話ができないままである。
オンラインがあるだけでも便利な世の中にはなったけれど、やはり画面越しというのはどこか物足りなさがあった。
会話が途切れると何か話さなきゃ、と感じてしまう。
話すことがなくなったらすぐにオフラインになってしまうのではないか。
そしてオフラインになった瞬間に突然訪れる空白。

カフェでの無言の時間を埋めてくれるのは周りの空気や誰かの会話、コーヒーカップの静かな雑音だったし、広海さんのちょっとした仕草や帰りに一緒に駅へ向かう道が好きだった。
誰かと直接会うという温かさ、同じ空間を感じるということは自宅でパソコンに向かって話している時とは比べ物にならない。


あの提案を広海さんはまだ憶えているだろうか。
いつの日かなんの不安もなく自由に人と人が会える世界が戻ってきたら、
今度は水の入ったグラスではなく
綺麗な色をした飲み物のグラスで広海さんと再会する喜びと共に「先に乾杯をする」という、ふたつの乾杯をしたいと思っている。

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