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2度目のソウルで。【旅のおすそわけ】 #001

ちょうど1週間前の今頃、わたしはソウルにいた。

屋上のあるホテルで缶ビールを飲む、という最高に幸せなひとときだった。ぶらりひとり旅。

韓国へおじゃまするのは3回目。去年、釜山へ行ってきたけれど、はじめてのソウルは20代のとき。この十数年でソウルの印象もだいぶ変わったように思うけれど、おそらくソウルサイドもきっと「キミこそ、だいぶ変わったんじゃない?」というだろう。なんてったって、あっという間にわたしも40歳。想像していた以上にフッ軽な40代になっていることは、我ながらたいそううれしいことである。

「ところでソウルになにしにいってきたの?」

友人に尋ねられ、はて、なにしにいってきたんだっけ? と考える。

光と影がきれいだなぁ、とか。

交差点の近くにパラソルおくの考えたひと天才、とか。

横断歩道は方向違いで2本がスタンダードなのね、とか。

でも結局はおかまいなしに歩くのな、とか。

街中から山が見えるなんて知らなかった、とか。

観光バスにも乗ってみたいな、とか。

暑くてもカラッとしてるのはうれしい、とか。

そういうのを感じながら「散歩してきた」というのがいちばんしっくりくる。ソウルへ行く4日前、写真家の幡野広志さんによる写真のワークショップへ行ってきて、散歩が余計にたのしくなったようだ。

被写体とおしゃべりするつもりでシャッターをおすと、現像しながらそのときの気持ちを思い出せる。それが本当におもしろい。

「君たちは、いつからそこにいるの?」

これまで、編集者という仕事柄、プロと働く機会があることがハードルになってしまっていたというか、写真のことも、料理のことも、もっといえばこういう文章も、なぜか手を出しちゃいけないような気がしてきた。でも、そんなことはむしろ自意識過剰なことで、なにをそんなに気負っていたのだろう、と今は思う。

そんなわけでこのnoteの写真は、写真がたのしくなってから撮影したもの。これからは写真も料理も文章も、とびきりの趣味としてもっともっと楽しく付き合っていきたい。ワークショップの話もきっとまた別の機会に。

さて、ソウルの話に戻ろう。

韓国にはおいしいものがたくさんある。 
どこの国へ行っても旅の一食目はいつだって気合いが入る。

しかし、この十数年ですっかり胃弱になってしまったわたし。最近は「一日二食」がひとり旅のスタンダードである。一食、一食、大切に選んでいかねば。しまっていこう。よし、ここはわたしにとって「韓国といえばあのひと!」の and recipe・小池花恵さんが教えてくれたPildong Myeonok(ピルドンミョノク)へいくぞ。


人気店ゆえ相席になり、ちょっときまずいなぁと思っていたところ「日本人ですか?」と話しかけてくれた斜め向かい側に座る韓国人青年。「そうですよー!」と伝えると「ぼくの彼女も日本人なんです」とテレビ電話中の彼女を紹介してくれた。

遠距離恋愛中でもいっしょにごはんを食べるなんて、とってもいいね。と、英語で伝えたものの、いま、すこしでも韓国語を話せたらきっともっとたのしかったよなぁ、と。

とてもかわいいカップルでキュン。いつかどこかでふたりに再会できたら、次こそなれそめを根掘り葉掘り聞けるように、まずはハングルを読むところから。

ゆで豚のおすそ分けも。「おいしいから、どうぞ」ってシンプルでそのままだけど、いい言葉だなと思った。うれしい相席をありがとう。

平壌冷麺を食べ終わった頃、「多分いろんな人におすすめしてもらってると思いますが、ここはぜひ行ってほしいというお店が!」というLINEをくれたのが、こちらもまた「韓国といえば」のあのひと、編集者・北川編子さん。

えー! コングクス(豆乳スープで食べる冷たい麺料理)ですか。食べたかったのです。しかも、おすすめのお店は宿のすぐそば。ツイてる...! というわけで……

濃厚だけど、それは豆のうまみ。味つけ自体は濃すぎないので、キムチを混ぜながらいただく。初回訪問にして『晋州会館』(=このお店)が近くにあるよろこびを感じ、次回も同じ宿に泊まりたいぞと思う。

ちなみにこちらのお店、席に座った途端にクレジットカードを求められ→会計→コングクスが自然に出てくる。というか、たぶん、お昼はコングクスしか出てこない。

「詐欺だったらどうしよう?」とはじめは驚いたのだけど、まわりのお客さまもクレジットカードを渡してるし、付箋にテーブル番号を書いてクレジットカードに貼り、レシートといっしょに返してくれるし、むしろ明朗会計&韓国語が話せなくても大丈夫! ひとり旅にもおすすめのお店。ケンチャナヨ!

旅に出ると、小さな個人書店をまわるのがお決まりになってきたわたしだけれど、今回は時間がとれず。行きたかったお店には行けなかったけれど、大型書店『教保文庫 光化門店』で約2時間、じっくり本の世界に浸かる。

近くにあるソウル図書館もまたとっても素敵で。本屋⇆図書館 in ソウルのコースもまたわたしにとっては神がかっていた。

あとは、ソウル中央市場でごま油を買ったり、東大門総合市場でイブルマットを選んだり、問屋街(黄鶴洞厨房家具通り)で食器を探したり。

韓国語をまったく話せないわたし。papago(翻訳アプリ)で価格交渉したら、はじめは無愛想だったお店のかたも「3月に直島へいってきたよ」と草間彌生さんのキーホルダーを見せてくれて、最終的にふたりで「日本にもまたきてね」「韓国にもまたきてね」「papago、カムサハムニダー!」と笑い合い。いい買いものができた。この日は万歩計が23800歩を記録。よく歩いたし、よく笑った。

そうそう、愛用しているアルマイトざるの、ゴールドも発見して歓喜。今回、韓国の食器を少しだけ仕入れてきて、TSUNDOKU BOOKS で韓国本と一緒に並べている。お店にいらっしゃる方、ぜひ、手にとってご覧ください。

扉を開けて右側のエリアに置いています。


2泊3日はあっという間。
あとは何を食べて帰ろう?

スーツケースにしのばせてきたなかしましほさんの『ソウルのおいしいごはんとおやつ』をひっぱりだす。カメラマンの衛藤キヨコさんから「とってもいい本が出来そうだよ」と聞いていたので、発売になってすぐにゲットしていた本。相変わらず、キヨコさんはいい写真を撮るなあと眺める。

この本の中で、むしょーに惹かれていた南大門の「野菜ホットク」、よし、これを食べに行こう。

なかしまさんがいうならまちがいない! と思ってはいたものの、実際に食べたら想像以上に好きになってしまった...。最後に塗ってくれるの、たぶん人をトリコにしちゃう魔法のたれ。

ガイドブックも、おすすめも、本当にほんとうにありがたい。

でも「だれかのおすすめで埋め尽くさない」が旅の(いや人生の)モットーでありまして「自分の好きをさがす」がいちばんおもしろいところだと思っているから、そこは本来ひとにわたさないほうがいいよね、と思っているほう。

もちろん、信頼できるひとのおすすめはまちがいないから行きたいし、ぜんぶ本音で、ぜんぶバランスの話なのだけど。

なので、最後の夜は「ここ、わたし好きそう!」の嗅覚のみで突撃することにした。にぎやかな明洞の道から1本奥に入った場所にある焼き肉屋(明洞ソソカルビ)へ。

ドラム缶&立ち食いスタイルなのに、お店のかたがていねいに焼いてくれる。メニューは骨付きカルビひとつ、飲みものはセルフ。韓国ではメニューがひとつ、という店になぜかよく出会うけど、潔くてとてもよいなと思う。ごはんやキムチは持ち込みOKみたい。

やっぱりいちばん思い出に残っているお店はここ(と、ややどやっておりますが、テテやチョナンカンもきてたり、老舗で有名みたい。それもいいじゃない)。

お店の方は日本語が上手で「写真、撮ってあげるよ!」と撮影してくれた。この旅で唯一、自分の写真。とてもうれしそうな顔をしていた。

帰りがけ自分のバッグからゼリーを出して手に握らせてくれたり、まるで親戚のおばちゃんみたいだなぁとうれしく。きっと、かならずまたいくお店。

wi-fiをピックアップし忘れたり、T-moneyカード(韓国の交通系ICカード)や現金を持っていき忘れたり、そもそも1週間前にフライトを予約したいきあたりばったりの旅でしたが、「いってよかった」の言葉に尽きる旅になった。

コンユにも会えたし。
リジョンヒョクもいたし!
はじめましての緑豆将軍にもひとめぼれである。

2度目のソウルともお別れ。飛行機の窓から、ほかの飛行機をぼんやりながめるのは、わたしにとっては至福の時間。さて次はどこへ行こうかな? それはまるで映画の予告編のごとく。

がんばって働いたお金がすべてフライト代へ、文字通り「飛んでいく」ようなわたしの生活ですが、これからも働いては、どんどん旅に出て、こうやって勝手に旅の思い出をおすそわけをしていけたらな、と思う。

ソウルはほんとうにパワフルな街だった。
わたしもまだまだやれる気がしてくる。


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