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断ち物屋日誌01

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※「断ち物屋日誌(マガジン)」は
この漫画↑の登場人物・黒良部鏡助によって
書かれたブログ形式で進みます。
BL要素が苦手な方はご注意を……

以下より、本文スタート↓


◆2018年9月19日「春日井コーポ」

二日酔い。
眠い。だるい。
昼過ぎに目が覚めて
万年床でうだうだ朝飯代わりに煙草吸ってたら
神屋(かみや)から入電。

「雅さんが春日井コーポいっちゃったんですよ!」
だからなんだ
「僕は留守番してるから行けません。お願いしますよ!」
ピイピイうるせぇな
こっちはお前の小間使いじゃねぇんだぞ

舌打ちして電話切った後、
徒歩圏の春日井コーポに向かう

いやほんとはルンルンなんだわ

先週は仕事がくっそ忙しくて山奥の廃墟で
断ちまくってたら1週間経ってたから
雅ちゃんに会うのも1週間ぶり

二階建てコーポの203におよそ似つかわしくない
品のいいスーツ来たスラッとした後ろ姿
見つけた時はニヤついた

入り口で案の定固まってたんで
襟首ひっつかんで引っ張りついでに
目の前の「アレ」を大鎌で断った

「何回言ったらわかるかなぁ雅ちゃん
 春日井コーポ
 生きてる人は誰も住んでないから♡

 騒音クレーム出してる方も
 騒音出してるのも死者だから
 どんくさいなぁもう♡」

って顔近づけたらめっちゃ抵抗された

「貴様どうしてここに?!」

「神屋から電話あったから
 チャンスと思って♡
 助けに来たよ♡」

大事なことなんではっきり書き残して
おきたいんだけど
雅ちゃんさぁ、怒って抵抗する顔
めっちゃかわいいんだよ
そしたら羽交い締めにしたくなるっしょ?

だから部屋に連れ込むよね?
だってそこに新品の畳の間があるじゃない?
押し倒してどうこう出来そうじゃない?
こんなチャンスなかなかなくない?

チャンスを掴めるのは
掴む覚悟のあるヤツだけだ、とか
誰か言って無かったっけ?
言って無いか
その点俺は、いつでも頂く準備も覚悟もあるわけよ
だから押し倒すよね?

「やっと二人きりになれたね」って
雅ちゃんを押し倒して顔近づけようとしたら
ああもう最悪っつうか

クソ春日井コーポ

ここさあ、管道(くだみち)っつうか
世間でいう「霊道」みたいのが通って
渋滞起こしてんだよね

渋谷のスクランブル交差点の往来みたいに
「遺魂」が
この春日井コーポ横断してんだわ

あ、「遺魂」ってのは
死者が「場」に残した執着とか後悔の
残留思念っていうか
まあ、無念の塊みたいなもので
一般的には「幽霊」とか「霊」って
言われてるヤツね

その「遺魂」が往来してる
渋谷のスクランブルのまん中で
俺が雅ちゃん押し倒してたりしたら
そりゃ目立つよねって話しで

あいつら「見る」よね
すっげー見るよね、凝視よ凝視
間近で見るよね
空気読まないよね
死んでるやつってそういう遠慮無いとこが
嫌いなんだよ
こっちにもプライバシーつうのが
あるっつうの

「鏡助、どけ…!」

5センチの距離で見てくる奴らを
にらみ返してたら
雅ちゃんにめっちゃ怒られた
俺別に見られてするのは嫌いじゃないけど
雅ちゃんが嫌ならよくないよね
何事も初めては大事にしないと…

「雅ちゃん、このコーポどうすんの?
 心理的瑕疵物件として貸し出す?」

「まだ誰も入居してないんだろ?
 それがどうして
 心理的瑕疵物件になるんだ?」

「今そうじゃなくてもいずれそうなる。
 建てた場所がご愁傷様
 オーナーはどうしたいって?」

「……そういえば……建ててる時に入院して以来
 なかなか連絡がつかないんだ
 一応契約上、管理は任されてるんだが
 家族からはまだ貸さないで欲しいって
 言われてたような…」

「めちゃくちゃ障ってるねぇ
 正直貸したらめっちゃクレーム来るよ
 見たでしょさっき」

「……ただの目の錯覚かと……」

「どこまでも信じないねぇ 
 そういう頭の固いところ、
 嫌いじゃないけど」

「信じて無い訳じゃない
 ちゃんと信じてる、違うからな…!」

急に大きな声出したからびっくりして

「わかった」としか返せなかった

さて問題は春日井コーポだよ

相手は渋谷のスクランブル交差点だからね
一体ずつ断ってくには
俺一人の手には相当余るし
時間もかかる
鍵森不動産の持ち物件じゃないなら
まあこれはこのままでもいいかな

「こんなとこに家建てた方があれだよなぁ…」

って呟いたら

「そんなに酷い場所なのか?」

って雅ちゃん、キョトンとしてるから
この鈍感力と純粋さは
もはや愛しさを通り越して
国の天然記念物として大事に保護されるべき

と思ってたら腹の虫が鳴った

「夕飯…松屋でよければおごるけど」

「嬉しいね。雅ちゃんと一緒に
 食べるんならなんでも美味しいよ」

「せっかく来てくれたし……」って
雅ちゃんがうつむくから

「見えないものに鎌振り回しただけの
 俺に優しいね」って言ったら

「だけだなんて思ってない…!
 俺には見えないが……そのお前のやってる
 断ち物の仕事とか、遺魂のことは信じてる
 否定してるわけじゃないからな…!」

困った様に眉をしかめて雅ちゃんが
言うので

ああ
「ちゃんと信じてる」っていうのは
「俺と俺の仕事を信じてる」って意味
だったのかって気がついたら
こう胸の奥がホワッと温かくなったから
胸に手を当てて

「これが恋ってやつ?」

って言ったら
また「はぁ?」ってきょとんとしてたから
伝わらなかったみたいだ

鈍感オブ鈍感を口説くのは
まだまだ時間がかかりそうだよ

本日の断ち物「1体」
場所:春日井コーポ
アドバイス:
建物建てる前に土地はよくよく調べた方がいい

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